狂信者と魔法実技13
「チッ!クソ、周囲が見えない」
いきなり吹いた風と舞い上げられた砂のせいで物理的に周囲が見えないのは当たり前なのだが、結界が発動したことで奴の魔力が大量に溢れ、空気中の魔力もかなり乱れていて、どこにバイエルンが居るのか分からない。
完全に奴の場になってしまっている。
こういう時には落ち着いて気配を探る。
焦れば焦るほど勝利は遠のき、重要な事を見逃してしまう。
目を閉じたとはいえ、耳からは僅かばかり、バイエルンがこの砂嵐の中で動いている音が確認できる。音を拾えば大体の位置は分かるので後はそこへ向かって近接で勝てばいい。
このまま結界を維持するだけでも勝てるだろうに、少しずつこちらへ来ている。確実に仕留めようとしているのか?
それとも─────
結界はかなり強力で、こちらの訓練用魔道書の結界では、よほどな事がない限り上書きできない。
結界とは場を支配するモノである。魔道書や杖に一つだけ仕込まれた奥義といっても過言ではない。
なので、使い手を選ぶ。
威力としては上級-戦略級に分類されるが、基本的に魔力の塊を杖や魔道書といった発動機を通して、結界内部に流し込んでいるだけのモノで、厳密には魔法と言われない。
要は結界を発動するのは使用者ではなく杖や魔道書の方である、一般的な魔法のように使用者が自由に魔法の属性や飛距離、弾道を決めている訳ではない。
あくまで事前に組まれた、完成された魔方陣の中で、本人の魔力量の多少と運用の仕方によってその結界の持続する時間が変わる程度だ。
だからこそ、魔力量を上手く調節するという技術が桁違いに要求される、それを間違えると一瞬で魔力が切れてしまう。
それゆえに訓練用魔道書の結界でも、使いこなす事ができれば一流の魔道士とされる。
今回は圧倒的に質が違う。
粗造乱造の量産品と一品物の魔道書。
どちら優れているのかは火を見るよりも明らかだ。
つまりこの試合、勝率は5割を下回る。下手をすれば3割でも良い方かもしれない。
こうなれば残すは油断して近づいた所を一瞬で仕留めるしかない......いや、他にもあるではないか、最善の凡手が。




