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北欧神機  作者: 紅鮭紅?
2/2

ユグドラシルを歩いてみよう

 ガション、ガション、ガション。

 黒い巨人の一隊が、巨大な枝の上を歩いていた。

 ヨトゥンと呼ばれる丸みの帯びたこの鉄の巨人は、特殊部隊ロキが愛用している人型兵器だ。

 15機のヨトゥンが、アサルトレーザーライフルを手に、ゆっくりと行軍している。

「ふんふふーん。ふふふふーん」

 その先頭を歩く、この部隊のリーダー『ヨーコ』は、コックピットで鼻歌を歌っている。

 膝を曲げて片足をシートの上に。シートも寝る体勢まで倒した状態で、右足一本でヨトゥンを操縦していた。

「ねえヨーコさん。道ちゃんと合ってるか不安になってきたんだけど」

 画面に、長髪の青年が映る。

「うっさいわね。レーダーを信じるしかないでしょ。いちいち通信してくんな」

「冷たいなぁ……」

「よく喋る男は嫌いなの。……まあでも、確かにいい加減見えてきてもいいわよね」

 通信を遮断したヨーコは、カメラを動かした。

 ヨトゥンの頭がぐるりと回転し、辺りを見回す。

「景色が変わらないってのは、不安になるよね」

 また長髪の青年が声を掛けてきた。

「枝をヨトゥンで歩くって初めて聞いたときはどういうことかわからなかったけど、さすがユグドラシルって感じよね」

「ヨーコさん、ユグドラシルに来るの初めて?」

「ええ。『世界の土台』は伊達じゃないってことは知識として知っていたけど、これほど大きいとはね。イールは来たことあんの?」

「あー、俺は何度か」

「ふーん」

「え! もう興味ゼロにっ!」

「ユーマくんに聞いた方が早そうな気がするから」

「ひどい! 上司が部下の能力を正確に把握するのは差別だ!」

「何よそれ。アルファ3、現在進行に影響はありそう?」

 ヨーコはイールとの通信を切り、別の回線を開く。

 画面には、ツンツン頭の少年。まだ幼く、十代も前半といった顔立ちだった。

「問題ない」

 ただ一言、そう返す。

「この枝、折れたりしないわよね?」

「問題ない」

 ただ一言、そう返してきた。

「そ。今更聞くのもあれだけどユグドラシルの枝を歩くときの注意事項とかって、あるかしら」

「ない」

「ただの暇つぶしのお喋りとして、その根拠を聞きたいわ」

「ヨトゥンの全長は19m。総重量は65tだが、枝の先に2000tの重さが加わっても折れるどころかしなることもない」

「十分、安心出来る根拠ね」

 ヨトゥンが15機、余裕を持って広がれる広さを持った枝。丸い形とは思えないほど、表面は平らに見える太さの枝だった。

 まるで、木目のフローリングを歩いているような感覚。

 空を見上げれば、ヨトゥンよりも巨大な葉が幾重にも重なり、緑色の天井がずーっと続いている。

 木漏れ日だけが唯一の光だった。

 そんな中、たまたまちらりと見えたものに、ヨーコは目を丸くする。

「このまま真っ直ぐで、問題ないのね?」

 シートを起こし、急いで豊満な胸の間にシートベルトを通し、レバーを握る。

「問題ない」

「総員! 全速全開っ! ヴァルキュリアに見つかったっ!」

 ヨーコの声が各員に伝わったと同時に、レーダーに『敵』を示す赤が灯った。

 ガションガションと音を立てて歩いていたヨトゥンたちは、ぐっと腰を落としてまるでスケートでもしているかのように枝の表面を滑る。

 ブーストを噴かし、ホバー走行で走って行く。

「問題ない。想定範囲内だ」

「そうね! 作戦通り、各隊分散するわよ! アルファ2、アルファ3は私とこのまま直進!」

「了解」ユーマがぼそりと呟く。

「ヨーコさん、俺のことは名前で呼んで」

 アルファ3と呼ばれたことを嘆くイール。

「じゃあここで死ね」

「冷たいっ! ニブルヘイムぐらい冷たいっ!」

「はいはい!」

 3機のヨトゥンが先を急ぐ中、残りの12機はそれぞれ3機編制で別の方向を目指す。

 ユグドラシルへ近づけば、ヴァルキュリアに見つかる可能性が高い。

 そうした場合、それぞれが別ルートを選択し、ヴァルキュリアの追っ手から逃げる作戦になっていた。

 誰が、どのルートからでもいい。

 とにかくユグドラシルの内部へと潜入し、『ブツ』を盗み出さなければならない。

「全隊員、幸運を祈る。全てはラグナロクのために」

「全ては、ラグナロクのために――」



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