狂信者と対人戦闘
どうやってこの話題を終わらせるにはどうするか......そういやバルトールのクラスを聞いていなかったな。折角だからこれを聞いてみるか。
「......そういやお前の学校でのクラスはどれだった?」
「魔法第七科。上から二番目のクラスだね。君はどうなんだい」
「特進選抜魔法科、一番上だ」
「君って、もしかして優秀?」
「そりゃ、貴族だし当たり前だな」
「嫌みかい」
「お互い様だよ、お前もさっき皇女殿下の事で色々言っただろ」
「そうかもね......それにしても、君が特進選抜魔法科ねぇ。帝立ヴィタメールでは魔法第一科から魔法第七科にも優劣があるけれど特進選抜魔法科は別格だからね。なんせ他は進級時に多少の入れ替えがあるのに、特進選抜魔法科は入試、進級に一切忖度なしで普通のクラスよりも厳しいにも関わらず、それでも未だにクラス落ちした人はいない」
「追試、その特進選抜魔法科の中で″べった″だったけどな」
「追試で特進選抜魔法科に受かっただけで凄いよ」
「バルトール、よくお世辞が上手いって言われないか」
「それほどでもないよ」
「誉めてない......」
「そうだ!僕と手合わせしてくれない?」
「なんだ、いきなり」
「一回体験してみたいんだよ、特進選抜魔法科の人との手合わせして、自分とどのぐらい差があるのか」
「今の期間、学校は開いてないから修練場でいいか」
「ああ、もちろん!」
「俺がその話をした時から手合わせするのが目的か」
「えへへ、バレちった?」
「えへへじゃねえよ、よし分かったボコボコにしてやる」
そうして修練場へ行く。
修練場は1時間大青銅貨一枚。とりあえず大青銅貨3枚を受付に払う。
「じゃあどうしようか」
「全力で来い、俺はこの訓練用長剣だけで相手してやる」
「流石に舐め過ぎじゃないかい。まあいいや。じゃあ行くよ、聖なる力よ僕に力を与えたまえ《エクストラブースト》!炎よ我に力を分けたまえ《ファイアーエンチャント》」
浮遊させている訓練用魔道書を詠唱し、片手の長剣を構える。
「いくよっ!」
そうして、バルトールがバルトールが懐に踏み込んで来る。
踏み込んで来るバルトールに対して俺は居合抜きの要領で剣を抜く。そして精一杯の力でバルトールの剣を飛ばす。
「なッ!」
「終わりだな」
そうして首筋に長剣を当てる。
「じゃあ次は訓練用魔道書だけを使ってやってくれないか」
「分かった」
そうして休む間もなく次の戦いへ移る。
「いくよ......」
そうして一気に迫ってくる。《トラップ》に気づいたようだ。
「よく気づいたな」
「魔法の種類は分からないけれども、いつ仕掛けたんだい?全く分からなかったよ」
「バルトールが走り込んできた時だ」
「......凄いよ、でも飛び越えれば良いだけだ」
そうして飛び越えてきたバルトールに対して足元に《ファイアボール》を二発撃つ。
「おっと!」
そして足元が不安定になった所で、柔道の要領で足を払う。バルトールはこける。すかさず魔法の発動術式を顕現させる。
「降参だよ」
「はぁ、手応えないなぁ」
「それはともかく、やっぱり強いね、是非ともその強さに迫りたいね、その様子だとやっぱり上級魔法も使えるのかい?」
「ほとんど使えない。元々俺の魔力は低い、平均以下だ」
「大量の魔力がある訳じゃないんだね」
「大事なのは相手を騙すこと、相手より強いと思わせて、相手を消耗させたり、相手より弱いと油断させて会心の一撃を食らわす、弱者なりのやり方だ。高威力大規模な魔法をただ撃つのではなく、戦闘技術で対応する。だから、単純な魔法ではおそらくお前にすら負ける」
「失礼だなぁ、お前にすらって、少なくとも戦術魔法一発なら撃てる位の魔力はあるよ」
見くびっていたが、凄い魔力量を持っている。大隊を除けばそれだけの魔力量を持つ人はそうそう居ない。
「それはすまなかった。ともかく近接戦闘を鍛え上げれば特進選抜魔法科なんて一部を除けばイチコロだ」
「......一部を除けば?」
「世の中には小手先だけではどうにもならない奴もいる」
「そいつについて詳しく聞いても良いかい?」
「分かった。そうだなソイツは─────」
そうしてナガサワと戦った事を話した。
「戦術級の魔法を軽々撃ち、聖剣を持つ......全く信じられないね、それと追試で当たって生き残れた君もだが」
「嘘は言っていないぞ」
「もしかすると、神に祝福されし者かもしれない」
「俺もその可能性は高いと思っている」
神に祝福されし者。歴史の時々に現れて世界を大きく揺るがすことのある人間。それは時に転生者、転移者であったり、元からこの世界の住人だったりと様々だが、傾向がある。
転移者、転生者は文化振興、上下水道整備や、医学の発展に努めて文芸の世界や、人の生活面の点において大きな変化をもたらす。それで大抵の人間は莫大な富を得るのがほとんどだ。綺麗な街並みを維持できているのもその先駆者達のお陰だ。
対して、元からこちら側の人間は短絡的な思考をしている人に与えられる事が多く、戦争や内乱に加担し、最終的には他国を侵略する戦争を引き起こし、その時は国を越えての討伐隊が組まれることがある。
そして、双方に共通する特徴は神から祝福を受けている点である。
「その可能性がない訳ではない。さっきも言ったようその可能性は高い。だがそれはあまり考えたくない」
そういった者は世界を混沌にする、カオスは人の印象だ、しかし、実際にそれが起きる時は誰もそれに気づけない。だがそれは時として国すらも亡き者にする。
とにかく、不安定な要素は任務に不要だ。
「珍しいね。君が希望的観測をするなんて、現実逃避と言った方が良いかな」
「臭いものには蓋だ。出来れば関わりたくない」
「そうかい、だが将棋の開発者も同じだったようだ」
「あの後調べたのか、それで?」
「その人はかなり穏やかで、将棋の振興に一生を捧げたらしい、噂によれば無限にものを収納できる祝福を持っていたようだ」
「ケースバイケースって事か」
「そうだね」
「ナガサワがそうであることを願うか」
「まあ、大丈夫だと思うよ......あっ!忘れてたんだけど、魔王国で奴隷制度と身分制度が廃止されたらしいね。その他にも色々な制度が変わったとか......」
「そうなのか、というかそんな重要な事を忘れてたのかよ!」
「ごめんごめん」
「さて、それは置いておいて。まあお前に教えれるのは、魔法と剣だけに頼り過ぎると簡単に倒されると言う事だな。バルトールなら特進選抜魔法科にあがってこれると思うぞ」
「僕なんかが......不可能だよ」
「世の中に絶対なんてない、故に不可能なんてものは存在しない」
「......分かったよ、やってみる」
そうして、三時間ほど武術を教えて、修練場を出る。
《エクストラブースト》は中級魔法で《ブースト》の強化版。《ブースト》とは違って、一時的な魔法の威力を強化する事が出来るのも特徴の一つ。
《ファイアーエンチャント》は剣に炎を付与できる他、日常生活では普段の調理にも使われる初級魔法である。




