狂信者とメイド
「............ほぇ」
「やっぱり、そういった答えはありきたりか」
「いえ、かなり斬新奇抜でした、ありがとうございます」
「内容の前半自体は言ったように受け売りだ。父上の執事をかなり長く務めている人が言っていた。俺の考えではない、礼ならその人に言ってくれ」
「しかし、それを伝えたのは貴方様です。それに後半は貴方様がそれを解釈した上に伝えられた。それは立派だと思います。今まで見た私と同年代の貴族の方々には考えなしに動く方が多かったです。その中で芯を持ち、考えを深く謀り巡らすのはごく少数かと思います」
確かに同年代であればそういった考えに至らないだろう。事実俺も一回目のこの時期はクソガキだった。それから色々考えて、こちらに来て様々な事を見て、経験して初めて色々な物事についての解釈が出来るようになった。二回目のこの時期であるからこそ言えるのだ。
「辞めてくれ、俺もそんな貴族......いやそこらで遊んでいる子供と大して変わらない、一介のクソガキだよ」
「あまり自分を卑下しないで下さい。その卑下は貴方様だけでなく周りの品位も下げてしまいます」
「分かった。気を付けるように心掛けよう」
しかし、俺は自分が図にのって驕り昂りやすいのは分かっている。それ故に多少他人に咎められようとも戒めとして刻みつけておく習慣がある。
「ここまでですね」とメイドが言う。気がつけば玄関まで来ていた。
「そういやお前の名前を聞いていないな」
「そうでしたね、申し遅れましたマリア様専属メイド、クラネ・ヴェールです。クラネとお呼びください」
「クラネ、ではさようなら」
「はい、さようなら」とクラネは頬笑む。
クラネが見せた笑顔は十代らしい明るさ満点の笑顔だった。恐らくは営業スマイルだろうだが綺麗だった。俺も何も知らなかった、あの頃はあんな顔ができていたのだろうか。
今はあのような笑顔すらまともに表に出すこと自体がそこまで多くない。年齢を重ねるごとにそれは減っていき、戦役があるごとに表情は動かなくなるし、目の色は鈍くなっていくのが分かる。
経緯は違えどそうして感情を押し殺して人は皆大人になっていくのだろうか。
しかし、そんなことは今の俺にはどうでも良い。今考えるべきは任務を完遂して生き残る事。
それ以外の事は不要だ。
そして、帝国が安定期に入るまで生き残る事が出来れば、軍を辞め記録を全て消して小さな家で一人農家をしたい。
どうあがこうと元の世界の時間軸に帰るのは不可能だろうし、可能であっても気力がない。
どうせ叶わぬ夢なら大きくても問題ないだろう。
矛盾を抱えてますねぇ、ネルラントもとい■■■■・■■■■君。夢と言いつつ、この世界から離れると言う夢を諦めている。
P.S.本当は今日の分は昨日の夜に投稿予定だったのですが回線が混雑していて投稿できませんでした。ここでお詫び致します。
以後そのようなトラブルに巻き込まれないよう気を付けます。




