狂信者の失敗
鍋に塩水と共にパスタを入れて加熱する。
その間にトマトをみじん切りにして塩を振り撒き、キノコは水で洗って加熱してから切って入れる。雑な作り方をしてるがまあ味を気にする訳でもないし、大丈夫だろう。
「「いただきます」」
そうしてフォークで突き刺して食べる。バルトールが顔を歪める。
「どうした、虫でも食べたような反応をして」
「君は何か思わないのかい」
「別に普通だと思うが」何か不味ったか......
「君は相当な甘党か、もしくは僕のことが嫌いらしい」
やっぱりやってはいけない初歩的なミスをしてしまっていた。塩と砂糖を間違えた。
「すまん......お前が甘党かどうか聞くのを忘れていた」
まあ、味が分からないよりとんでもない甘党と勘違いされる方がマシだ。
「はぁ、肝心な所で君はミスをするね。それにしても、君の舌はトロールか。良くこんな味のものを食べれるね」
「この味付けもアリだとは思うが......」
とにかく今は味覚についての事を隠す事が出来れば良い。
「まあ、雇い主である君に免じて最後まで食べるよ」
「塩を持ってくる」
そうして塩を木のテーブルの上に置く。するとバルトールはそれを奪い取るように取り、塩をかける。
「うへぇ、不味い」
「......すまなかった」
そういいつつもなんとか食べ終わる。
「今度料理するなら僕も一緒にキッチンに立つよ。君はどんな味付けをするか溜まったもんじゃない」
「分かった、分かった。今度はそうする」
「約束だよ!」
「ああ、約束だ」
「それじゃあどうする?まだ時間はあるけれど」
「ナンパでもするかい」
「お前はタブラナ人か」
「さすがにそこまでナンパ男じゃないよ冗談だ、あれから皇女殿下とは上手くいっているのかい」
「まあまあ(交渉役として)上手くいっているな」嘘は言っていない。
「そうかい、今貴族の中では君と皇女殿下の事で持ち切りでね」
「そんな伯爵の子と皇女殿下の(政治的な)付き合いがそこまで話題になるのか、全く貴族も暇だな」
「だってあの皇女殿下だよ、前皇帝派筆頭のそれが中立派の君と(恋愛的な意味で)付き合うなんて相当なロマンスがあったんだね」
めんどくさい。前世でもそこそここういう事で弄られる事はあったが、それを知っているかのように、全てを知っているかのように的確に煽ってくる。
「......」
「おやおや、図星かい?」
さっきの意趣返しとばかりに追い詰めてくる。さて、どうしようか。
「はぁ、あまり囃し立てないでくれとまでは言わないが。噂はあんまりたてないでくれ」
「いやいや。そう言わずに~~......もしかして利益も無いことに僕が煽り立ててると思ってる?」急に真顔になるからコイツは油断できない。食えない男である。
「君と皇女がくっつけばフロスト商会で君が買い物していたという事実は利益になる。皇女殿下の夫が買い付けていたことになるからね。これでフロスト商会は更に繁盛する。最高じゃないか!」
オーバーリアクションな身振り手振りその風貌はまるで詐欺師。皇女殿下が懇親会で演説をしていたのとはまるで違う。
「お前には詐欺師が似合う」
「ちょこっと誇張するだけだから」
「商売のやり手のちょこっとは信用できない」
「まあまあ、結果的には君にも利益があるんだから」




