04. 目撃者
『代理者:ハンゾウ=ウチムラは敗北しました。代理権を剥奪すると共に、転移者のため元の世界に強制送還します』
辺り一面に続く氷の世界に佇むマキナの頭に、そんな声が響く。それは白髪の神物の声ではなく、どこか冷め切ったような女性の声であった。
「よし、問題点は洗い出せたな」
マキナは倒した相手の方には目もくれず、全てを決着させた魔導装具……いや人造神装、『アブソリュート・ノヴァ』を手の中で弄ぶ。
倒された男、ハンゾウ=ウチムラは恐らく生きてはいるのだろう。一度目の『アブソリュートゼロ・イミテーション』は『加減熱操』に相殺されて、ウチムラ自身が絶対零度まで冷却されることはなかった。二度目の『アブソリュート・ノヴァ』は防ぐことは出来ず、一瞬で常温に戻したとはいえウチムラの身体は絶対零度に晒されている。そのダメージは、すぐに治療しなければ生死に関わるレベルのものであろう。
だが、そんなダメージも最早関係はない。代理戦争に負けた、転移者であるウチムラは、元の世界に強制送還されるのだ。まるで神々しい葬送が行われているかのように身体を暖かい光に変え、だんだんと存在を霧散させていく。
「同じ代理者相手には、ギフトを使わないとダメージが通らないのか……」
ギフトを使った攻撃。即ち、全神未踏の領域に踏み込んだアーティファクト。
『アブソリュート・ノヴァ』。
このアーティファクトが『アブソリュート・ゼロ』と違うのは、現象を起こすロジックの部分だ。『アブソリュート・ゼロ』が膨大な魔力と徹底的な効率化を施して極大領域を絶対零度にまで冷却するのに対し、『アブソリュート・ノヴァ』には冷却機能など一切ついていない。
世界そのものに記述された存在情報に干渉して、そこに書かれている情報を書き換えただけなのだ。
干渉しているのは個人や現象ではなく世界であるため、魔法の次元では抵抗不可能。同じアカシックレコードに干渉する術がなければ、妨害さえ出来ない。
今回使用した範囲は、一辺二十メートルの直方体内部。マキナを巻き込まず、男を完全に飲み込む空間全てを、絶対零度状態に『設定した』のだ。
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「アカシックレコードを通さないとダメージが通らないとなると、全武装を最初から設計し直す必要があるか」
マキナは何でもないことのように呟くが、それはたった一つだけでも後世の教科書に載るレベルなのだと、気づけているのだろうか。
現象を引き起こすのではなく、アカシックレコードに手を伸ばす。例えアカシックレコードに手を伸ばした結果、出来たことがただ色を変えることだけでも、それは神すらたどり着けなかった境地、アーティファクトを超えたアーティファクトなのだと。
これが、一種類作るだけでも多大な栄光と共にあるアルケミストにおいて、唯一無数と呼べる種類のアーティファクトを作ることが出来た、マキナの手法。この時代において、いや後世に至ったとしても、再現までに永い時を必要とする真性人造神装が、初めて世界を書き換えた、そんな話だった。
「いや、アカシックレコード干渉は、世界の修復力で持続時間が短い。あくまで奥の手や、メイン攻撃用の魔導装具に干渉能力を付与し、迷彩やデコイみたいな補助能力は今のままで行くのが妥当か」
そんな、人造神装に興味が一本化された少年が、戦闘の振り返りもそこそこに、思考へ没頭している瞬間だった。
「ま、きな……? な、にやっ、てるの……?」
とんでもない光景を目撃したとばかりにどもらせながら、震える声が放たれたのは。
神装魔導:『アブソリュートノヴァ』
威力 :SSS
効果範囲 :A
致死性 :SSS
防御可能性 :SSS
世界情報干渉:A
全神未踏の域に達する、『アカシックレコード干渉技術』を用いて製造された魔導装具。それは、既に神の領域に手を出した『人造神装』の域を超え、『神装魔導』と呼ぶべき魔導装具になっている。
世界に刻まれたアカシックレコードに干渉して現象を起こすため、防御も困難、予測も不可能である。
世界で唯一アカシックレコードに手を出せるアルケミスト、マキナが初めて創造した神装魔導である。