狂信者と食事
そうして部屋を出るとハルカトが待っていた。
「随分と話し合っていたようですね」
「聞いていたんですか」
「申し訳ございません」
「何も言わないのですが?」
「モノの善し悪しはその場の一面的見方では決めつけられません、後の世が決めるのです」
そして少しの沈黙。
「こちらです、そういえば今度、帝立ヴィタメールの懇親会があるそうですね、なにやらマリア王女殿下も参加されるそうで、これを」蝋でとじられた手紙を渡される。
「それにしても早いですね」
「主宰はフロスト商会の一大スポンサーである、スペンサー伯爵です、商売は情報が命ですのでそういった事にも詳しいのでしょう」
スペンサー伯爵か確か独自の謀略部隊を持ち、皇家の謀略を支えていた......前皇帝派だったな。これまた面倒臭いものだ。
「ありがとうハルカト」
「では夕餉の時間になればお呼び致しますので」
「分かった」
封を開けると場所と日時が書かれた参加証が入っていた。
それを礼服に仕舞って、用意してくれたサナトリア王国、及び周辺諸国の輸出入に関する資料を読み漁る。
「ネルラント様、夕餉の支度ができました」
「いま行きます」
そして案内されたのは食堂。豪華絢爛な装飾が部屋中に散りばめられている。庶民が一生懸かってもその装飾さえ手に入れられないだろう。
食器が置かれている軍務卿の対の所へ座る。
そして置かれている料理を食べる。テーブルマナーには最大限気を付けながらナイフとフォークを使って食べる。何の味もしない。別に料理が不味い訳ではない。幾度と無機的な食事を経験した、幾度と補給が来ない戦場を経験した。戦場の度に現地調達、なければ泥水を啜り、馬の餌や、虫、草木を食べた、極度の環境下での生活が続けば必然と舌の感覚は麻痺する。ある種の職業病である。
最も、馬に積める荷駄は限られているし、現地調達は立派な補給の一つではある。一説によれば馬車の補給限界は約125マイル(200kmちょい)らしい。これを超えると、補給隊に大部分の補給を持っていかれてしまい、前線に殆どの補給が届かなくなるという、要は現代戦のような車もなく、物資を大量に素早く、効率よく輸送できないこの時代では現地調達のみが大隊唯一の頼りである。
それに、隠密行動や、遊撃隊、電撃戦を行う事が多い大隊には中々補給が回ってこない。それこそ前線の他の部隊に補給を行き届かせる為に頑丈な大隊は放置されやすい。




