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06. 決意


「ふうん、そうなんだ。でも、そんなことわたしに話して良いの?」


「……ティナ、お前は疑うと言うことを覚えた方が良いんじゃないのか?」


 神霊代理戦争(ラグナロク)の話を聞き終えたティナの、マキナを疑う様子のない言葉に……マキナはあきれたように告げた。マキナだって理解している。このラグナロクにまつわるストーリーは、荒唐無稽で、あまりにも奇想天外で、容易に信じられるようなものではないということを。こんな事を告げられて、簡単に信じてしまうような人間は……この過酷な世界で真っ当には生きていけない。早い段階で騙されて、強制労働か何かで一生を棒に振るのか関の山だ。


 そんな思いを込めたマキナの言葉にしかし、ティナは可愛らしく首を傾げて見せる。


「え……? だってマキナはこんな事で嘘つかないでしょ?」


「……」


 その言葉に、マキナはなるほど、と納得する。確かにマキナがさっきまで考えていた事は、一般人と話しているときには正論なのかもしれない。しかし、マキナとティナの関係性の上では不適切だったのだ。ティナはマキナが嘘をつく人間かどうかを知っているし、逆に言えばマキナもティナが冗談は好きだが嘘はあまりつかない人間だと知っている。情報の伝達に余計な検証作業が必要ない。そんな関係性は、効率の面でも好ましい関係だ、とマキナは判断を下す。アーティファクト一直線だったマキナには、ティナの持つ信頼以上の感情に、深く気づくことは出来ないようだ。


「……もしかして、冗談だった? マキナ、わたしをからかうつもりだったの!?」


 いつまでも黙り続けるマキナに、流石のティナも心配になってきたらしい。顔を赤くさせ、少し焦った様子でマキナへと突っかかる。


「いや、そんなことはない。全部真実だ、ティナ。実は白髪の神物から協力者を作るときは話をして良いと言われていたんだ。まあティナなら協力者にならなくても……」


「ううん、なるよ? マキナの頼みだもん」


 ティナなら協力者にならなくても、秘密は守ってくれるだろう? とマキナはティナに問いかけるつもりだったが、しかしティナはその言葉を遮るように口を出した。ティナはあたかもそれが当たり前であるような顔で告げた後、まるで悪戯をするかのように顔をほころばせてマキナに言う。


「それに、マキナは決めたことに夢中になると、他のこと全然やらないもんね。昔も部屋で工作に熱中して、ゴミを片付けないどころか服の整理とかご飯も全然食べなくて怒られたりね? その辺ちゃんとしとかないと、代理者との戦いでご飯食べなさすぎて負けちゃったりするかもよ?」


「大丈夫だ、戦闘の三時間前に流動食は流し込んでる」


「ほらー、そういう問題じゃないでしょ? ちゃんとご飯は食べなきゃ」


 マキナの不規則な生活習慣を訊いて、心配しながらもどこか嬉しそうに注意するティナは、急にマキナへ背を向けたかと思うと、半身になって振り返る。そしてそれはそれはとても嬉しそうな、楽しそうな笑顔でマキナへと告げた。


「もう、そういうことちゃんとしてね? わたしが協力者になるから!」


「……ああ、頼んだ」


 そんなティナを眩しそうに眺めながら、マキナはそう答る。そしてこれからの事を思って、どこか期待するように苦笑した。








◆ ◆








「とりあえず、一人目の代理者は倒しました。それと、協力者も獲得しました」


「ふむ、よくやった」


 そして、マキナはまた黄昏の空と、汚染された雲の上で白髪の人物と向かい合っていた。


 時はティナとの会話を全て終わらせてから、少し経った頃。互いに久々の邂逅で得た疑問や不安を解消し合い、また協力者になることを約束して、元の街に戻る準備をしているところだった。マキナはまた目眩にもにた極彩色の視界を通り抜けて、この場所へと召喚されている。


「それで、代理者現れたら……えーと、また神様が教えてくれるのか?」

「ヴァイスで良い」


 白髪の神物……いや、ヴァイスは短くマキナにそう言うと、申し訳なさそうに言葉を続けた。無論その特徴的な長髪で顔は見えないので、顔の表情からではない。表情以外、つまり雰囲気や声でマキナにはそう感じられる。


 また、教えてくれる。


 そう、マキナが今回のターゲット、ウチムラを強襲出来たのは、事前にヴァイスがウチムラの能力と出現タイミングをマキナに伝えていたからだった。そうでなければマキナが住む街から離れたこんな場所に、マキナが来るわけがない。代理者が全員で何人かは知らないが、少なくとも全人類と比べた比率はとても少ないはずだ。手当たり次第に探したとしても、相当な労力がかかることは間違いない。捜索場所が、人の来ることの少ないこんな高地ならなおさらだ。


「わしが全ての代理者について教えられるわけではない。故に、お主が気づかず接触した人物が、代理者であることもあるだろう。わしが教えられるのは、他の神が自慢げに話している情報を横流しすることぐらいじゃ。まあ、まだ数人分は集められそうじゃがのう」


 どうやら、ヴァイスがマキナに渡してきた情報は、口の軽い神がぽろっと漏らした情報、らしい。つまりはラグナロク正規の手段、情報公開義務などから持ってきたものではなく、イリーガルに近いもの、なのだろう。たしかにそんな情報の裏を取るのは面倒くさいし、情報が集まるのに時間がかかる、というのは理解できると……とマキナは思う。


「そうなのか。じゃあ基本的には、アルケミストという道と、冒険者という道で希代の偉業を残す努力をする。その際に、代理者と疑わしき者がいれば……代理戦闘で勝利し、代理権を奪う。こういう流れで良いんだな?」


「その通りじゃ。まあ、代理者は神から代理戦争を上手く進めるために、チート能力(ギフト)を授かっておる。相手が普通に考えて異常な能力を持っていたりするのならば、代理者ではないかと疑うのが良いじゃろう」


 これからあまりヴァイスの支援が期待できないと分かったマキナは、これからの行動原理について今一度確認をしてみた。ともすれば一生の間続くかもしれないこの代理戦争(ラグナロク)、次回はいつヴァイスと出会えるかどうかは分からない。確認できる内に、自分が有利になり得る情報をヴァイスから引き出しておくことは、とても重要なことだと言えた。


 この後も、マキナの気になることをいくつかヴァイスに問いかけて、それに対してヴァイスが答えられる範囲で答える……という作業を何度か繰り返し、マキナは着実に情報を得ていく。


 ヴァイスも自らの勝敗に直結する要素だということが、当事者である以上理解している。恐らくあるであろう第二次神霊戦争(ラグナロク)のルールギリギリを攻めた情報を、マキナに与え続けていた。








◆ ◆








「……さて」


「……マキナ?」


 そんなヴァイスとの問答を終え、現実世界に戻ってきたマキナは、情報をまとめるために一言呟いた。


 価値ある情報は多々あれど、一番はこれからの行動原理をはっきり定めることが出来た、という事だろう。後世に大きく名を残す。そのために、アルケミストと冒険者、両者の道を究めていく、という行動原理を。


「ティナ」


「なに、マキナ?」


 打てば響くように、突然マキナが発した呼びかけにも戸惑うことなく答えるティナに、マキナはとりあえずの目標を告げる。


 それは、マキナだけではなく、男なら誰でも憧れる道。自らの力を以て、強力なモンスターをなぎ倒す、極め上り詰めれば一種英雄とも言えるだろう存在。


 S級冒険者。


 それにたどり着くために、まずは……。


「まずは、冒険者登録だ。ティナ、案内を頼んだぞ」


「分かった、任せて!」


 そうしてS級冒険者と、アーティファクトに手を伸ばすアルケミストは、古竜討伐と代理戦闘勝利という栄光を引き連れ、自らの住む街に凱旋していったのだった。




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