狂信者の狂気その2
カンベル軍務卿には失礼な事をしてしまった。大隊へ嫌がらせ、予算減少は覚悟しておくべきか......向こうと合わせるととっくに20は越えている。精神的にはどう見たって大人の年齢でありながら反抗心は抜けていない。
猛省すべきだ。全く精神的成長を得ない自分が嫌になる。
途中夕餉を買いつつ家に戻ろうとした所、ふと路地裏を覗くと。
「や、やめろ!」
「大人しく金を出せ。それで勘弁してやるよ」
「お前に渡す金なんて持ってない!」
刃物を大男と少年が言い争っている。普段なら見ないフリをするが今日は色々あったのでフラストレーションが溜まりに溜まっている。つまりは八つ当たり。試作品の試し撃ちといこう。
「じゃあ強引な方法でやるしかねぇな」
「ヒィ......」少年はそういいつつも震えた手で杖を出す。
弾を込めてコッキング。そして頭を狙って引金を引く。
直径6.5mm全長32mmの小さな弾丸が760m/sで破裂音を伴いながら男の頭に刺さり、男は叫ぶ間もなく倒れる。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。君は誰?」
「俺はネルラント。すぐに人が来るだろうから逃げるよ」
少年に手を差し出すが少年は不思議そうな顔をする。
逃げないのか?そういうと震えた手で手を握り返した。
「君は一体......?」
「通りすがりのクソガキだよ」
「自分で言うかいそれ......ていうか、さっきの人は......」
「殺したよ。でもあくまで正当防衛だよ。何か問題ある?」
「正当防衛どころかただの人殺しだよ」
「俺とお前は知り合いで偶々襲われているところを見てしまった。そうだろう?見たところ商人の出の様だが」
「貴方も貴族のようですが......大銀貨10枚」
「ん?」
「帝国大銀貨10枚で貴方の依頼を受けましょう。殺人者との交渉ですこちらにも。それとも、このまま衛兵に君を突き出して経歴に傷をつけてもいいですが」
「先ほどまで大男に怯えていた奴とは思えないな、ほらよ」
「帝国小金貨2枚?!」
「契約金だ。少し聞きたい事を含めて。最近の西の塩漬けの様子を聞きたい」
「そんな事聞いてどうするんです」
「それは秘密。そのための帝国小金貨2枚だ」
「君はただの人殺しかと思ったがそれだけではないようだ」
「お褒めに預かり光栄だ」
「西とウチとはいつも通り、それどころか微減かな。だが最近は第三国が産地の塩漬けはよくみるね」
「念のため聞いておくが、それは西だけか」
「勘がいいね。東と西両方だね」
「そうか......」
「どう?帝国小金貨2枚の価値はあった?」
「これで帝国小金貨1枚分だ。残りは雇い料だ。これからも末長くよろしく頼みたいね」
「安く買われたね。受け取ったものは仕方ない。年不相応に君はおっかないね。人殺しのネルラント君?」
「そういや名前を聞いていなかったが」といい大銀貨を取りだそうとした
「いいよ。今の僕にとっての小金貨は高すぎる。未来も買われたには安過ぎるけど。僕はバルトール・フロスト。帝国が誇る大商会、フロスト商会の息子だよ」
「自分で言うかそれ......」
「君よりはマシだよ。長々と話してしまったね。次は帝立ヴィタメールで」
「何でそれを」
「君は貴族ということを否定しなかった。それにその服、どこかわからないがここらで見るような服装ではない。質が違う。そして顔つき、身体的には僕とそんなに変わらない。まだ続ける?」
「分かった分かった。降参だ。ということはバルトールも?」
「あぁそうだよ」
「こんなところで遊んでいて大丈夫か?」
「大丈夫。本試はもう終わったからね、残るは追試。君こそ大丈夫かい?」
「......その追試組だよ。こんなところで油を売っている場合じゃあ無いんだが。ちょっとムシャクシャしてしまってね」
「狂っているね」
「よく言われるよ」
「失礼してしまったかい?」
「いいや。馴れてる、そろそろ帰るよ」
「じゃあまた」
「ああ」
そうしてバルトールと別れる。
長々と話してしまったが収穫はあった。東西からの挟撃は最悪パターンだ。今の状況では軍務卿が資料を渡してくれるかも分からんが。
ともかく帰ってからは久しぶりの受験勉強だ。