追走
冒険者は内容によっては夜間の仕事もあるので、ギルドは二十四時間営業している。
町の街灯を駆け抜け、灯りのついたギルドへと駆け込む。
「ど、どうなされました?」
日中には見なかった男性の従業員が声を掛けてくる。
「ギルドマスターカミリアは、いるか?」
この従業員もカミリアの仲間の可能性もある。
警戒も解かずにきつめの口調で問い詰める。
「ま、まずどちらさまでしょうか? 身元も分からぬものにマスターの所在をお教えすることはできません」
なるほど、正論だ。
そして、少し怯えながらも毅然とした態度で接してくるこの従業員に信用が沸く。
「それはすまなかった。俺はキョウスケ・モガミという。これがギルドカードだ」
「は、拝見します」
カードを受け取り確認する。
「失礼しました。確かにこちらに所属している冒険者のようですね。それでギルドマスターにどのような用件でしょうか」
身元が確認できると、落ち着いた態度で対応しはじめた。
「こちらにアロスとリコットという銀髪の子供を二人預けていたものだ、その子たちの安否を確認したい」
「……あぁ、あの子たちですか、それならば大丈夫ですよ」
何かほっとした様子で話し出した。
雰囲気からすると、どうやらまだ無事のようだ。
それなら、このままこちらで保護させて――
「ギルドマスターがうちで面倒見るよと連れて帰りましたので――」
最後まで聞かずに、外に飛び出し町の東へと向かう。
――くそっ……こんなことなら……
無理にでも連れて帰ってれば良かったとも思うが、後悔はしても意味がない。
頭を振り、思考を切り替える。
――東出口にいなければ、次は北出口……ショートカットで屋根から行った方が早いか――
次の行動を考えながら走っていると、先の細い路地から人が出てきた。
――人影? こんな遅い時間に酔っ払いか……いや、あれは――
「おいおい、こんな夜更けに急いでどこへ行くんだ?」
声を掛けられ足を止める。
「……あんたこそ、こんなとこで何をしているんだ? ファルケン隊長さんよ」
出てきた人物は警備隊長のファルケンだった。
相変わらず、長い槍を持ち目付きの悪い目でこちらを睨む。
「質問に質問で返してんじゃねーぞ! とっとと答えろや!」
目付きが悪けりゃ口も悪いな。
しかし、このタイミングで出てくるとか……こいつ……。
「すまないが急いでるんだ……後で答えるから、そこを通してもらえないか?」
「あぁ? そいつは無理な相談だな……答えねぇなら、ここは通さねぇよ」
そういって槍を構える。
やっぱりそうか……こいつカミリアの仲間だな……。
ギルドマスターと警備隊長が裏でつるんでりゃ、やりたい放題だな。
こんな腐った連中はとことん潰してやりたいが時間がない。
「《走雷》!」
会話の途中から右手に溜めてた魔力を放つ。
「なっ! あががっ!」
不意を突かれながらも咄嗟に槍で魔法を受け止めるが、それで電気は止められず体を伝う。
「お前の相手をしてる暇はないんだよ」
両膝をつき崩れ落ちるファルケンに声を掛け、横を走り抜けようとした時、やつと目があった。
――まずい! まだ目が死んでいない!
思わず急停止し、後ろに飛ぶとぎりぎりのところを槍の石突が通過した。
「……ちぃ、今の躱すかよ……」
《走雷》は槍伝いとはいえ、当たれば普通ならば失神してるはず……。
「しっかし、なんだ今の魔法……見たことねぇぞ……しかも、詠唱破棄とはな……何者だ、てめぇ」
「お前、なんで平気なんだ?」
「っからぁ! 質問を質問で返すなって言ってんだろうがぁ!」
しかし、まいった……こいつ強いわ。
不意打ちで仕留めきれなかったのが痛い。
しかも耐えられた理由がわからん……おそらく、あの赤い槍のせいだろうが……。
「まぁいい、力ずくで答えさせてやるよ」
槍を構え直し、沈黙が流れる。
さっきよりもプレッシャーがすごい……まじでやばいかも……。
「うらぁ!」
気合とともに一足の踏み込みで間合いに入り、槍を走らせる――
「くっ!」
槍の間合いの広さに驚きながらも、身を捻り躱す。
「おらおらおらおらおらぁ!」
連続で放たれる突きを、ひたすら避け続ける。
――槍との戦い方なんて、わかんねぇよ!
突きだけでなく、払いも混ぜられ、より一層近づくことが出来ない。
反撃方法が思いつかず時間だけが過ぎ、焦りが生まれる。
――どうすりゃいいんだ! 魔法撃つ隙すらねぇよ……あぁ撃たせないようにずっと攻撃してるのか……って納得してる場合じゃねぇ!
「……てめぇ」
突然、攻撃の手を止めたファルケン。
よくわからんが今がチャンスと魔法を放とうとするが、すぐにやめる。
――こちらへの注意が半端ねぇな……今、なにかしたところで躱されるのがオチだな……。
「ちぐはぐ過ぎるぞ……」
急に何言ってんだ、こいつ……。
「明らかに焦っているのに動きに無駄がねぇ、そんな身のこなしをしているのに槍との戦闘経験がねぇ」
あれ、めっちゃバレてる……顔か? 顔に出てるんかな……よし。
「……今、急にキリっとしたら図星ってことじゃねぇか」
……レフィーラに怒られそうな事案だな……黙っておこう……。
「ほんと、訳分からんやつだな……その辺も吐いてもらうとするか……」
再び、槍を構えるが先ほどとは違い左手一本で槍を持ち、脇に挟み腰を落とし構えている。
「それじゃあ、終わらさせてもらうぞ」
……あの構え……何を仕掛けてくる気だ……。
「はぁ!」
再び、気合とともに一足で踏み込んでくる。
――さっきと一緒……? いや、さっきよりも踏み込みが深い! これなら、こちらの間合いに入る!
左手一本で放たれた突きを先ほどと同様に身体を捻って躱し、カウンターを合わせにいく。
「もらっ――なっ!」
攻撃に転じようとした瞬間、突然後ろに引かれバランスを崩す。
反射的に後ろを見ると、槍がマントを貫いていた。
「今度からはマント外して戦うこったな!」
ファルケンはそのまま槍を回転させてマントを巻きつけると左へと引っ張った。
「くっ!」
すでにバランスを崩し、踏ん張りが利かない状態で引っ張られて、さらに態勢を崩す。
「これで、しまいだ!」
立つこともままならない状態で、ファルケンの右拳がこちらの顔面へとせまってきた。
――避けれない! それなら――
「《纏雷》!」
防御は無理だと判断して、咄嗟に《纏雷》を顔に纏う。
「がっ!」
「ぐっ!」
ファルケンは拳を打ち込むも、《纏雷》に直接触れてしまい後ろへと弾けとんだ。
こっちはこっちで振り抜かれることはなかったものの、殴られた衝撃で吹っ飛ばされた。
「くそったれが……」
「いてぇ……」
互いにすぐに立て直して構えるがダメージが残り、すぐに動けなかった。
「マントが……」
まだ動けない間に、再び利用されると困るのでマントを外す。
レフィーラ手製のマントがびりびりに破れ、修復も難しそうな状態になっているのを見て、怒りがこみ上げてくる。
時間がなくて、早く切り抜けようとしたけど、そんな状態で勝てる相手でもないし、カミリアの仲間だしな。
――殺るか。
「!」
気配を察したのか、ファルケンの顔が厳しくなった。
とりあえず、マントは邪魔なので体の後ろにまわし《クローゼット》にしまう。
「……おい、マントをどこにやった?」
「力ずくで吐かすんだろう?」
俺の答えを聞いて、ファルケンの気配がさらに変わった。
――まだ、あっちも本気じゃなかったってわけか……。
もはや、余力を気にしてる相手ではない。
全力で身体強化を行い、覚悟を決める。
「うらぁ!」
「はぁ!」
互いに気合と共に相手へと――
「キョウスケ!」
「隊長!」
飛び込む事はなく、停止する。
声の方向を確認したいが、この距離で相手から視線を外すのは自殺行為。
お互いに視線を合わすと、距離をとるため後ろへ跳び、一旦停戦する。
警戒は解かずに視線を切り確認すると、レフィーラと警備兵がこちらへ駆けてきた。
「レフィーラ!」
「ラビリス!」
「「そいつはカミリアの仲間だ!」」
俺とファルケンは互いに顔を見合わせた。
「「は?」」




