狂信者のお仕事7
最悪でも、人質解放と魔法陣の解除位はやらせんと何も解決しない。
「おい、ちょい待てや。こっちにも人質おるのを知っとっての所業か?生かすも殺すも俺次第やで、言動一つ一つに気ぃつけやぁ」と余裕ぶり、こちらの優位性を主張する。
「貴様ぁ!どれだけ俺を侮辱すれば済むんだ!!この卑怯者!!」
確かに今の俺は目の前の奴も怒り心頭になるほど、最低の卑怯者で悪役や。
ならばせめて徹底的に悪役らしく。
「だーかーら、お前のメイドはこっちで扱っとる。口には気をつけぇ言うたやろ。頭悪いんか?というかお前血ぃついた短剣見んかった?アレのお前んとこのメイドの血やで」
「お前っ!!!!」完全にお顔真っ赤どころか青ざめているような気もする。
情けない顔しとんなぁ。
「まあまあ、卑怯者言うならお互い様や。お前もこの街を襲わせて、何十人も殺しとるんやで、怪我人なんてナンボになる?それを平然とやっとるお前の方がヤバいと思うで」
「ちがっ、それは「正義の鉄槌やと言うんか?でもな、それをするにしてもお前では不適合。余りにも傲慢やで、せめて自分の王国を民主制、共産主義、修正社会主義でもええから成り立たせてみろや。もっと言うならこの国に来てまずお前がやることは一人の奴隷を買うことちゃうやろ。まあともかく、お前の所の奴隷を解放する条件は一つ。さっさとこのしょーもない時間稼ぎやめーや」
「............何の事だ」
「しらばっくれるなや、それともまだ始めてないんか。知らんけど。さっさと認めんと大変な事なるで既に″拷問″もされとるかもな」
「そんなこと......」
「ブラフやて言うんか?知らんで、過度な尋問かもしれん。将又「もういい!!分かった。結界は解除する。だからテナをここに連れてきてくれ」
「ん?連れてきて″くれ″?」
「ぐッ!連れてきて......連れてきて下さい」
「よっしゃ、交渉成立や。連れて来たろう。ただ、もし皇女殿下とレドル嬢、それにアルカナ嬢の身に何かあったらわかってるやろな!」
「あ、あぁ分かっt......分かりました」
そうして脅しつつその場を一旦去る。にしてもこんな満足感に浸ったのはいつぶりやろか、やっぱり人を嘲るのは楽しいなぁ。
同時に底知れへん罪の意識を持つことになるけど。
そうして教室まで戻る。依然として騎士団とは対立状態で若干の膠着がみられるものの、戦況が悪い訳ではない。
「タルレット先生。そのメイド借りて行きますわ、後はその武装も少し拝借させて貰います」
「それを持ってどこへ行く気だ?」
「交渉に使わせて貰いますそれでは」
「まて!ネルラント」
「なんですか?事は一刻を争う事態に成ってるんですよ」
「お前一人で交渉は危険過ぎる!」
「いや大丈夫です、もう一人頼りがいのある人が居ますから」
「して、その人とは?」
「近衛騎士団の団長ガウン・フォン・アルマナ、このバカ騒ぎの片棒を無理やり担がされている″生贄″ですよ。個人的な繋がりがありまして、まあ事前に警告は受けていたんですわ」
「なぜそれを知らせなかった!!」
「クソッタレの内通者がいたからですよ。敢えてそいつに騒ぎを起こさせて追い出す或いは引っ捕らえるというのも手法ですから。まあともかくアルマナのおっさんになんとかして貰いますわ。んじゃよろしく」
そうして縛られているテナを抱えて再び校長室へ。途中で扱いにくいドラムマガジンからよくある拳銃のボックスマガジンに変えた。幾つかマガジンを持ってたのをそのまま拝借し銃剣も外して、持ってきた。
「連れて来たったで。ちょっと待った。まずは結界を解いて貰おうやないかい」
「テナを渡して貰うのが先だ」
「もし解かんかったらこのチャカでコイツを殺すで。色々カスタムしとるんやろ?それが当たったらお前でもタダでは済まんねやろなぁ」
そうしてテナを転がしてナガサワに渡しつつ、銃口はテナの頭がいつでも撃ち抜けるよう、照準を合わせる。
「テナ............こんなになってしまって......」と俺を睨み付ける。
「はよせんかい」と急かし、セレクターを連射から単射に切り替えてテナの近くの床に向けて″拳銃″のトリガーを引く。再びセレクターを連射に戻し、照準を合わせる。
「《リヴァーレ》!」そうして床に描かれていた魔方陣が消失していく。
そこに引き金を引いて、残りの弾を全て叩き込む。
まあ当然対応される訳で。
「貴様っ!!!どこまでこの俺を馬鹿にすれば済む!!!」
「馬鹿にはしとらんよ。ただ俺はこのメイドを渡す代わりに魔方陣解除せぇ言うただけやんか。そこにお前らの安全なんて片時も保障しとらんわ」
「それでも......それでも!常識的に考えて、やってはいけない事ぐらいは分かるだろうが!!」
「大体、お前が常識常識のたまうなや。お前は街を魔物に襲わせんのが常識なんけ?ええ?!!」
「............分かった、分かった。貴様と俺は完全に袂を分けた。そんな貴様に俺から最後のプレゼントだ」と言い残し、《ワープ》で逃げようとしたところへ剣が飛んでくる。それは俺の横を通り抜けてナガサワへ届くかと思ったが紙一重の所で《ワープ》が完了してしまう。剣は空を切り、大きな音を立てて落ちる。
「待てや!!ッ!動かん?!あのアホ、ホンマ最後の最後で厄介な魔方陣を瞬間で設置しやがった!ゥ゛ッ!」
痛みの元である腹の方を一瞥し、すぐさま《リヴァーレ》を唱える。
「大丈夫か!?!?」と剣を投げたアルマナが駆け寄ってくる。
「まずは人質の保護を最優先!俺は自分でいけるから。我が身を癒せ《ヒール》!」刺さったのは肝臓の辺りだろうか、《ヒール》を唱えても気休め程度で流れ出る血は一向に止まらない。
それにしても迂闊だった。最後の最後で皇女殿下に″後ろから″刺されるとは......おおよそナガサワが最後で仕組んだプレゼントというやつなのだろう。それにしても態々王女殿下を転移させて何かしらの洗脳魔法をかけてと、芸が細かいというか、性悪というか......
「......だ、大丈夫ですか?大丈夫な訳無いですよね......今すぐそれを抜きますから......」と今にも泣きそうな震えた声で俺に刺さった剣を抜こうとするが、それを止める。
「今、これを抜けば更に出血を伴う事になります。ですから貴方は後の事を私達に任せて、無事を皆さんに見せてください」
「では......ではせめて中級魔法の《ヒーリング》を......」
「《ヒーリング》!!!」割り入ってきたのはあれだけレドル嬢を心配していたアンナ嬢であった。
「いきなり会話に割り入ってしまったことを御許しを、マリア皇女殿下。冷たい事を言いますが、今の貴方は邪魔です。泣きべそかいている余裕があるなら事態収束の宣言でもしてください」と俺の手当てをしながら言う。
「はい......」と答える皇女殿下の眼は虚ろであった。
「それにしても皇女殿下に向けてかなり厳しい事を言うなぁ」
「ええ、まあ仮にも人を刺していますから」
「操られていたんやからそこまで......」
「ネルラントさん。貴方刺されたにしては落ち着いてますね」
「まあな、皇女殿下も操られていたんやし......そこまで追い詰めるの可哀想やろ。流石に俺もそれぐらいの人情はあるで」
「あれだけ主犯に対して強情でいたのに?」
「見てたのか。てか見てたなら最後の一撃は止めに入ってくれ......」
「あの時は《ヒーリング》の詠唱をしてましたの。それで、それについてどのような弁明をなさる気で?」
「アレと皇女殿下をごっちゃに交ぜるなや。皇女殿下は少なくともあそこまで馬鹿でもない」
「えらくマリア皇女殿下贔屓なんですね」
「贔屓も何もありゃせん。何でもない無辜の人の尊厳を蔑ろにしない。ただそれだけの事。それ以上でも以下でもない.ッ痛っ!」反射的に血反吐を吐き、アンナ嬢の制服を汚してしまう。
「そんなに喋りなさるからです。黙っててください」
「すまない............」
そうして粗方の応急措置が済み、血も流れ出るのが少し治まった。
「騎士団長!頼みがある」
「何だ!」
「その馬鹿力でこの剣を抜いてくれ。このまま動くというのは......」
「ちょっと!!折角、応急措置が済んだ所ですのに!何を......」
「相分かった!よし抜くぞ......おりゃッ!」
「ぐッ!......我が身を癒せ《ヒール》!」止まりかけていた血が再び動き出す。ポタポタと垂れる。
今度は流石に流れる血はかなり少ないものの既に多量を失血しているので当然、貧血の症状が出てしまっている。
急いで在り合わせの布を巻き、止血する。
「何やってるの!!第一さっき、マリア皇女殿下に刺さった剣を抜けば───「普通ならアンタの治療で良かったんやけどな、急ぎでまだやることがあるんや、文句なら後で幾らでも聴く。治療ありがとな」
教室へ戻り、鞄に入れていた増血剤やら魔力増幅剤やらなんやらを飲み、無理やり体を奮い起たせて馬に乗る。




