狂信者のお仕事11
「ッ!ヤバい!」
すぐさま近くの窪みに隠れて爆発によって飛んでくる破片を避けようとするも、口内に砂が入った、味覚がなかったの事が唯一の幸であった。そう思えたのも束の間。運悪く、小さな破片が横っ腹に当たってしまった。
慌てて射線の先を一瞥するとそこに居たのはドイツ第三帝国末期に開発され、その制式呼称からは余りにもかけ離れた体躯と砲を持ったⅧ号戦車。
その様はⅥ号戦車が子供に見えるほど。
副砲として36.5口径75mm砲が搭載されていて、満載なら弾薬は100発。そしてMG7.92mm機関銃等は1000発。
主砲弾は満載なら55発(現在撃ったので54発なのだが)、いづれにせよ厄介なのは機関銃。
距離は約100m、尚且つ遮蔽物のない場所で975m/sの鉛弾を完璧に避ける......そんなことはフィクションの世界でしかあり得ない。
それに加えて戦車を撃破しないといけない。
どんな地獄か。
ふざけている。
すぐさま近くの五番砲に救援要請と具体的な座標を伝えるが、位置バレに伴う配置転換中で急いでも間に合うかどうか分からない。
『平家物語』を発動させ、魔道書を巻物状に変化させて、小銃を依代に魔力で薙刀を創る。
ただの薙刀と侮ること勿かれ、密度次第では鋼すら紙のように易々と斬れる。
しかし、魔力を馬鹿みたいに喰うので俺の魔力量でまあその切れ味を保とうとすればコンマ数秒にしかならない、小銃を依代にしたので多少増えているが、それでも一瞬でしかない。
だから今、創り出したのはただの張子、魔力を入れ込める為の器。
『平家物語』は属性魔法を使う事が出来ない。
結界とそれの代わりに一撃必殺の魔力塊を武器の形としてぶつける事と、指揮をするときに魔道演算を補助する事ができる。
魔力が不足した時には使用者の寿命を補填に充てる。正直な所、大抵の魔道書よりも使いにくい。
普通のが、魔力回路から流れ行くならば″これ″は魔力回路から無理やり魔力を奪い取る、まるで独特な感覚。
それであっても、姉の魔道書よりは使いやすい。アレは幾度も複雑に変質して最早、人の使うモノでない。
それはともかく。
Ⅷ号戦車と対峙する。多少の茂みがあるものの、機関銃を防げる程の防弾性のある遮蔽物はない。
車長らしき獣人が少しだけ顔を出してベルトマガジンを繋げようとしている。
残念なことに銃を使って狙撃しようとすると、機関銃や周辺機器が邪魔になっていてそれらに弾かれる事は目に見えている。
加えて先程で所持していた全弾を使いきってしまった。
早くしないと本当に失血で死んでしまう。ちんたらと支援砲撃を待っていれば命に関わる。
これ以上のそれはマズイ。
右に薙刀を持って左手で体を支えて立ち上がり、かなり地面を蹴り上げので砂塵が舞い上がって、視界を奪おうとするも、あまり効果は無く、かえって、こちらから発砲炎と弾道が見にくくなってしまった。
慌てずに切り替えて発砲炎から魔道演算で予測される弾道を算出する。
感覚と経験によってチューンされた″それ″は最早、刹那の予知能力にすら勝る。獣人はその音すら見逃さずに合図として、直ぐに機関銃の偏差射撃で的確に当てようとして、足元には土が舞い上がり、すぐ横を弾が通り抜けていく。
それを元に算出した予想を修正しつつ進むが、所詮は予測は予測。風向きが少し変われば容赦なく弾丸に当たった。当たったのは二三発どころではない。かなりの弾が当たったからか、身体が熱いし痛い。肉の抉れる音がする。
そこに副砲と主砲の砲撃も加わる。これらは一発でも喰らえば即ち死を意味する。どこに当たろうと人の跡形無く粉微塵にしてしまう。
しかし、砲弾は当たらない。三部隊に指令を送り、最高速で演算をしているせいか、脳が文字通り、オーバーヒートしかけている。足にも疲労が溜まり、腹部には砲弾の破片、満身創痍これ程今の俺を表している表現はないだろうか。
そしてこのままでは敵の五メートル手前で脳が処理落ちしてしまって死ぬ。
少なく見積もっても、あのデカブツを撃破するためには、八メートル手前で魔道演算をやめてクールタイムを設けなければならない。それからは本当に脳死突撃で己の勘と運のみが結果を左右する。
いよいよその時が迫っている。機関銃の発砲音の方が大きい筈なのに、心臓の音がバクバクと聞こえてきてうるさい。
3...2...1...0ッ!
死の八メートルを自らの最高速度で駆けていく。足がすくみそうだ。だが、そうすればその場で捉えられて人生が終了する。今ばかりは銃弾が遅く見える。
そうして戦車の薄いであろう天板を斬る為に思いっきり跳躍する。
その時に機関銃の弾をさらに、数発喰らう。焼けるような熱さが体を通り抜けていく。
痛いなんてもんじゃない、その場で悶絶してしまいそうだ。がここで止まるわけにはいかない。
全ての魔力を込め、下段に構え、魔道演算装置を最高効率で稼働させて、極限まで刃を研ぎ澄ます。この間僅か0.003秒。既に魔力は半分ほど、消費。そして、ありったけの力を込めて鋼板を斬る。しかしそこでタイムアップ。弾薬庫は斬れず、中の乗員を一人殺すだけに留まった。
『『五番、十番砲より《大隊長》どいて!!』』
すぐそこから離れて近くにあった木の裏まで避難する。避難したからといって跳んできた破片が刺さる刺さらないは殆ど変わらないだろう。
そこから一秒も懸からず、Ⅷ号戦車は天板と側面からほぼ同時に砲弾を喰らう。
轟音をたてて炎上。中の乗員はほぼ即死だろう。
今度は運よく破片が跳んでくる事もなかったが、流石にもう限界だ。ちょうど、前哨基地は制圧したようだ。
とはいえこちらも久しぶりに死者が出てしまう程の大損害を被った。
そのまま救援信号を出す。意識も朦朧としていた所に《補給員》がやって来て《ヒーリング》をかけ、瓶入りの″特製″魔力ポーションを半開きの口に押し込んでくる。痛みがひいて、無理やり意識が覚醒させられる。
「コカの葉入りの魔力ポーションです。目は覚めましたか?」
「ああ、覚めた。今すぐにでも敵軍を追撃したい気分だ」と半ば本気な軽口を叩く。
「大丈夫そうですね。ですが、作戦終了後すぐ病院送りです」
「了解」
『《大隊長》より全部隊。当初の予定通り、第二フェーズ開始。敵航空基地を完膚なきまでに破壊する』
夜が明けるまで時間はあまりないが、急げば間に合う。
そうして、負傷者とその看護を抜いた全ての部隊は全速力で国境線を越えて、敵基地を叩きにいく。
滑走路は必要最低限の舗装、格納庫も建設されていたが、対空砲などは殆どが建設途中のようでただ航空機を運用できるだけの場所であった。
基地は対空砲火を躱し、生き残ってきた部隊が丁度補給をしている所で、偶然にも後の先を取る形となった。慌てた敵は急いで防備を整えようとするも、こうなっては多少の反撃程度で攻勢が止まる訳がなかった。
そして、甲部隊はありったけの砲弾を使って電探施設、燃料、弾薬の保管庫を破壊し、乙部隊は反撃しそうな敵をピックアップして集中攻撃。野砲の咆哮が唸り、装甲が施されていない施設をいとも簡単にひしゃげる。
あちらこちらで轟音と悲鳴そして、時折肉塊や機体の破片が飛び散り、朝日が昇る頃には、敵に動く者はおらず、燃える物が残っておらず、死体がそこらかしこに転がっていて肉の焼ける匂いがする、建造物は全て瓦礫の山と化していた。死臭が漂っている。
小綺麗に舗装されていた滑走路はもはや見る影もなく、穴ぼこになった街道のような残骸が残っているのみである。
『......状況終了、補給せよ。但し、警戒を怠るな」後方部隊へは電文、直接指揮を執っていた部隊には口頭で伝える。それほど声を張った訳ではないが全員に聞こえていたようで、《補給員》や丙部隊から食料を受け取り、黙々と食事をする。
流石に一晩中気を張っていては疲労が溜まっているので、喋る力もないのだろう。
そうして警戒部隊を交代させつつ、仮眠と食事を取らせる。俺も喰らった破片を引き抜いて治療を受ける。
化膿しかけている部分もあったので雑菌等がかなり入ったかもしれない。
食事とはいっても精々今日の分があるだけで、それ以降は後方からの補給を待たなければいけない。
地味に危うい状況であるが、補給が来ない程度でこの部隊は動揺しない。補給が無いことが常々であり、後回しにされてきたこの部隊の人員は自生している植物で、食べれる物、食べれない物のデータは揃っている。中には自生植物だけのレシピなんて物もある。
ただ、何百人と居るのだから食った所は地面が剥げていたりする。
それはそうと、戦いの途中で白旗を掲げていたような気がするが混乱していた戦場ではそんなものは気のせいだった。
偶々、白い布が掲げられていたに過ぎない。
それを掲げた腕だけのナニカが吹き飛ばされたのか、少し離れた所にあり、後味がとても悪い。
外道の屑でしかないが、戦争というのは往々にしてそういうモノである............というのは完全なる言い訳だ。ただの自己弁護、自己の行いを正当化するためだけの汚い世迷言。
魔王国と帝国に関しては講和条約が在るのみで兵士の扱いに関する条約は制定されていなかった。
ただ、慣習として、紳士協定のような捕虜と金銭の交換が何となくの雰囲気で講和条約の締結時に行われるだけだ。
今回、講和条約を破ってきたのはあちらである。
そしてこちらは魔王国内まで侵攻している。
既に作戦成功の一報を《連絡士官》に伝えてあるので、次第に帝国軍が統制を取り戻して火事場泥棒のように占領範囲を広げるだろう。
現金な奴らだなぁと少しは思うものの、占領すればするほど帝国の交渉カードが増えるので有難い。
そうして一日も経たない内に補給は届き、次の補給部隊には軍務卿直下の部隊が代替としてやって来た。そうして警戒は解かず、ゆっくりと後方へ移動する。
ついでに放棄された兵器に関しても動けるようにして、鹵獲するか、もしくは跡形もなく破壊する。
こんなものが軍部のヤベーやつらに渡っては困るからだ。
後方へ下がったからといって悠長に休んでいる暇はない。
負傷者を纏め上げ、病院へ後送し、親御さんへ戦死報告にいかなければならない。
書類も記入しなければいけないし、何より今回は数が膨大だ。




