狂信者と魔法実技6
「試合開始」その合図とほぼ同時に俺は魔道書を空中に浮かべ、ルークはなんの前触れもなく、《ファイアボール》を連射する。
殺意の高いこった。それにしても《ファイアボール》とはいえ連射するなんてのは常人には難しい事だ。
試合前から詠唱をしていたのだろうか。
だが、詠唱を急いだからなのか、元からなのか知らないが《ファイアボール》の大きさも密度もまばらな上に速度も100m/s程と遅い。別にそれだけなら問題ないのだが、それに加えて他の所からの流れ弾も激しい、少しやりにくい。誰かさん達が結界に罅を入れたせいでもある。
俗にいう、身から出た錆というやつかも知れない。
それでも、俺はその弾幕の中を危なげもなく、五体を器用に動かして、被弾することもなく、躱しながら突き進む。
途中で近接信管のように近くを通れば爆発するようになったが、《ブースト》を一瞬だけ足の太ももの筋肉にかけると瞬発的な加速が起きて、上手い具合に当たらない。
俺は更に足の前部に目一杯の力を入れてピッチを上げて、陸上選手なみに加速する。
ルークは慌てて短剣を構えるが、俺の攻撃に対応するにはあまりにも遅すぎる。
既に長剣の間合いに入っている。
俺が訓練用の長剣を鞘から抜いて、勢いそのままルークの短剣を長剣ではたき落として、首筋の大動脈に当てる。
「まだ、やりますか」
「まだだ!」というと首筋にある剣を左側へ避け、腹目掛けて拳を飛ばしてくる。
それをひらりと躱して、少し距離を取り、蹴りを入れて、よろけたところに足払いを掛け、そして左手で胸ぐらを掴んで地面におもいっきり叩きつける........................やり過ぎた、ルークは泡を吹いて倒れている。
「し、勝者!ネルラント・フォン・カンベル」
歓声も拍手もヤジも罵りもブーイングなく静寂。




