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出会い


 ――青い空


 ――森に囲まれた緑の平原


 ――そして、サーベルタイガー?


 転移してきた俺を待っていたのは、高さは三メートルはあるだろうと思われる、でかい牙の生えた猫だった。


 俺はなにか神様の気に障るようなことをしたのだろうか。いきなり死にそうなんだが。


「ぐるるるるるっ……」


 おっとまずい、今にも襲い掛かってきそうな雰囲気だ。このままではあっさりと殺されてしまうな。さて、どうしたもんかな。


 まだ警戒してるようだが、弱みを見せたら一気に襲われそうだ。とりあえず、目を離さずに……気持ちで負けるな……。


 ――俺はお前より強いぞ……俺はお前より強いぞ……


「がる!? ぐるるぅ……」


 気のせいだろうか、なんだか怯えているように見えるな。

 このまま逃げてくれないだろうか。


 ――……逃げないなら殺すぞ?


「!? が、が、がおおおおおお!」


 ――なっ! 急に襲ってきやがった!


 突っ込んできたサーベルタイガーを必死の横っ飛びで回避したが、体勢をくずしたところに反転して突っ込んできた。


 ――かわせない! 何か策は―― 


「《アイスニードル》!」

「ぎゃひん!」


 突如声が聞こえ、さらに拳大の氷柱がいくつも飛んできてサーベルタイガーに突き刺り、そのまま森の奥へと走り去っていってしまった。


 ――助かったのか……?


「大丈夫か?」


 サーベルタイガーの走り去った森を見ていた俺に後ろから声を掛けられた。


「ん?あぁ、すまん、助か……ったぞ……」


 声を掛けられたほうを向きながら答えた俺は目を見開いて固まってしまった。


 そこにいたのは自分より背が低い女性だった。


 髪は青く長い、光に反射し綺麗な光沢を出し靡く髪も細く美しい。前髪も綺麗に整えられ、少しきつく見える横に切れる目の瞳も青。芸術品のような整ったすらっとした鼻。それに対して控えめな唇。

 ここまでなら、とても美しい女性だで済むので、そこまで驚くことはなかっただろう。問題はまず耳だ、横に尖って長い。そして耳の少し上から出ている長い角。極めつけは肌色、薄い紫だ。ぱーぷるだ。


 若干、混乱している俺を見て、彼女は驚いた顔をして先程とは違う厳しい目を向けてきた。


「おぬし、何者じゃ?」


 右手に持っていた木の杖をこちらに振りかざして質問をしてきた。何か似たような台詞をさっき聞いたなぁと思いながら、どう答えようか迷っていた。


「もう一度問うぞ。おぬしは何者で何故ここにおるのじゃ?」


 かざされた杖に光が集まってきた。おお、魔法っぽいとか感心している場合でもなさそうだ。おそらくこのまま黙っていても何か撃たれそうだ。だからといって何かごまかそうにもこちらの世界のことなどわからない俺が嘘をついたところですぐにばれるだろう。


「最上恭介と言います。先程はあぶないところをありがとうございます。信じられないかもしれませんが、私は別の世界から来ました」


 とりあえず、営業スマイル全開で正直に話してみたが、我ながら胡散臭い。誰が信じるというのだろうか。


「……そうか、何か事情がありそうじゃな。わらわに着いてまいれ」


 そう言って杖をおろすと森の中へと歩いて行った。


「……は?」


 なにかの罠か。それとも今の話を信じたのだろうか。さっぱり分からない。


「"は?"ではない。はよぉ来ぬか、置いてゆくぞ」


 まぁどっちにしろ、ここにいても獣の餌になるだけだ。ここは着いていったほうが生存確率も高くなるだろう。


「申し訳ありません、すぐに」

「その胡散臭い話し方は、やめい」


 だよな。なのになぜ警戒を解いたのか、本当にわからん。


「……あー、悪い、すぐ行く」




「おぬしはなぜ、どのようにして、この世界へ来た?」


 歩きはじめて、少しぐらいしてだろうか。彼女が前を歩きながら振り返らずに問いかけてきた。その声は意を決して質問してきたように聞こえた。


「……少し長くなるんだが」


 彼女の雰囲気だろうか、誰かに聞いてほしかったのだろうか、もしくは両方だったかもしれない。全て聞いてもらいたいと思った。


「……まだ、少々歩くゆえ、かまわぬ」


 俺はここに来るまでにあったことを彼女に全て話した。




「後悔しておるか?」


 話終えた俺に彼女は質問してきた。


「……そうだな」

「……他人の子なんぞ見捨てておればよかったか?」

「いや……もうちょい上手く助けられなかったのかなぁってな」


 そう言うと彼女は黙りこみ、しばらく森を歩く音だけになった。


「そういえば、わらわの名前を言っていなかったな、レフィーラ・アルカートンじゃ」


 む、名が先で姓が後なのか。いやいや、まずレフィーラが名かどうかもわからん。


「姓はあまり好かん、レフィーラと呼んでくれ」


 名でよかったのか。しかし、この世界に来た経緯を話してから雰囲気や態度が柔らかくなった気がする。


「わかった。俺は恭介と呼んでくれ、姓が最上なんだ」

「ふむ、ならばキョウスケよ、おぬしも聞きたいことは山ほどあるじゃろう、何が聞きたい?」


 そうだな、確かに色々聞きたいが、まず最初にこれを聞いておきたいな。


「俺の話を信じたのか?」

「なんじゃ、嘘なのか?」

「そうじゃないんだが、もしかして他にも俺みたいな別の世界から来た人間がいるのか?」

「いや、そんな話は聞いたことないのぉ」


 こいつは相当のお人好しなのだろうか、おじさんは心配になってきたぞ。


「まず、そうじゃのぉ、おぬしの着ている服じゃな。見たことのないデザインじゃ」


 ……スーツだ。死んだときの格好のままだな。


「次に、あの程度の魔物に殺されかけるようなやつが、こんな森の奥まで来るのは不可能じゃ」


 この森はそんなに危険な場所だったのか。ひどい神様だな、やはり俺を殺そうと……いや、もしかして――


「そして、キョウスケよ。わらわを見て最初に何を思った?」

「ん? すごい美人だなと」


 ――ガッ


 つまづいたな。もしかして動揺でもしたのだろうか。


「あー、なんじゃ、おぬしのいた世界にもわらわのような魔族がおったのか?」


 ……赤い顔をしてこちらを振り向きながら聞いてきた。意外に可愛い人なのかもしれない。

 

「いや、生まれて初めて見たな」 


 マゾク? 魔族でいいのだろうか、だとしたら物騒な名前の民族だな。


「……それなのにおぬしは、その、なんだ、最初の感想があれだったのか」


 そんなにもじもじされたら、冗談だと言いにくいな。このまま流そう。


「まぁよい、とりあえずじゃ、この世界の人族なら魔族を見たら、あんな反応はせん」


 そう言うとレフィーラは再び前を向いて歩き出した。


「どういう反応するんだ?」

「睨みつけるか、恐れるか、ひどいやつだと襲ってくるやつもおるな。まぁ最近まで戦争をしていたから、仕方あるまい」


 種族間での戦争か、ならば俺も敵だったはずなのに随分親切なことだな。


「おっと、もうそろそろ着くぞ」

「ん? どこにだ?」

「そういえば言っていなかったな。家じゃよ、わらわの城じゃ」


 ――城? 


 辺りを見回すが、そんな建物は見えないな。いや危険な場所だと言っていたし魔法で見えないようにしているに違いない。


「まぁ続きは着いてから話すとしよう」 


 そう言われ俺は黙って後を追った。


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