狂信者と冷静な怪物
「ゲーム?」
「将棋というらしい、タブラナより東にある大秦帝国そのまたさらに東へ行ったエルフ族の島国、秋津国より伝わったものらしいよ」
そうして見慣れた将棋盤と駒が机の上にだされる。
「将棋か......」
「まさか知っているのかい?」
「以前に少しやったことがあってな」
まあ前世で友人相手に何十とやったとは言えない。
それにしても、現代将棋のそれが完成したのは江戸時代に成ってからだ。しかも略字、あまり見ないタイプの将棋駒だった。こうも偶然は揃うのだろうか。まあ、秋津国が史実日本の文字と同じ経緯を辿ったとしてもおかしい。
「どうしたんだい?駒を見つめて」
「発明した人が分かったりするか?」
「名前まではわからないけれどエルフ族の国で発明されたくせに発明したのはエルフ族じゃなくて人間ななんだってね。それがどうかした?」
「なんだそれややこしいな」といって苦笑する。
「それと、この駒の書かれている文字、分かるか」
「エルフの国の文字でもないし、分かんないけど、記号なんじゃない?」
「そうかもな」
ま、転生者か転移者か知らんが取り敢えずそういう存在は意図してかせずかは知らないが発生するようだ。
そうして将棋を手加減しつつも楽しむ。
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気がつけば西日が照っていた。
「もう時間だね」
「そうだな」
「いやー全然勝てなかったなぁ、君は敵の駒ですら利用して王を追い詰める」
「前に少しやったことがあるからな、敵の駒を使うのは割と基本戦術だと思うが」
別にそこまで変わった事ではない。
「そういう事じゃないよ、君のそれはまるで軍人みたいだね。あらゆる手を使い、目的の為なら大駒を失って王の守りすら失ってもそれを達成しようとする、もしかして本当に軍人だったりしちゃって?」
ぞくりと背筋が凍る。偶然か意図してかコイツは俺の事を見透かした様に話す。13歳にしては勘が良すぎる。物事を俯瞰的に見ている、ただただずる賢いだけの少年ではなく、その茶色の目の奥には常に冷静な怪物が住んでいる。
「そんな訳ないじゃないか、全くなにを言ってるんだか」
茶化したように対応する。コイツも時々として危うい時がある。
「分かってるよ、冗談だって。さて、取り敢えず馬車の中で色々な話をしようか」




