全てはラグナロクのために
「これより、ラグナロクを開始する」
そんな長官の声がコックピットに響いてから、どれだけの時間が経ったろうか?
どこの戦場も、互角の戦いを繰り広げていた。
我らが母艦ナグルファルと、フレイの駆る戦艦スキーズブラズニルはどちらも黒煙を上げている。
超長距離砲ミドガルズオルムの咆哮にも似た発砲音と、トールの長距離砲、ミョルニルの雷鳴のような音が遠くに何度も聞こえている。
白鳥のように純白の機体ヴァルキリーが空を飛び交い、赤い機体ムスペルが野を駆けながら、互いに撃ち合っている。
そして――
「オーディンっ! 私はっ! 私はお前をっ! 許しはしないっ!」
少女は涙を流しながらペダルを踏み込んだ。
空色の機体、フェンリルはアサルトレーザーライフルを乱射するが、スレイプニルはいとも簡単にそれを避けていく。
「許しはいらない。だから、謝りもしない」
オーディンはフェンリルの攻撃を悠々と避けながら、レーザー砲、グングニルを構えた。
一射。光の槍のようなグングニルのレーザーは、フェンリルの右手を破壊する。
「うっさいっ! こんのおおおおおおっ!」
右手と共にライフルを失ったフェンリルは、スレイプニルに突撃を駆ける。
だが、スレイプニルの方が圧倒的なスピードを持っており、近づくことさえ出来なかった。
「無駄だ。諦めろ。ラグナロクは――成功しない」
そんな冷徹な言葉に、少女はぐっと奥歯を噛みしめる。
そして、最後の手段を執った。コンソールを叩くと、画面に文字が出る。
『グレイプニルシステム 解放』
フェンリルの装甲が開き、内部のフレームが輝き始める。
その姿は、今対峙しているスレイプニルと同じだった。
「スレイプニルと同じだと……? そうか! その機体が、フェンリル――」
「あああああああああああっっ! オーディ――――ンっっっ!」
左手にナイフを持ち、全開でブーストを噴かし、フェンリルはスレイプニルさえ凌ぐ速度で突撃する。
そしてついに――その牙はオーディンを捉えるのだ。