狂信者の提案と皇女殿下
「......では、手紙はどうでしょう」
「途中内容を検閲されれば大事になります」
確かに宮城内部への手紙は検閲が必ずかかる。それに前皇帝派筆頭の皇女が対立きている女帝の本丸へ手紙を送るという事自体がそもそも問題である。同派閥の貴族から好印象でも悪印象でも、前に言った通り内乱の危険性がある。
「私がお届けいたしましょう、ご存じの通り私の父上は軍務卿です。私も宮城に行ったことがありますので、荷物検査や検閲は避けれる筈です。この命に代えてもお届けしましょう」
実際、宮城へ行くときにはその時の条件によるが荷物検査がある。無理やり大隊長として行く事も出来るが、それでも手紙の検閲は避けられないだろう。
皇家の秘密の出入口、もとい宮城が陥落したときの為の緊急避難路。内戦時、もし宮城を陥落させても尚、前皇帝を討ち取れ無かった場合にということで師団には城の設計図と共にその避難路の図が開示された。
その中で人通りが全くない場所......は限られているがそれでも幾つかはある。
「しかし!」
「では私の魔導書を保険としてお持ちになって下さい、魔道士にとってそれを預ける事はどのような事かご存知ですよね」
魔道士にとって杖又は魔導書を預ける行為は命を懸けることと同義。そうして俺は持っていた『平家物語』を差し出す。
「......どうしてそこまで」
「いま、この国を安定させるには対立体制を維持し続ける事は必須です、そのためなら多少の無茶は引き受けましょう」
「......貴方はそれでいいのですか」
「ええ、問題ありません。その代わり私の事を覚えて頂ければ」
「分かりました、お願いします。私は帝都の貴族街の一番大きな所にいます、二週間後には帝立ヴィタメールの寮に入ります、それまでにお願いできますか」
「明日にでも向かいましょう」
「分かりました。では二日後に、私に会いに来たと言って名前を申せば通れるように手配いたしましょう」
「ご厚意感謝します、では二日後に」
「ええ、そろそろ閉会式ですね。私は戻らないと」
「はい」
そうして俺達は会場へ戻る。
大人達の都合で勝手に誤解され、分断された姉妹か、たが修正は効く、些細な勘違いなんて生きていれば幾らでもある。死んでしまってはそれすらできなくなる......そういったものに少しばかり同情してしまった。
「全く君も隅に置けないね、皇女殿下と密会なんて」
「聞いていたのか」
「いや、全く。逆だよ、邪魔されないようにしていたんだ。感謝して欲しいぐらいだよ」
「ありがとう」
「意外だね、それぐらい上手くいったのかい?」
「ああ、そうだな」
ある意味上手くいった。
「祝杯をあげようか」
「そんなことはしなくてもいい」
「冗談だよ」
「冗談か」
そうして懇親会は終わる。思えばあの話し合い、バルトールが人払いをしていなければ、聞かれていた可能性もあった。あの皇女、相当な博打師だな......それほどまでに思い詰めていたという証でもある。




