狂信者のお仕事14
「何者だ」
「国軍省直属特別魔法大隊......」
「入れ」
全てを言い終わる迄に食いぎみで話されるのは相変わらず。一応、大隊長として、軍服を着用し、軍帽を被り、変装をしているので、ネルラントとは大分印象が違う。身長的にも普通の人よりも少し短い位なので、単なる軍人ということで周囲を納得させることができる。肩や帽子に入った刺繍を軍人が見ない限りはどこの所属なのかは分からない。
とはいえ、慣れたモノだ。事件終了直後からしばらくするまでは、通して貰えやしなかった。
彼らは哀れんでいるのだろうか、馬鹿にしているのだろうか。
理性が大切にされる職務であるがゆえに他人の機敏に知らんぷりをしていたら本当に鈍くなってしまったのか、或いは擦りきれてしまったのか、恐らく前者だろう。
傍若無人、厚顔無恥。いざ実際になってしまうと交渉ごとで相手を読み切れない、褪めた薄ら笑いしかできない、というこれ以上ない致命的な欠点を抱える事になる。それ乃ち交渉において、揉め事を起こす。
予め連絡は入れたので、玉座には俺と女帝陛下だけだ。
「ご機嫌麗しゅう女帝陛下」
女帝陛下はそれに返答もせずいつもの部屋へ通される。
「あっちで話しましょう」
「承知致しました」
そうしてすぐさま移動する。
「座って。紅茶でもどうかしら?」
「いえ、長居する気はありません」
「貴方が人気のある場所以外で私に敬語を使うなんて、いつぶりかしらね。明日は雨でも降るの?」と冗談を飛ばす。
「任を解いてくれませんか」
「何の?」
「皇女殿下護衛の任を解いてください」
「無理ね、なr「なら他へ委任してください......お願いします」
「この話はしたことないか......貴方の姉に言いつけられたのよ。弟にセーシュン?とかいうのを学校で体験させてあげて、って」
「そうなら「貴方の言いたい事は凄く分かる。自らにヘイトを向けなければいけなくなって、孤立無援の状態で支援もしてあげられなかったものね。幾ら通信状況が悪かったとはいっても、そこは私も反省してるわ。イレギュラーが起き過ぎた。それは結果として貴方に頼りきりになる状況を産み出し、莫大な負担をかけてしまったことも。だからその点については全力でバックアップする。どう?」
「どうと言われましても、具体的な内容が一切話されてませんが」
「同意するならどんな事も厭わないわ。何がほしいの?女?金?名誉の回復?」
「からかわないで下さい。どれも要りません」
「私は本気よ?悪かったわね、バックアップもできない無能で」
「そうは言ってません。私はただ、こんな貧乏籤を誰かに押し付けたいだけです」
「正直ね。貴方のキッパリと言うところが良くもあり、また悪くもある。大半が貴方の性格をどう思うかは知らないけど。ま、私は嫌いじゃないわね」
「いつもより言い方が回りくどいですね」
「これでもバックアップする気はあるのよ?どうしてもって言うのなら、もう一人大隊からお手頃なのを指名しなさい。それが今回私にできる最大限の譲歩よ」
「では人員はそちらで選んでください。私は人を見る目を持っていないので」
「............はぁ、仕方ないわね。だけどいい加減、拗ねるのは辞めなさい」
「分かってる。もう少し女帝陛下の我が儘に振り回されておきます」
「我が儘なのはどっちもよ。いざとなったら心中する気で道連れにするから」
「そりゃご勘弁願う。俺が心中するのは────」
「あの時から何も変わってないのね、ていうか貴方いつの間にそんな立派というか、御伽噺の主人公みたいな事をこの国の長に言えるほど大物になったわけ?別にいいけど」
「無能に価値を与えてくれる一番のモノだ」
「永遠に追い付く筈のない影を追っている......これほど憐れな事はないわ。ま、取り敢えず感傷に浸るのもそれぐらいにしなさい、まだまだ貴方にはじゃじゃ馬の如く働いてもらうわよ」
「うるさい」
「機嫌が直ったのなら、もう行ってくれるかしら?あと、これをお願い」
「これは......」
「あの子に渡してくれる?一応任務の範疇でしょ?」
「はぁ、分かりました」
「私だって、怒りたいわよ。騎士団長から聞いたのだけれど、魔王相手に散々煽ったんでしょ?そのせいで、相手もかなり怒ってたらしいし、勝てなかったらどうするつもりだったの」
「......」
「ともかく、今回はお互い様ってことで勘弁してくれないかしら」
「それを言われると何も言えない」
「じゃあね。私は貴方のせいで沢っ山!仕事が残っているの、さっさと出てって!」
「了解!」と敬礼し、そこを去る。
あの反攻作戦が失敗していれば、間違いなくこの国は滅んでいた。それを言われると耳が痛い。煽り散らかしたのは失策だった。
一旦、家もとい、保管庫へと戻る。
「ただいま......」と誰もいない家に声だけが虚しく響く。
軍務卿に与えられた服に着替え、新たに魔道書や、装備品を持ち出し、家中の埃を雑巾で拭き取り、ネズミ等を追っ払って、ガタが来ている所には張り替える為の木材と釘とトンカチで修繕を施す。
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全てが終わる頃には西日が照っていた。
それを終え、忘れ物がないかチェック......必要な物はカバンに入れた。
「いってきます」
誰かが「行ってらっしゃい」と返す訳でもない。全く抜けない癖だ、寮を出るときには一切言うこともないのに。やはり、家という認識がそうさせてしまうのだろうか。
報告も兼ねて、軍務卿へ会いに行こう。
「お帰りなさいませ。ネルラントお坊ちゃん」
「ハルカト。お迎えありがとう」
「いえいえ、これも私の仕事ですので。旦那様は私室にてお待ちです」
「分かった。ありがとう」
「勿体ないお言葉です」
いつ見渡しても、貴族街の派手さや威容には慣れない。庶民的な感性が働いてしまって仕方ない。
さっさと軍務卿の私室へ向かって、ドアをノックする。
「入れ」
「失礼します」
「今回の件は私の失策だ。どう言われても言い訳のしようがない。本当に済まなかった」
「いえ、今回は完全に向こうが数枚も上手でした。仕方ありません。ですが、作戦も聞かず、《連絡士官》の簡易書類一枚で輸送龍隊の最優先使用を出して下さったのは感謝しています。北方軍への補給もしなければいけなかったのに」
「せめてもの贖罪だ。ネルラント、お前の予期していた事が起きてしまった」
「ですが、結果論です。こんなことが何回もある訳......ないとも言えないですが、当面は大丈夫でしょう。私はまた任務の続行を命じられたので、さっさと学校へ行ってきます」
「ここで食べていかないか」
「いえ、まだ官給品の保存食が残っているので。駅か、馬車での移動中にでも食べます」
「さすがに、貴族の子が相乗りの馬車を使うのは良くない、うちの馬車があるからそれから好きなのを使いなさい」
「分かりました。では行って参ります」
そうして、丈夫で目立たない馬車を選び、荷台に乗り、手綱はハルカトが握る。とんでもなく厚待遇だ。
余った干し肉をかじり、喉を詰まらせないよう、水を飲む。街道の生み出す振動が眠気を誘う。
「さて、特大の地雷を踏みに行くか......」そう小さく呟き、就寝する。
ヴィタメールに着くまでの間は非常にゆったりとした時が過ぎた。田舎で正月を過ごしたような何か空気がまったりで、これから″起こす事″とは関係ないような雰囲気。
初夏も過ぎて暑さも本格化してくると、キツいかと思えば、湖の近くを通っているのでかなり涼しい、夜はひんやりとする位である。これからの事を思えばもっとひんやりするに違いない。
生憎にもヴィタメールに着いたのは学校がちょうど終わる位の時間帯。つまりは「居ないから明日にしよう!」といった″逃げ″の類は使えない。
関わりを断てば良いという案もあるが、そう上手く事は運ばず。互いに共通の友人がおり、今後やっていく上では絶対に関わりを持ってしまう。女帝陛下に駄々を捏ねたのはそういった訳で、あの我が儘の半分は本気だった。
また、こちらが全てを許すというのも気まずく、歪な関係が生まれるのは想像に難くない。
もう少し頭が回るなら丁寧な処理もできるのだが、そこまでの頭を持たないので、荒療治を取るしかない。
荷物を部屋に置いて、女子寮の前で待つ。最悪の場合は寮長に頼めば出してくれるだろう。
そんな最悪の場合想定も意味を成さず、意外と早く会う事ができた。
「......少し、場所を変えましょう」
「仰せのままに、皇女殿下」




