狂信者と魔法実技14
単純な話だ。砂ならば水を吸わせて重くしてやればいい。
それでも尚相手の有利対面だが、視界が一瞬でも開けるのならばそれでも構わない。相手は結界を″破られた″と、錯覚するのだから。
「水の聖霊よ、我に力を貸したまえ!《アクアバースト》!!」
水の上級魔法だ。こんなものを俺が撃てば一発だけでも魔力が空になる。
魔力の急な大量消費によって、視界が途切れそうになるが、それを堪えて奴の位置を確認する。
慌てたバイエルンは結界を解除して《アクアバースト》で出来た土と泥に使って俺を拘束しようとしている。
賭けに勝った
とはいえ、魔力はさっきの《アクアバースト》で空になってしまった、長剣も砂嵐の中でボロボロ、おまけに体のあちこちに砂でついた傷がある。
まさに満身創痍というがふさわしい状況。
あと使えるのは己の手足のみ。
最後の気力を振り絞って全力疾走である。
魔道士としては失格だ、間違っている。
だが、勝てば良い。
今日だけで体、特に足を酷使しているがもう少しだけ頑張ってもらう。
《アクアバースト》でできた泥が足にへばりついて残り少ない体力を確実に奪っていく。
そしてバイエルンの方も魔法の詠唱が完了した。
後は奴が俺を捕らえるかその前に俺が奴のもとにたどり着くかである。
バイエルンの方も相当追い詰められているようで、息は絶え絶え、肝心の照準に関してもめちゃくちゃにブレている。
もし、奴にまだ正確な位置に魔法を撃つ余裕があったならばとっくの前に既に負けていた。やっぱり結界を使えば、相当の魔力を消費する。
「おりゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「負けるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺の拳が奴の泥に捕捉される。
「フッ、俺の勝ちだ」バイエルンがニヤリとする。
「それはどうか......な?」火事場の馬鹿力というものを舐めてはいけない。時として予想外の結果をもたらす。
何も考えずに全ての力を込めて泥を振り切る。勢いそのままバイエルンの顔にクリーンヒット。
「し、勝者ネルラント・フォン・カンベル!」
なんとか......勝った......と思ったのも束の間、視界が暗転する。




