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甘々短編集

おもいで

作者: 衣谷強

瑞月風花様主催『誤字から始まるストーリー』参加作品です。


一人二作品までとの事なので、オーソドックスな誤字から物語を書いてみました。


『砂かぶり姫』の事は一旦忘れてください。

さもないと砂糖を吐く羽目になりますよ。

お心の準備ができましたら、どうぞお楽しみください。

『重いで』


 その言葉に目の前が真っ黒になった。

 発信者は幼馴染の帯布おびぬの重良しげよし

 メッセージのやり取りで、余計な事を書いてしまったのが終わりの始まりだった。


『部屋の片付けしてたら、昔重良からもらったペンダント出てきたー』

『え、そんなのまだ持ってんの!?』

『他にも描いてくれた似顔絵とかまだ飾ってるよ』

『大事にしてるんだな。重いで』


 関西弁で軽く言って、たしなめるつもりだったのだろう。

 でもそれは私を打ちのめすのに十分だった。


『ごめんすてるね』


 やっとの思いでそれだけ打つと、携帯の電源を切った。

 ふらふらする足で台所に行って、ゴミ袋を持って来る。


 ペンダント。

 海に行った時に拾った貝殻で作ってくれた。

 一回テグスが切れてバラバラになったのを拾い集めて直してくれたっけ。


 似顔絵。

 36色の色鉛筆を買ってもらったと、喜んだ勢いで描いてくれた。

 もっとカラフルな服を着ろって無茶を言われたなぁ。


 輪ゴム鉄砲。

 上手く作れない私の代わりに作ってくれたんだ。

 試し打ちが私の顔に跳ね返って大泣きしたんだった。


 牛乳キャップのメダル。

 私がピアノのコンサートで賞をもらえなかった時に、俺が賞をやる!って急いで作ってくれたなぁ。


 紙粘土の人形。

 これは私の作ったのと交換したんだったな。確か犬、だっけ? 微妙な顔してる……。


 お祭りの射的で取った指輪。

 私がほしいって言ったらお小遣い全部使って、取れなくて、お店のおっちゃんにおまけでもらったんだ。


 ガラクタだ。

 何で取っておいたのかわからない。

 みんなゴミ袋に突っ込む。

 さっぱりした。

 さっぱりしたら涙が出てきた。


「重良……」


 そうか。やっと分かった。

 ガラクタがガラクタじゃなかったのは……。


美鈴みすず!」

「え、重良!?」


 涙でよく見えないけど、間違いない、重良の声だ。


「お前、それ、その袋……」

「うん、今から捨てる。ごめんね。小学校の時の貰い物、後生大事に持ってるなんて気持ち悪いよね。重かったよね」


 これ以上嫌われたくない。

 だから、我慢、しなきゃ……!


「違うんだ! あれは誤字なんだ!」

「え?」

「俺との思い出を大事にしてるんだなって嬉しかったんだけど、携帯が変な変換して……」


 大事にしてるんだな、重いで。

 大事にしてるんだな、思い出。

 え、そういう事……?


「捨てるって書いてあったから誤解を解きたかったんだけど、お前全然既読付かないし、電話は掛からないし……」

「ごめん、電源、切ってた……」

「何で切るんだよ! お陰でこっちは大急ぎで走って来て……」


 見れば重良の額には汗の玉が浮かび始めている。

 必死で走って来たんだ……。


「何で……?」

「何でって、……そりゃ大事にしてくれてたの嬉しかったし、捨てたらもう取り返しが付かないし……」


 そうなんだ。

 私、これ大事にしてていいんだ……!


「じゃ、じゃあ誤解も解けたところで、俺帰るな」

「あっ、待って!」


 気付いた気持ち。

 伝わった気持ち。

 今話さなきゃ!


「あっ!?」


 急いで立ち上がったら、袋で滑った!

 バランスが、崩れて……!


「ぐえっ!?」

「ご、ごめん重良!」


 けんけんで三歩歩進んだ私は、重良の背中にダイブした。

 崩れたおんぶみたいな体勢で、私は重良の背中に乗っている。

 首筋から、汗と重良の匂いがする……。


「あ、あのさ」

「な、何だよ! お、降りろよ!」


 その耳元に、小さく。


「……私、重良の事、好き、みたい……」

「えっ」


 起きあがろうとしていた動きが止まる。


「お、俺の事、好き……?」

「〜〜〜っ!」


 聞き返すなバカ!

 めちゃくちゃ恥ずかしいじゃんか!


「お、俺も……」


 え……?


「俺も、好きだよ。美鈴の事……」


 え。

 え、え、えええぇぇぇ!?

 慌てて身体を離そうと浮かせると、寝返りうつみたいに身体を回す重良。

 あ、あの、これ、私が押し倒したみたいに、なってない……?


「重良……」

「美鈴……」


 目が合って、

 腕の力が抜けて、

 重力に逆らえなくなって、

 私の唇は重良の唇へと吸い寄せられていった……。




「……来てくれて、ありがと」

「あ、あぁ、それにしてもまさか美鈴があんな一言でダメージ受けるとは思わなかったなぁ!」


 私を胸の前に乗せたまま、重良は何か言っている。

 耳と頬から聞こえる重良の声が気持ちいい。


「あー、その、何だ、そろそろ降りてくれるか?」

「もうちょっと、いいじゃん」

「でもな、その、お前ちょっと……」


 何だろう?

 ……あ! お、男の子が反応しちゃってる、とかかな!?


「重いで、なーんて……」

「!」


 私の振り上げた拳が、さっき唇が触れた地点を目掛けて、隕石のように落ちていった……。

読了ありがとうございます。


誤字が後押しするド直球ラブストーリー、いかがでしたでしょうか?


さて名前は誤字から企画に相応しく、

来藤らいとう美鈴みすず=write(書く)miss(失敗)

帯布おびぬの重良しげよし=type(文字を打つ)error(間違い)

という感じになりました。


物語になり、かつ無理のない誤字って難しいですね。

でも思い付くと楽しい!


瑞月風花様、素敵な企画をありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 食後はブラックコーヒーで締めたいと思います。 でも、私としてはもっと甘々でも美味しくいただけます。 思いが通じ合っているのって良いですよね。 [一言] 何気なーくやってしまう誤字。 …
[良い点] 重良は最後の一言が余計でしたね。 これは将来、美鈴の尻に敷かれそうだなと思いました。
[良い点] キャーーーーー! キャーーー キャーーー キャーーー!! (≧▽≦)! 「誤字から企画」より参りました! いやー、良いですねぇ! ストレートなラブコメ! もう安心して「キャーーー!」です…
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