狂信者と魔法実技7
ありがとうございました!と一礼してルークを背負って、救護班の所へと運ぶ。
「よろしくお願いします。彼は頭を強打してしまい、気絶しているので頭に氷、そして《ヒール》を掛けてください。前後の記憶が無くなっている可能性もありますがそこはまた言っといてください。
「え、えぇ。分かりました」あまりにも突然の事だからか、救護班の先生方も動揺しているようだ。
しかし、あの戦い方では魔道士というよりは魔法を使える騎士という方が近い、魔道士らしくない戦い方である。
「見事でした。ネルラント」
「皇女殿下......ご覧になっていたのですか」
「グランツさんには悪いのですが、少し気分が良かったです」
皇女殿下、時々かなり思いきった発言をするから困る。聞かれたらどうするんだと思う。
こういう時の俺の心というのはヒヤヒヤしていて常に五感を張り巡らせている。
「そうですか、私はあまりそうは思いません。これからの立ち位置を考えると憂鬱な気分になります」これはマジだ。正直な話、今まで目の敵にされてきた奴が強かった、なんて事になれば俺だって青褪める。
「つまらない事に拘りますね。それより勝てた事を喜びましょう」人はそのつまらない事に死ぬほど執着してしまうのです、と言いたくなるのを堪えて話を変える。
「......そうですね。皇女殿下はどうでした?」
「もちろん勝たせていただきました」
「流石です皇女殿下、えっと当たるとすれば決勝ですね。そうなればどうぞお手柔らかに」
「貴方ならば確実に上がって来るでしょう。その時はよろしくお願いします」
「分かりました。では私も戻ります」
「また決勝で」と微笑んでいた。
そして別れて、試合を観戦し、出番が回ってきたら、戦って、勝って、称賛もなく、罵倒もなく。
正直、あまり居心地の良いものではなかった。
気にしていなかったというのは嘘になるが、ある程度の付き合いはするし、別に復讐なんてもっての他だ。
だが、それを知らないから恐れているのだろう。誰も、心の内を知らない人の行動や発言は怖いのだ。
さて、どうしたものか............面倒くさい。
普通に優勝して、全員の前で冷遇に関しては一切の糾弾も、報復もしない、と。
貴族の名というモノもあるので、ある程度は信用してもらえるだろうか。




