当時を知る─書物に挟まれていた資料─
加筆 ─年─月─日
「クソッ!何故だ!何故上手くいかない!!」
一人だけの魔王城の自室で叫ぶ。
″最強″のドイツ戦車部隊を用意した。それに加えてジェット戦闘機、急降下爆撃機、パラシュート降下部隊と輸送機も用意した。そして″電撃戦″を実行した、クロイセン帝国の内部からの攻撃もした。そして何より俺が総指揮を執っていたのに負けたのだ。
何故だ!戦車は八割喪失、残りも使い物にならない。
航空隊に至っては基地含めて全滅。
民草にどう説明する。受けた被害は甚大、敵の進軍速度からして、例え工場を24時間フル稼働させてもここまで攻められる。
前魔王のせいで魔族と獣人族を纏め上げた軍隊も派閥争いにかまけて訓練すらまともにしない使い物にならない新兵ばかり。
あのクソ野郎のせいだ。アイツさえいなければテナも痛い思いをすることもなかった。
アイツさえいなければっ!
しかし、オリジナルの探知魔法を使ってもどこに居るか分からない。
クソッ!どうせ奴は嘲笑っているのだ。
アイツを見ていると憎たらしいクラスの奴らを思い出す。
アイツらはキモいからという理由で俺を見下して笑い者にしてきた。
止めるように言っても「キモさを笑いに変えてやってるんだから怒るなよ」と肩パンされた。
ある日、俺は我慢の限界でとうとうキレた。
だが、アニメで見たようにはいかなかった。
そうして晒し者にされた。誰も助けてくれなかった。ただキモいからという理由だけで。
そうして俺が引きこもるまではそう時間は掛からなかった。
───ある日忽然とこの世界の人間に転生させられた。
そして、幾つかのチートが使えたから、勇者として崇められた、何人かと一緒に。
祝福、つまりチートを与えられた俺達は瞬く間にカリニア大陸にある、クタリュ王国の窮地を救った。
だが、仲間に......仲間と思っていた奴らに裏切られた。不意討ちを掛けられたがチートと聖剣でどうにか命からがら逃げ切った。
そうしてどうにかこうにか仲間を増やして、この大陸に来て───嫌な事ばかり思い出す。
コンコンとノックの音が聞こえる。
「ハルト、大丈夫?」
「あ、ああ、大丈夫だ」
「絶っ対!大丈夫じゃないよね。開けていい?」
「ごめん。しばらく一人にして......」
「分かった......でも何かするなら直ぐに″私たち″に伝えてね!いつでも力になるから!」
「ありがとう、シャロ」
「これぐらい当然だもの、ハルトに助けられた事に比べればどんな事だってできるよ!」
「分かった。何か思い付けば直ぐに伝える」
さて、どうしたものか。こうなれば俺が行くしか......しかし、これは俺の流儀に反する。できるだけ人を殺すのは避けたい。理想の為の最低限の犠牲は仕方ないが、それ以上に人を殺すのでは″アイツら″と変わらない。
それにテナの方もアイツの雑な″処理″と放置の結果で傷口はかなり酷い、クソがっ。魔法で治そうにも、細菌が体内に入ってしまっている状況では逆効果だ。
どうする、どうする俺!コンコンと扉をノックする音が響く。
「御主人様、失礼します」
「何だ、アリョーナ」
「帝国から講和の提案がございました。いかがなさいますか?当然──「受ける!俺が直接赴こう」
「しかし、御主人様!」
「これ以上、俺の国民が傷つくのは見ていられない。分かってくれないかアリョーナ......後で何でもするから」
「......分かりました。″何でも″いいんですね」
「あ、ああ」
「フフッ、分かりました。御主人様がそこまでおっしゃるのなら私たちは付いていきます。何時までも、何処までも......」
「ああ、直ぐ準備する。場所と日時を教えてくれないか」
「場所は......リトフスク、以前国境線のあった街です。日時は聖暦652年、陰暦の3月3日ですから太陽暦に直すと6月4日、その午前10時より開始との事です」
「もう一つ頼みたい事があるんだが......前線の残存部隊に今すぐ停戦命令を出しておいてくれないか、魔王軍の序列二位であるお前にしか頼めない」
「もぅ、仕方ない人ですねぇ。分かりました軍に関しては私が何とかしますので御主人様は講和に向けて案を出しておいて下さいね、分かりました?」
「何から何までありがとうアリョーナ」
「いえいえ、大丈夫です。でも埋め合わせはしてくださいね?」
「分かった」




