狂信者の忖度
続けて市場で買い物をしているとナガサワと出会った。
「やあ、ナガサワ、こんな所出会うとは奇遇だね」
「意外だな、貴族様も料理するのか」
「一応ね。ナガサワこそ意外だよ、あんなに強いのにまさか料理まで出来るんだね」相手を立てて機嫌を伺う。ナガサワ一人の機嫌で下手をすれば国が滅ぶ。忖度、リップサービスその類いのものだ。
「いやいや、そうじゃない。テナが買ってこいって」
それにしても、戦闘以外は思考盗聴をしてこないようだ。戦闘が発生したときに発動するパッシブか、はたまたアクティブで意図的に切っているのかそれは分からないが。
「テナ?」
「獣人の負債奴隷さ、俺が買い取って首輪を外した」
「何で外したんだ?」
「俺はテナを信じている。それに俺は奴隷をなくしたいと思っている」
「何でだい」
「同じ人なのに差別するなんておかしい。人は平等にあるべきなんだ」
日本人のらしい価値観だ。良い意味でも悪い意味でも。
「そうか、ナガサワらしい知見だ。新しいものの見方が聞けたよ」
奴隷制度で成り立つ世の中をいきなり奴隷を無くすとどうなるか。″人権″が生まれて雇用するのにも今までより多くの金が懸かる。必然的に物の値段が上がる。結果として大量の食料難にも繋がる。農業機械のないこの時代では大量生産も苦労する。ゆえに奴隷を利用する。
それに奴隷は奴隷という名前が消えただけで現代の地球でもカカオ農場で使われている。
「奴隷だけじゃない。俺は身分制度を変えたい」
それに身分制度の否定か、身分制度がどうやって生まれてどういう役割をしてきたのか知らない癖して勝手に言うなぁ。
「難しいね、貴族は既得権益......既にあるものは手放したくないだろうし、もちろん俺はあんまり権益には興味ないけれど......」と苦笑するしかなかった。別に馬鹿にする訳ではないが、もう少しそれが成立する時代背景を考えてほしいとは思う。だが話を合わせるために肯定する。
「貴族にしては珍しいな」
「あんまり金銀財宝というものね、慎ましく生きるのが吉だよ」
「ハハッ変わった奴だなぁ、良かったら一緒に夕飯を食べないか」
「いいのか?」
「今後ともカンベルとは仲良くしていきたいしな」
「ありがとう。そうさせて貰うよ、ナガサワは何を買いに来たんだい?」
「鳥もも肉ときゅうりとレタスだ」
「鳥もも肉なら二つもう買ってしまったから、それをあげるよ」
「いいのか?」
「どうせ使うなら次の日だろうし」
「分かった」そういうと渡した袋ごと、消してしまった。
「消えてしまったけれど大丈夫か?」
「ああ、俺のスキルインベントリでしまったから。その中の物の時間は止まっているし、無限に収納出来るから大丈夫」
「凄いな......でも気を付けた方がいい。そういった能力は珍しいからあまり人の多い所で見せると混乱するから」
残った卵は明日の朝にでも目玉焼きにするか。
「ああ、ありがとう。気を付ける」
その後残りの食材を買って、一人暮らしの為の調味料も買ってから寮のナガサワの部屋へ行く。
自分より明らかに強い相手には明確に媚びていくスタイル。




