狂信者のお仕事13
手が動かせるようになった俺は礼服の徽章と階級章を縫っていた。ミシンが欲しくなる。
既に半分ほどを終わらせたが手が疲れている。元来不器用ではあるが、流石に丸一日縫物をしていると慣れてくる。
これが終わり、体が万全になれば、報告へ向かわなければならない。ヴィタメールでは十日前後の短い梅雨が始まる頃だ。
昨日は雨が降ったが墓地の紫陽花は今年も咲いているのだろうか。
......貴方はそちらで何をしているのでしょうか。″私″は縫い物をしています。勿論、貴方がしていたように。
そうして礼服を棺の中に入れ、一つずつチェックしていく。ここでミスがあっては台無しだ。改めて骸を見ていくと、どれ程の激戦であったのか、自分がどれ程の無能であったのか、それらを再確認させられる。
それらに蓋をして馬車に載せてお参りへ行く。
さて、最初は───
ノックを三回、一息おいて用件を伝える。
「失礼します、息子さんの事で参りました」
開けてくれたのは壮年の男性。彼は《突撃型C57》もとい、アーロン・グラックスの義理の父だ。
「ヴィッツ・グラックス、サラ・グラックスさん。お悔やみ申し上げます。アーロンさんはブレスト地方にて魔王軍との戦闘に″巻き込まれ″逝去なされました。つきましては、戦死者遺族年金が給付されます。アーロンさんを守れませんでした」と頭を下げる。
「そうですか......最期はどうでしたか」
「............立派でした。敵兵より仲間を庇い、最後の最期まで任務を果たそうとしていました......」これらは周囲と魔力探知によって推察されたことだ。実際に俺はそれを見ていない。だが、今必要なのは残酷で淡白な真実ではなく、優しく立派な脚色をした物語である。
軍帽を深く被り直す。偽物とはいえ、そこには何処にも劣らない唯一無二の情と絆がある。
手を差し伸べてくれた人を半ば騙くらかすのは反吐がでる行為だ。立派な偽善だ。偽善ですらないかもしれない。
そうして帝国小金貨2枚の入った袋を渡す。
「棺があるのですがご覧になられますか」
「いえ、今見てしまうとどうにかなってしまいそうなので。そのまま祖父、ジャック・グラックスの墓の横へ埋めてもらえますか」
「分かりました。では案内、もしくは場所等を教えていただきたいのですが......」
「墓はこの街の北へ行ったところにあります。グラックスと書かれている所がありますのでそこの隣へお願いします」
「では、私は行きます」そうして敬礼し、そこを去る。
「おにーちゃんを返せ!!」
「??君は......」
「こら、カッセル!!辞めなさい!」
そういうグラックス夫妻の制止を振り切って思いっきり殴られる。年は9か10歳といったところなので多少の身長差はあれど、それをモロに食らう。だが、これを怒る資格も、殴り返す資格もない。幾ら殴られようと命が危機に晒されない限り、止める資格はない。
右頬を殴られたならば左頬も差し出せという某キリスト教的精神を持った敬虔な信徒と言う気も、入信する気も更々ない、むしろ中指を立ててやりたいぐらいだが、これも責任である。己が指揮を執って隊員を死なせてしまったならばその十字架を背負わなければならない。
長である以上、責任からは逃げられない。
棺を埋め、その上に墓石を設置する。
墓石もかなりの重さがある、だがそれほど気にならない。
それを気にしてしまうと本当に人間ではない。それは人を模した化け物である。
次々と遺族の家を訪問する。そして、どれだけ蔑ろにされようと罵倒されようと殴れようとそれにやり返してはいけない。それをされている己がどれだけ惨めで報われなくとも。
既にそれぐらいの事をされても仕方ない、不可逆な事をしているのだから。
憎しみに対してやり返すというのは危険である以前に、争いの元種だ。それでは戦争好きの狂人と同じである。
流石に何日も一緒の隊員を連れていく訳にもいかないので、その地方にいる何人かがローテーションでついていくという方式にしているが、終わる頃には皆憔悴しきっている。
当たり前であると共に達成感も感じる。
″あの事件″の最中はその素振りすらなく、機械のようだった少年少女達が、今を一生懸命に人らしく生きているのだから。




