1.神様ゲームで無体満足
とある中学の昼休み。
「なぁなぁ、王様ゲームやろう!」
「王様ゲーム?そんなのもう古いって!」
「じゃあ、何する?」
「やっぱ、神様ゲームでしょ?」
とある大学の合コンで。
「なぁ、みんな〜!王様ゲームやらない?」
「いいねぇ〜!やろうやろう!!」
「今時王様ゲーム?つまんねぇよ。やっぱ、神様ゲームじゃね?」
「でもぉ、それってヤバいんでしょ?」
とあるサラリーマン達の飲み会で。
「お疲れ〜!乾杯!!なぁ、いっちょ、王様ゲームでもやろっか?」
「おぅ〜!いいねぇ!!」
「ちょっと待った、どうせなら神様ゲームにしない?」
「えっ、なにそれぇ??ひょっとして、エッチなゲームじゃないわよねぇ?」
神様ゲーム。今の世の中、こんなゲームが流行っているとは露知らず俺はTVを見ていた。
「続いて今日のニュースです。昨夜、殺人事件が発生しました。被害者の死因は不明、現場には争われたような跡があったとのことです。同様の事件が相次いで起こっているなか、一刻も早い事件の解明が望まれてます・・・」
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(キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン)
「なぁ、昨日のニュース、見た?」
「見たみた、またあの事件でしょ?怖いよねぇ」
「犯人、早く捕まって欲しいよな」
「ほんと」
俺たちの教室では、連日報道されている殺人事件の話題でもちきりだ。
「ほら、早く席に着け。出席を取るぞ」
俺はそんな話題を横目に、ただ傍観していた。
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(キーンコーンカーンコーン)
「あ〜、終わった終わった。敦、これからどうする?」
「俺は帰るよ」
「鮎川は?」
「敦くんが帰るなら、私も帰る」
「そう、じゃ二人ともまたな〜!」
俺の名前は朝比奈敦、高校2年生だ。隣りに居る女子は中学からの友人、鮎川千尋だ。そして、帰った奴は、親友の金子健司だ。俺たちは部活にも入らず若さと時間を持て余していた、どこにでもいる普通の高校生だ。
「千尋、お前、いつも帰って何してるんだ?」
「特に。お夕飯の支度をしたり、宿題やったり・・かな。敦くんは?」
「別に、何もしてない。する気も起きないっつうか・・しいて言うなら部屋でゲームするくらいかな」
「そうなんだ。前みたいに野球、もうしないの?」
「その話はするな」
「ご、ごめん」
今の俺は毎日が退屈だった。中学までは野球一筋で、高校に入ったら本気で甲子園を目指して頑張るつもりでいた。
「じゃあな、千尋」
「うん、またね」
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その夜、夢に神と名乗る奴が現れ、俺に面白い話を聞かせた。たった5日間、あるゲームをしてもらうと言う。ゲームといっても、今まで通りの生活を続けるだけの簡単なものだった。さらに日常生活を彩る特別な能力を1つだけ与えると言う嬉しいサプライズ付きだ。俺はゲームなどで良くある作り話だとバカにして聞き流したが、暇だからその話に乗ってやろうと考えていた。
「今の話、面白い!いいぜ、騙されたと思って乗ってやる。で、ゲームをクリアしたらどうなる?神にでもしてくれるのか?」
「察しがいいな、その通りだ。神になれば、お前の思い通りだ」
「まるでゲームかマンガみたいだな。暇つぶしにはちょうどいいぜ!」
こうして俺は神のゲームとやらに挑戦する事にした。退屈な毎日から解放されたような気分でワクワクしていたのだ。
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学校はいつもと何も変わらず、5日間なんて言わずにもっと楽しみたいと思っていた。さらに、特別な能力まで貰えるときている。
「カモ〜ン、俺のチートライフ!さらば、退屈な毎日よ!!」
学校内に足を踏み入れると、何やら背筋がゾクっとした。
(ガラガラ、ドアを開けて教室に入ってみる)
「おはよ〜!」
俺を見つけてクラスメートたちが寄ってきた。
「ごめんなさい!」
ほぇ!?俺は何を言っているんだ。なぜここで謝る!!
「どうした?相変わらず、つまらんギャグだな」
「ごめんなさい」
えっ、あれぇ?おかしい、おかしすぎるぞ。相手の言葉に反応して、勝手に口が動き出した。
「敦くん、おはよう〜」
「ごめんなさい」
「敦くん、私こそごめんなさい」
何故、千尋まで謝っているのか謎であったが、今は俺の言動のほうが問題だ。
俺は事の真相を神とやらに聞くため、ダメ元で頭の中で念じてみた。
(おい、神!何とか言え、どう言う事だ)
(あはははは〜!早速、神であるこの私を楽しませてくれたな。おやぁ?言ってなかったか?特別な能力を与えるって)
(これのどこが特別な能力なんだよ!もっと、この俺のチートっぷりを発揮できるものかと思ってたよ)
(それは・・今はナイショです!)
(そうきたか、そっちがその気ならこっちも思い知らせてやる)
(そうそう、思いっきり足掻いてください。あなたの頑張り、楽しみにしていますよ!)
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「え〜、それでは授業を始める。朝比奈、教科書の48ページを読め!」
国語の教師が俺を指名する。
「ごめんなさい」
ちくしょう、こうも謝りっぱなしじゃ、弱っちぃザコキャラじゃねぇかよ。
「お前は高校生にもなって、こんな漢字も読めんのか?」
(わははははは〜、クラス中が笑いの渦に包まれる)
「ごめんなさい」
「仕方ない、鮎川。同じところを読んでみろ」
「はい」
当たり前だが、この程度は普通に読める。自由に言葉を発せられればな。
お前ら笑いやがって。覚えとけよ。この俺が神になったあかつきには、みんなまとめて地獄に送ってやる!
(昼休みになった)
「ねぇねぇ、朝比奈君。今日はどうしちゃったの?」
「ごめんなさい」
「お前、何があったんだよ!」
「ごめんなさい」
「謝ってないで何とか言えって!」
「ごめんなさい」
「・・・・ケッ、つまらん男!」
「ごめんなさい(泣)」
まずい、このままじゃ、『あやまり男』と呼ばれてしまう。
(授業開始のチャイムが鳴る)
「それじゃ、英語の教科書40ページを読んでくれ、ミスターアサヒナ」
「ソーリー」
なんで英語?でも、やっぱり謝るのかよ。意味ねぇ〜。
「ワッツ?」
「ソーリー」
「ミスターアサヒナ、廊下に立ってろ!」
そこだけ日本語かよ、実は英語教師のくせに英語が分かんないんじゃね?
「ソーリー」
でも、待てよ?立たされっぱなしなら、問題なく時間が稼げるんじゃないか?ナイスアイディア!頭良い!
(予鈴がなり、担任が入って来た)
「それでは、クラス委員、何かあるかね?」
ホームルームの時間だ。これを乗り切れば一日目はクリアだ。
「はい、先生。今日、クラスの女子の体操着が盗まれました・・・」
「ごめんなさい」
おいおい、何でここで謝ってんだよ!俺が体操服泥棒の変態みたいじゃねぇか。
(えっ、朝比奈が?あいつがやったのかよ・・?)(うわぁ、マジ?)(キモ〜ぃ!)
クラスの奴らが俺を見る。どいつもこいつも、覚えとけよ!
「朝比奈、お前がやったのか?先生に正直に言ってみろ」
「ごめんなさい」
「先生、敦じゃないと思います。女子は隣りの教室で着替えをしてたはずです。みんなも知ってると思うけど、男子はそこには行ってません」
親友が庇ってくれた。ナイスフォローだ、健司。
「ごめんなさい」
くそぉ〜かっこわるい。
「誰か、確認してきてくれ」
「先生ぇ、隣りのクラスにありましたぁ。そのまま忘れてきちゃったみたいですぅ」
「うむ、分かった。朝比奈、悪かったな」
「ごめんなさい」
ふぅ〜、助かったぜ。
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放課後になり、残すところあと僅か。一日目の生活も『The End』だ。
「あの、朝比奈くんだよね?」
めっちゃカワイい女の子じゃないか!この俺になんの用だ?まさか・・。
「私、前から気になっていました。私とお付き合いして下さい!!」
キタキタキタ!俺の時代、到来だ!!
「ごめんなさい(泣)」
やっぱり?こうなるのね・・・。しかも、相手が話し終わる前に言ってしまったではないか。
「そんな・・・勇気をだして、頑張って告白したのに。話し終わる前に断るなんて、ひどい!!」
女の子は泣きながら去って行った。
(そこに不良っぽい連中が集まってきた)
「おいおい、お前。俺たちの憧れ、真希ちゃんを泣かせるとは、良い度胸だな!はぁ?」
「ごめんなさい」
「わかってんだろうな!」
「ごめんなさい」
(バシバシ、ドカドカ・・・ボコボコにされてしまった)
「謝れよ!」
「ごめんなさい」
「兄貴、こいつ、さっきから謝りっぱなしですよ」
「てめぇ、やけに素直じゃねぇか。そのあやまりっぷりに免じて、ここは一先ず引いてやる。次は覚悟しておけよ」
「ごめんなさい」
(くそぉ、いつか絶対にぶっ飛ばしてやる!)そう心の中で呟いた。
そこに、千尋がやって来た。
「敦くん、帰ろう」
「ごめんなさい」
「何か、ご用でも?」
「ごめんなさい」
「分かった。私、一人で帰るね」
「ごめんなさい」
すまない、千尋。悪気はないんだ。
俺は何としてもこの5日間を乗り切ってやる。こうして、退屈とは無縁の一日が終わった。明日以降はどんな展開になるのか誰にも予想が出来なかった。まさに神のみぞ知るってやつなのか。