前章その1 アレクシアは8歳になりました
退屈なお話ですがすみません。
2021-01-05改定
転生してからおおよそ三年の月日が経ちました、前世の知識を生かしていやらしい事を沢山…
い、いえ魔力の開発や超能力の行使ができるように隠れて励んできた甲斐があります。
せっかく魔法が使える世界へ転生して、自由に各種勉強や鍛錬ができる見放された辺境伯令嬢ですので、たとえ追放されても手に職をつけていれば庶民生活でも苦労はしなさそうです。
そして日々の生活の支えの一つである大好きなお姉様が王都へ進学の為近々いなくなってしまいます。
そんな悲しい季節です・・・
「パンパン!はいオシマイようやくリズムが体に馴染むようになったわね、アーシャちゃん」
「御婆様のお蔭です、アバお姉様もお付き合いありがとうです」
「アーシャあなたのお蔭よ、私男パートも完璧に踊れるように成れましたしね、お婆様、私の社交界デビューの時は男装で臨んでみましょうか」
「何をおバカな事を言ってるの、私の自慢の孫を男装させて隠したりはさせません。
それと貴方はもう少し素直な物言いを心掛けなさい」
性格は相変わらずなアルバータお姉様ですが、外見は花咲く寸前のツツジの花の蕾でしょうか花言葉と中身が違うけどお綺麗です。
今は社交界用のダンスの練習で、先生に習った事を不器用な私は、皆に手伝ってもらい復習していた所です。
前世のアドバンテージなんて在りませんともきついです。
そして居間へ移動して休憩のお茶の時間となった。
「御婆様、御爺様は今日はお見えになられないのですか?」
「主人は商談の詰めがあるとかで城下街の商会で話し込んでいるわ」
御爺様達は商会なども経営していて、それらの収入とお父様からの支援金の収入も加わり裕福な生活を送っている。
その商会がアルフォード家裏組織の表の顔の一つでもあるそうです。
「そういえばアーシャちゃん、最近は家族とお話しているの?」
「全然ですね、偶にお父様が様子見がてら話しかけてくるのと、マーティン兄さんと鉢合う事が多いでしょうか、女性陣は全くないです」
そうなのです、相変わらずい育児放棄状態が続き、御爺様の家の子状態となっています。
偶に家老の人や侍女長達が見に来ては私にあれこれ探るように話しかけてきますが、両親への報告なんでしょうね。
ああ、両親や姉兄達とはうまくゆきそうにありません。
「相変わらずなのね、オリアーナ様とジャクリーンは。
所でお婆様、私も王都へ行く時は、奥方様やジャクリーンと馬車とは別ですよね」
「何を言っているの、貴方はブラッドリーの婚約者で従姉妹なのですから胸を張って同じ馬車に同乗していきなさい、ジャイクとも仲直りするのよ、アルフォード家の女が戦場で敵対していてどうするの」
「想像すると胃に穴が開きそうですわ」
姿勢を崩さず受け答えをするお姉様は素敵です、ですがアルバータお姉様の性格からしてボッチになりそうだから仲良くしておいた方が良いかなとは思いますが、言いません、ほっぺたをつねられますから。
アルバータお姉様とももう直ぐお別れになりそうですが、思い出を一杯作っておきたいところです。
ですがお姉様と、お母様たちとの関係も大変そうです、ご愁傷様です。
そこで御爺様がいらっしゃらないのではぐらかされた事柄を尋ねてみた。
「御婆様所でお聞きしたい事があるのですがよろしいでしょうか?」
「あら今度はなんです?」
「御爺様はまだまだお若いのにどうしてお父様が後を継いでいるのですか?」
御婆様の表情が渋い顔に替わり、お姉様は空気読めという表情をしている。
不味かったかしら?
「そうね、貴方なら理解できそうだから教えてあげましょうか、10年程前に隣国のマルセイル王国との戦争で寄子の軍勢が集まる前に辺境伯軍だけで交戦して大敗したの、そこで長男であるジャクリーンのお父様ナイジェルと、次男のネルソンが戦死した位の大戦ね、訃報を聞かされた時は辛かったわ」
「御婆様ごめんなさい、続きはいいです」
「いいの知っておきなさい二人共、ネルソンが先に戦死して残ったナイジェルを逃がそうと主人が血迷って殿軍の指揮を執ろうとしたの。
総指揮官がそれをしたら不味いと思ったナイジェルンが主人を気絶さえ、本隊の離脱する時間を稼いで帰らぬ人になってしまったのよ。
親から見たら肯定はしたくない選択だけれど、亡くなった遺族たちに対しては殿軍で責任を取った姿勢を納得させて、アルフォード家に対する不満や混乱を最小限に防いだわ」
「そうでしたか、皆はぐらかして教えてくれないのですがお父様って勇敢でしたのですね」
凄い話だ、詳細は触れないが御爺様の判断ミスが招いた結果みたいだ。
「そうね、部下には慕われた将来有望な息子でしたね。
それから寄子勢と合流し敵軍を国境まで押し戻した時、王国軍が到着して後詰を寄り子軍押し付けて、独断でアルフォード家の軍勢を率いてマルセイル領内へ進攻して」
酷い話だ、御爺様は失点を取り戻そうと連携を無視して敵地へ侵攻?どう見ても負けフラグじゃん。
「結局領内での反撃で指揮官達を倒していて混乱してたみたい、そしてアルデンヌ地区を占領したらガルマニア帝国も進攻してして、マルセイルの首都を陥落させ嫌な帝国とソルニエ河を国境を隣り合わせとなり戦争は終了、後続の王国軍達は食料輸送やら治安維持やらで苦労したみたいだけど」
そうか、王国の計画だと緩衝国としてのマルセイル王国が無くなると困るよな、結局旧マルセイユ領は王国直轄地ながら辺境伯家に委託統治とかわが家の復興資金持ちで治安維持なのど失点待ちな対応をされてるし、今の王様と父様は学園での親友と聞いてるけど狸だな、まあ私の想像だけど。
「講師の人は陛下の密命で隙が生じたから、攻め入ったと伺いましたが?」
「それは後付けね、誰も帝国とは関わり合いたくないから、緩衝地帯としてのマルセイル王国に価値があったのだけれど、独断で壊してしまわれたから」
成程やはりね、それで国王陛下を怒らせたのね、王国は侵略国家ではないから。
「そういうわけで表向きは勝ち戦なのですが、国王陛下が主人に厳しい判断を下したの」
「それが父様に家督を譲れと言ったのですね」
「そうね、余り前の国王陛下と良い仲でなかったからかも、それでブラッドが指名されたのだけれど、あの子は家を出て王都で宮廷官僚職に就いていたの、家に居たくないからという理由でね。
おまけにオリアーナとも家の事も考えず勝手に恋愛結婚していたから」
「お父様は若い頃はやんちゃな人だったんですね、皆いい事しか言わないですけど」
「そうね、変わり者だったわ、それで主人が形だけ後見する形で辺境伯に就いたのだけれど、家中が割れていて主人の弟のデイビッドに継がせその息子のアランに貴方を嫁がせようという話が上がったの?」
「知らなかったですお婆様、そんなことがあったなんて」
珍しく歴史の話でアルバータお姉様が乗ってくるなんて、こういう話はいつも聞き役で自分から乘ってくることはないから珍しい。
自分の婚約に絡む話なのだからかな?
そしたら、今回の戦いの原因がデイビッドの内通が切っ掛けと露呈した物だから、デビット一家は全員処刑、官僚、軍の幹部も複数処分された大騒動が起きたの。
辺境伯家の情報部門を取り仕切っていたデビッド一派の腐敗ぶりに、引退した主人が再建しながら家中でブラッドを支えるため家中をまとめ仲が悪いけど後見人を務め、その一環で孫のクロードに貴方を嫁がせて家中の安定を図ってみたら上手く成功した、そんなお話ね」
「そうですか、それで父様がその後しっかりと働かれたという事ですか?」
「そうね、あの子は王宮で直ぐに上級官僚に上がれる位優秀だったからですかね?あっという間に主人が後回しにしていた内政問題も解決して見せて、軍も専門の者に任せて重要な決済はしっかり確認する形で成功して今のアルフォード家の発展に至りましたという流れね。
初めは主人のお膳立てに大人しく従っていたけど、まあ性格の違いが出て今はブラッドが采配しているといった所、親とそりが合わずに王宮で働いてたのに家督を継がされるとは気の毒でもあるのかもしれないわね」
成程講師から聞く話とは違うのだなと思った、当事者の話は貴重だね。
お父様も好きで辺境伯家を継いだわけじゃないのか、確か軍務経験者じゃないといけないとか聞いてるけど。
それにお母様が変なのも辺境伯婦人という立場が嫌だったりして、想像だけど。
ついでに謎の人について聞いてみよう。
「そういえば、ナイジェルン叔父様の配下の騎士で凄い活躍をしたけど家中でタブー視されてる人が居られたとか?」
「・・・あっそれは狂犬バーリングのお話ね。
ナイジェルンの部下で下級兵士だけれど、物凄く強くてナイジェルンにも可愛がられていた子なのよ」
「出世物語ですか?」
「そうね、あの子一人で戦況をひっくり返したそうよ、私は戦場に行ったことないから聞かされた話だと一騎当千という者だそうね。
退却戦で槍ではなく長剣で騎兵相手に先頭で突っ込んで指揮官だけを狙って攪乱させ、後に後続の兵が支援するという形で数千名の敵を押しとどめたのよ」
「す、すごいです御婆様!」
「それで敵陣を突破して戦死したナイジェルンの遺体を回収して、かすり傷を負った程度で生還したのよ」
「それがお父様の遺体を回収された方なのですね、教えてもらっていないですわ」
「そして、後も疲れた体を物ともせずに追撃戦でも、生き残ったナイジェルン隊の下級兵士達を率いて突撃隊として名を上げたの、聞いたら只前線で剣を振るいたかっただけだそうなのだけれどね」
「凄いですね、まるで剣聖様とかのお話みたいですでもどうして名前を聞かれないのですか?」
「あの子は褒美としてアルフォード家の騎士爵として取り立てられて、箔付けにアルフォード家の遠縁の娘を嫁にして順風満帆と思っていたのよ」
なんとなく展開が読める、下層階級の成り上がりだから歴史ある辺境伯家で同僚との軋轢が想像しちゃうかも。
まあ、無能扱いな私には縁のないお話だけど。
「いじめられたのですか?」
「それもあるけど、騎士爵になると剣を振るうだけでなく、領地の管理から騎士団の業務に奥方や子供の相手などで嫌気がさして出奔してしまったのよ。
思い描いていた物と違うとね」
「まさに武人様ですね」
アルバータお姉様も相槌を打ってるが。要は現場で輝く人に功績を上げたからと管理職にしてみたら鬱とかで辞表も出さずに逃げたという症例かな?
「出奔前に私には挨拶しに来たけどね、残された母子には財は全て残すから何とかしてあげて欲しいって、呆れたけど律儀なところもあって忘れられない子だったわね」
「残された母子はどうなったのですか?」
「騎士爵としての領地は取り上げられたけれど、功績を考慮して子供のジョニーが成人して騎士としての能力があれば騎士爵への復帰を認める温情的な判断になったわ。
バーリングの才能が受け継がれているかもという判断が大きいそうよ」
「ジョニーさん物凄い重圧ですね」
「そうね幸いにも才能はあるし、実家が代官職できちんとした教育は受けられるから、騎士として失敗しても路頭には迷わないから大丈夫でしょう」
「道理で表立っては話されないのですね」
凄い、こんな不器用な人は話を聞くのは好きなのだけれど、アルフォード家としては家を救った英雄の顛末が酷いだけに、周りの人達から迷惑がられるのは困りものだけれどね。
不名誉な家だから履く付けに忌み子の私を下賜させる…
「あの、御婆様、ジョニーさんには婚約者はおられますか?」
「何?アーシャ興味あるの?」
何にんまりしてやがりますのこの姉は!
「いえ、いませんね。
あの子の才能が開花するのを本家筋が狙ってろ所でしょうかね、出自が良くないけど才能があれば嫁側の血で対面は保つと考えてるようね、いやな話。
心配しなくていいわアーシャ、あなたは自由にしていなさい」
「あ、そういうわけでは…」
「おばあ様、私のお母様は…どうして私を捨てて実家へと戻られたのでしょうか?」
行き成りアルバータお姉様が御婆様に尋ね始めた、不味い話な気がするけれど。
「そうね、あの娘はちょっと出世願望が強かった、それだけよ」
「残された私が女だから家督を継げず、後見人として影響力を振るえないからでしょうか?」
「そうよね、でも主人が生きていたからどの道口出しは指せないし、ナイジェルンが亡くなった時点であの子の人生計画が終わったみたいね。
アルバータ、私達は孫でなく娘として愛情を注いできたけれどダメかしら」
「いえ、気になっていただけでして、愛情を注いでくれた事には大いに感謝しております」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
そうして、話の流れが又元に戻り話の流れが戻っていった。
捨てられた子供の立場っていう物は辛いよね、私もそんな感じですし。
そうして、アルバータお姉様の自覚形成に影響があったのかもと思う事にした、そして。
「御爺様は当主の座を譲らされたわけですが何も不満が無かったのですか?」
さらに欲張った質問を御婆様にしてみたら、アルバータお姉様の侍女アルセラが睨むような目つきを見せながら会話に割り込んできた。
「お嬢様、そろそろ外が暗くなってまいりましたので、お屋敷に戻られてはいかがですか?見えない物を見ようと背伸びをすればお足元をすくわますよ」
「そうですよアレクシアお嬢様、御夕食が御近いですからまいりましょう」
ルーシーもあわてて私に駆け寄って来る。
普段アルセラとは違う冷めた口調に背筋が一瞬ゾっとして明らかに話されたくない所に踏み込んだようで、アルセラの忠告を受け入れ立ち去ることにした。
本当はもっと聞きたいのだけれど本能が危険と呼びかける。
「そうでした、御婆様のお姉様私の我儘に付き合って頂き有難うございました」
「いいのよ、この辺りの話はいつか知らなければいけない話だし、本をたくさん読んでる貴女なら私の口から聞いた話も参考になるでしょう」
「そうですね。お婆様聞かされない興味深い話しが聞けましたわ」
三人それぞれ場を収めると解散となった。
メイドのアルセラさんの視線が厳しいけど、我慢我慢。
そしてルーシーを連れて本館までの家路についた。
「ねえルーシー中々興味深いお話だったね」
「そうですね、冷や冷や物で私が聞いていたら良くなかったかもしれませんが、デイビット様関連のお話はアルフォード家では禁句なので気を付けて下さいね」
「解りました、所でアルセラさん怒ってたかな?」
「先代様にお仕えして長いお方ですから、語ってほしくなかったお話と考えて、止められたのかと存じます。」
「え、30前後位の年齢じゃないの?」
「いえ、エドモンド様の同年代です」
「そっか、気にしないで置くね何か闇を感じます、もう少し大きくなったら御爺様に直接聞いてみよう」
「好奇心は程々になされた方が良いと思いますよ」
そうルーシーに窘められて会話も止まると、色々頭の中でまとめながら静かに本館まで歩き続けるのであった、夜の帳の中を…