狂信者と判断の見誤り
宮城近くの天幕にそうして持って帰ってきた資料を広げる。
「どう、何か分かったの?」そう言う女帝陛下。
表向きは帝国軍の市街地訓練ということになっている。とは言うものの実働部隊は大隊のみ、これは大隊の利便性に起因している。
利便性とは《突撃型》の特性だ。その設計上初級、中級魔法しか使えず、射程も200m以下だが、初級魔法なら最高900発/分のアサルトライフル並みの連射力を持っている。この時代に高い連射力を持つ、魔力の多い魔道士はそれ自体貴重だ。
まあその為の魔力は強制的に引き上げられたもので、普通の人では到底耐えられず廃人となるだろう、たとえ耐えられたとしても......トレードオフというやつである。
「ああ、デマだった巧妙な偽装だよ、計画の影も形もなかった、確かに襲撃した時も反乱を準備していたにしては武器や人が少なかったように感じた」
「それで、その目的は何なの」
「帝都で反乱するように見せかけて、その実他で反乱する......この場合西か東か」
「何故そう思うの」
「以前、別件でサナトリアとタブラナの塩漬け類の輸出入の資料を見ていたが、その資料で西の都マカモルと東の都アウグストの塩漬け輸入が微増していた」
「それだけで何がわかるのよ」
「フロスト商会を一切合切通していない。どれもマイナーで小さな商会に大量の塩漬けが輸入されていた」
「そもそも塩漬けが何で今の出来事と関係あるの」
「軍隊の食事は塩漬けが多い、塩漬けはかなり長くもつから、必然的に軍の食事として採用される。だから軍事行動を起こす時には良く買い占めされる」
「軍人って何であんな塩辛いもの食べるのかと思ったけれどそういう事だったのね」
「国のトップがそんなんじゃいけないだろう」
「私も内政で大変なのよ、派閥がバラバラにならないように纏めて、根回しして法案を通すの。やってみる?」
「分かった、すまなかった。それでフロスト商会を通せば買い手の情報は必然的に前皇帝派のスペンサー伯爵に流れる」
「それで?」
「スペンサー伯爵は前皇帝派の中でも比較的穏健だが、コミュニズムとなると話は別だ。反乱についてはそれを自分たちの私兵をもってして殺しにかかるか、そもそも輸入した品を依頼者の元へ届けないだろう」
「そういう訳ね、でその後の資料は」
「ない。小さな商会の利点としてその後の隠密性だ。その塩漬けがどこへ行ったのかはわからない。そもそも資料を残していないのだろう」
「要は分からないってこと?」
「ああ、だがかなりの量を仕入れている筈だだから奴らが未知の輸送技術を持たない限りその近くの都市で起こすと思う」
「そうね、マカモルとアウグストに兵を派遣するわ。念のため他の都市を管理する貴族にも注意換気を促すわね」
「それが良いと思う」
さてと、これから急いでこの血生臭い軍服を着替えて支度をしなければならない。
なぜタイトルが見誤りなのかはそのうち分かると思います。




