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初めての

「そろそろ、着くぞ」


 ゆっくりと移動し村の入り口へと到着して馬車を止める。

 馬車から全員降りると村の入り口から男たちがぞろぞろ出てきた。


「いらっしゃーい、ようこそテオル村へ」


 村を囲っている木の囲いの影に隠れて待ち伏せしていたらしい。


「女だ、若い女だ!」

「ありゃすげぇ上物じゃねぇか!」

「ねーちゃん、こっちで楽しいことしようや!」


 レフィーラを見て下卑た笑いをしながら好き勝手なこと言っている。

 少し気になりレフィーラのほうを見てみると、何か異常に怒っているように見える。

 どうしたのだろうか、彼女の性格からするとこんなことは軽く流しそうなことなのだが。


「おい、村の人たちはどうした!」


 収拾がつかなくなる前にバーリスが盗賊たちに声をかけた。

 すると盗賊たちの中から一際でかいやつが前に出てきた。

 やつらのボスだろうか、右手にでかい刀のような武器を持っている。

 血がついている……あれで、村人を殺したのか……。


「抵抗したやつは殺したが、無抵抗のやつは村の中にいる」


 後ろを指さし、ニヤニヤ笑っている。

 なぜ何の罪もない人を殺しておいて、あんな顔できるのだろうか。頭の温度が急激に下がっていくのを感じる。

 しかし、生存者がいてよかった。年寄りの多い村だと聞いているから無抵抗の人も多かったはずだ。なんとか助け出さないと。


「助けたかったら、武器を捨ててこっちへ来い。素直に来るなら命は助けてやるぞ」


 誰が行くか。

 ここは引き延ばして、少しでも時間を稼いでビリーたちに人質を救出してもらおう。


「もし、断ったらどうなるんだ?」


 バーリスが会話の引き延ばしにかかったところで、レフィーラに後ろから袖を引っ張られた。


「…どうした?」


 相変わらず、怒っているように見える。

 確かにあの盗賊たちには怒りを感じるが覚悟はしていたこと、何を彼女はそこまで――


「生存者はいないわ」


 ………は?


「村の中に魔力を感じない。生きている人はいないのよ」


 あぁ……なるほど……そういうことね……。




「おおい、いい加減にしねぇか! さっきからごちゃごちゃと武器を捨ててこねぇのか来るのかはっきりしろぃ!」


「くそ、これ以上は引き延ばせねぇか。短気なやつらだ……ってにいちゃん何してるんだ!?」


 両手を挙げて前に出る俺をバーリスが引き留めようとするが止まらずに進んでいく。


「かっかっか、素直でよろしい。命だけは助けてやるから安心しな」


 機嫌よさそうに話す盗賊ボスだが、俺は途中で歩みを止め、声をかけた。


「なぜ、村人全員殺した?」


 空気が一瞬凍るが、即座に盗賊ボスが反応する。


「無抵抗のやつは殺してねぇと言っただろう。そうしてほしいならそうしようか?」

「老人たちが多かったはずだ。殺す必要はあったのか?」

「だから、殺ってねぇって言ってんだろうが!」


 他の盗賊たちが恫喝するように大きな声で否定している中、盗賊ボスから目を離さず答えを待つ。


「ちっ、おいてめーら静かにしろ! この兄ちゃんにはバレてるみてえだわ」


 またへらへらと笑い喋る盗賊ボスを見ながら頭の温度が下がる中、魔力を高めていく。


「なぜ殺した?」

「あぁ? 逆だよ、なんで生かす必要があるんだ? 殺したほうが楽じゃねぇか。馬鹿かてめぇ」


 他の盗賊たちも笑い出し、野次が飛ぶ。


「しかし、傑作だったなぁ。もうすぐ孫が生まれるから命だけは助けてとか言いながら土下座するばばあとかよ」

「ほんとにな、いいぜって言ったあと顔上げた瞬間に殺してやった時の顔とかよ、ぎゃっはっは!」

「かっかっか、まぁ安心しろよ、お前たちもすぐに同じとこ――」


 これ以上は何も聞く必要はない。


「――げべぶっ!」


 高めた魔力の身体強化により盗賊ボスの顔面に拳を叩き込む。

 本気で打ち抜いた拳は勢いを殺しきれず十メートルほど止まれずに行き過ぎてしまう。

 反撃に備えようとすぐに振り向いたが俺は目を見開いて固まってしまった。

 盗賊ボスは首が変な方向に曲がっており、明らかに死んでいたのだ。

 殺すつもりはなかった。まさかこんなに弱いとは思っていなかった。


「は…?」

「へ…?」


 他の盗賊たちも思考が追い付かないのかその場で固まり、茫然としている。


 この静寂の中、初めての殺人に思考がループしはじめる。

 殺人を犯してしまった……殺すつもりじゃなかったんだ……俺は……俺は……うん、まぁいいか。

 悪人だし、どうせ輪廻して生まれ変わるしな。 


「どうせ、ろくな人生じゃないんだろう。輪廻させてやるよ」


 こいつらも生まれ変われるし、世の中の為にもなるし、まさにウィンウィンだ。


 そう思い飛び込むと盗賊たちは叫び声をあげて応戦しはじめた。

 見ていたバーリスも参戦し、フォレスも狙撃を開始するが、ほとんどが俺の体術により盗賊たちは屠られていった。

 逃げる隙も無く、やられていった盗賊たちも最後の一人となると命乞いを始めた。


「た、助けてくれ! もう二度と悪いことはしねぇ! お、お願いだ!」


 土下座をする盗賊を見て何も感じることなく拳を振り上げると、腕をレフィーラに掴まれた。

 そのまま後ろに引っ張られ、盗賊と俺との間にレフィーラが入った。


「…なぜ、止める?」

「このまま、衛兵に突き出してもどうせ死刑になるわ」


 盗賊がびくっと反応する。


「それなら、今殺しても一緒だろう」

「どんなに悪いやつであろうと無抵抗の人を殺すと精神衛生上に良くないわ」


 俺の為ということか。


「ただでさえ、キョウスケは……」

「くそがあああ! 女ぁ!」


 何か言おうとしたレフィーナを遮り、盗賊が武器を持ち立ち上がり襲ってくる。


「レフィーラさん!」

「あぶない!」


 バーリスといつの間にか戻っていたビリーたちが声を上げるが――


 一閃。


「あ……がっ……」


 レフィーラの凄まじいキレの蹴りが喉元に突き刺さり、絶命する盗賊。


「ヒュウ♪」


 口笛を鳴らすバーリス。

 見事な蹴り技に対してなのか、スリットから突き出た脚に対してなのかはわからんが。 


「わざとか?」


 盗賊がやけを起こすように仕向けた気がしたので質問する。


「そうね、どっちでも良かったのだけれど」


 俺が無抵抗の人間を殺さなければなんでも良かったということか。


「そっか、ありがとな」

「…あんまり、意味なかったかもね」

「ん?」

「いえ、どういたしまして」


 レフィーラはこちらをじっと見つめて答えるとバーリスたちの方へと歩いていった。




「見事な脚……技だったな」


 口笛の賞賛は、どうやら後者だったらしい。


「どうも」


 レフィーラは得に気にした様子もなく答える。


「レフィーラさん、強かったんですね!」

「自分の身は守れると言ったでしょう」


 みんながレフィーラに声を掛け周りに集まる中、バーリスが俺の近寄ってきた。


「さっき、ビリーに聞いたが村の生き残りはいなかったらしい」

「そうか……」


 特に驚きはないが、そんな現実を見てもあまり変わらないバーリスたちを見ると、俺の世界との命の価値観の違いはわかっていたつもりでいたが、まだまだ甘かったと思わざるえない。 


「ふむ、その反応を見るとやはりあれはハッタリではなく、本当に生き残りがいないと確信していたようだな」

「……」


 あれはレフィーラの魔力探知によるものだ。あまり追求してほしくないのだが……。


「はは、そんな顔するな、別に詮索するわけではない」


 相変わらず聡い。あまり察しが良くても心を読まれてるようで困るな。


「もし、確信を得ずにあのような駆け引きに出たのなら少し注意をしようと思ってたのだがね」

「人の命をベットして賭けをするつもりはない」


 まぁ自分の命もベットする気はないが。


「わかっとるよ、年をとると余計なお世話を焼きたがるもんなのさ、はっはっは」


 笑いながら肩を叩くバーリスに何とも言えず、ただただ苦笑するのみだった。


「おし、それじゃ今後の話でもするかぁ」


 そう言って皆と合流し、この後の処理について相談することとなった。




 色々話し合った結果、遺体は村の中に置いたまま魔獣除けのポーションをまいて近くの町へと急ぐこととなった。

 一番近いは町はメンドールの町で片道二日で衛兵を呼んで戻ってくるまでに五日はかかる。

 その間に死肉を漁る魔獣が集まるため、火葬して置きたいが盗賊の身元の確認、被害者の遺族の確認を含めるとできればそのままで置いておきたいそうだ。




「いやぁ、さすがに疲れたなぁ」


 フォレスが腕を回しながら横になる。

 遺体を村の中に集め、周辺にポーションを撒き終わるともうすっかり夜になり村から離れた場所で野営をすることになった。

 食事も終え、談笑しながら昼間の疲れを癒していた。


「だが、ただでさえ旨い飯が労働後というスパイスが加わってさらに旨くなった」

「たしかに」

「違いないですねぇ」


 あんなになかなかグロい遺体をたくさん見て、よく食欲が沸くなぁ。

 これぐらいの切り替えの早さや、割り切り方ができないと冒険者になれないのだろうか。

 なかなか厳しい世界だ。


「しかしキョウスケさん、すげぇっすね。盗賊たちをあんなにあっさり……」


 あいつら弱かったしなぁ……全部急所に一撃打ち込んでおしまいだったし。


「いや、あいつらが弱すぎたんだ。だからこそ、こんな老人しかいないような村を襲ったんだろう」


 ……みんなこっちを見て固まってる。なんか変なこと言ったかな。

 あ、レフィーラはあくびしてるし問題なさそうだな。


「そ、そうだな……うん」

「そ、そうね、あいつら大したことなかったよね……」

「……」


 うむ、同意を得られたし、やっぱ大したことないやつらだったみたいだ。

 それじゃ明日も早いし、そろそろ寝よ。


「悪いけど、先に寝させてもらうよ」

「あ、ああ……おやすみ」

「お、おやすみ……」


 みんなに挨拶して馬車へと移動する。

 レフィーラもハチを抱えて一緒にやってきた。


「……キョウスケ、大丈夫?」

「へ? なにが?」


 レフィーラがじっと見つめて、こっちを伺っている。


「……ほんとに何ともなさそうね」

「別に怪我とかしてないぞ」

「ん、そうね、それじゃおやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」


 また何か心配をかけたようだ。

 いつも申し訳ないと思いつつも心配してくれる人がいるということに心地良さを感じながら俺は眠りについた。





 


「ねぇバーリスさん」

「……なんだ?」

「あの盗賊たちって元冒険者っすよね……」

「……」

「しかもあの盗賊の頭って……」

「あぁ、確かそこそこのランクだったはずだ。しかも戦闘力だけならもっと上だな……」

「で、ですよねぇ……」


 乾いた笑いが響く。


「何者なんですかねぇ……」

「あまり詮索はしてやるな」

「はぁ……」

「それに、悪人じゃねぇ」

「そうですよ、悪人どころがとても良い人たちだからいいじゃないですかー」

「まぁそれもそうだな。命の恩人には変わりねぇしなぁ」

「しかし、不思議な人たちだなぁ……」

「ほんとにねぇ……」

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