狂信者と秘密
そうして来た道を帰り、そして急いで着替えて、何事も無かったように振る舞う。
ただ、流石に睡眠時間が削られると行動にも若干の鈍さが出てしまうので少し仮眠をとる。
気がつけば夕方。昼からほとんどの時間寝て過ごしてしまっていたようだ。
明日にでも手紙を届けよう。
ふと手紙を見ると″親愛なる皇女殿下へネルラントより″と書いていた。全く余計な偽装をしてくれる。
あまり余計な事をすればかえって興味本位で手紙の内容をみられるかもしれない。
厳重に蝋で封をしてはいるがそれでも内容をみられる訳にはいかない。
箱の中に入れて鍵をかける。それに手紙をよりも箱の方が怪しまれない。会いに来ているのに手紙を渡すのは不自然だ、それよりはプレゼントを渡す様に見せかける方が良いだろう。いつも通り夕餉を食べる為に食堂の席に着く。
「ネルラント様、お食事口に合いませんか」
「いえ、そうではありません。少し、寝すぎただけです」
「そうですか、失礼しました」
ネルラント、疲れているのかと伯爵。
「少し懇親会の事で思い悩んでいたのですがもう解決しました」
「そうか ......これは噂話なのだが皇女殿下に色恋沙汰があったと聞いた」
「......父上、それは父上の私室で話をしましょう」
「分かった」
食事を終え、伯爵の私室に入る。
「ネルラントどうなんだ」
「例の皇女殿下の件ですか」
「ああ、お前がその気ならば私は便宜を図るぞ」
「結論から言えば、任務の一環です。相手の弱みに浸け入って、半ば強引な形で信頼を得た。決して色恋沙汰に″うつつ″を抜かすような事はしていません。だだそれだけの事です」
「そうか、その気がないならそうと言えば良い」
「適当に誤魔化しておいてください、理由は申し上げられません」
「分かった」
カンベル伯優し過ぎますね。
養子とはいえ欲しがった物を用意したり、息子の犯罪を不問にしたり、秘密を守ると約束したり、どこの聖人ですかと言いたくなるような行いでネルラントを助けています。




