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14.心的繋がりの実態とその不確実性に対する燃焼実験

 咲月が扉を開け、嫌そうな顔をする。


「うえっ、気持ちわる」


 レイスも中に入ると、死体が一つ増えていた。とても気持ち悪かった。

 空中から声が聞こえる。


「もう、早く閉めて!」


 レイスが扉を閉めると、空中からショットアウトが姿を現した。


「火事のせいで夜なのに外、出れないじゃない!」

「松明を巻き散らされるのも、アタッシュケースを漁られるのも想定外ですよ。ターメリックちゃんは今頃街でエンジョイですかねー」


 咲月は足で肉塊を避けてアタッシュケースを引っ張り出した。


「ロックをかけといて、本当に正解でしたよ」


 小屋の隅に座る人質から仕掛けたワイヤーと缶を回収する。道具を片づけた後、興味があるのか血だまりから紫色の服を引っぱり出した。


「暗くても見えるようになると、探し物のたび電気付けなくていいから便利ですね。ショットアウトさん、これは何ですか?」

「それはケルゴンストーンって奴よ、ケルゴンの凝固体で、人間の魔術師に必要……ってこんな事してる場合じゃないわ! 早く教会壊して逃げるわよ」

「そうそう、ショットアウトあなたは賢い。要人殺害は迅速が大事よ」


 レイスは残っていたロングソードを拾った。二刀流でも良かったかもしれない。


「私達はここから先、聞いてないわ、デミって子がやってくれるのでしょう?」

「そうよ、そのためにもここから出なくちゃいけないんだけど……ねぇ周りの火だけでも消せない?」


 咲月はそれを聞くとにこにこして、スーツケースを引っ張ってくる。

「じゃーん、これに入るってのは、どうですか?」



 小屋から出ると、目がまたかと不満をあげた。延々と並んでいた木の小屋は自らの唯一の長所を存分に発揮し、明々と喜びを放っていた。レイスはぞっとした。さすがに街の住人が大挙して火消しに来たら、おおよそ自分達のことが解決されてないと知られることになる。

恐る恐る通りを見回してみたが、動いている人影は見つからなかった。

 咲月の持っているケースが声を上げる。


「絶対に、明るいとこで開けないでね! 死んじゃうから! 絶対よ!」

「ははは、そんなこと言っていると、ノリのいい人が開けちゃいますよー」


 咲月がそう答えると、アタッシュケースががたがたと震え始める。


「わ、冗談ですよ冗談。さあ行きましょう、レイス様」


 咲月は全く何の警戒もしていない風にどんどん歩いていく。レイスは何か堂々としないといけない気がして、警戒せずついていった。

 木製のセキュリティフェンスまでつくと、ショットアウトは近くの小屋の影に入ることを指示した。暗い影の中で、幽霊が恐る恐る出てくる。レイスと咲月も恐る恐る見守った。


「ふう、大丈夫みたいね。レイス、ロングソードを一本ちょうだい」


 レイスがロングソードを渡すと、ショットアウトはそれを浮かべて、飛ばす。

 風を切り裂き飛んで行ったロングソードは、木の柵を越え、街の外の暗闇に消えていった。


「よし、ちゃんと通れるようなっているわ。じゃあ、呼んでくるからここで待っててね」


 ショットアウトはそう言うと、柵をすり抜け消えていった。

 見届けた後、咲月はレイスの隣にぴたりと貼り付いた。


「さて、ドラグレイドっていうのは、どういうとこですかね」


 レイスはロングソードを眺める。何か聞かないといけないことがあった気がするが、幽霊に吹き飛ばされてしまった。


「どういうところでも、いいわ。演説は相手がいてこそ成り立つ、そしてその相手が銃を持っていれば、より成果が上がる」

「党派活動ですねえ、党派活動。オル対発掘! なーんて、あの幽霊ちゃんが工作員やってるぐらいだし、大した組織じゃなさそうですけど」


 咲月はそう言ってケースの上に座り込んだ。



 表情の無い宿泊小屋の巣で、レイス達は息を潜め続けた。

 止むことのない木が燃える音が響き、星空に薄い煙だけが漂っている。


「結構遅いですね……」咲月が呟いた。

「遅いと言えば」レイスははっとして顔を上げた。

「なんですか?」

「いや……もう遅い話なのかもしれないけど」レイスは馬鹿にされるかどうかの葛藤を少しだけした。「追っ手が来たりしないかなって……」


 咲月は目をまるくして無表情でレイスを見つめた。

 レイスの脳みそは臨戦態勢に入った。しかし出来ることと言えば的確な反論に対して、ついつい忘れていた理由とか、見過ごしていた理由を考えることのみであり、まず斥候として「魔術師に殴られて頭がぼーっとしてた」が浮かんできた。

 

 咲月が口を開けた。

「たしかに」そして腕を組んだ。「なんで?」


「……まあ、見つかっても不審な少女二人組、警察まで付いてきてもらおう程度よ」


 予想外の質問にレイスの頭は冴えない意見を吐き出した。


「どこでも、街の中に連れてかれたら、今度こそばれちゃいますよ」


 咲月は的確な反論をするとため息をついて、暗い通りに目を向けた。レイスも一緒に顔を覗かせた。今のところは人の気配を感じない。だが凶器を振り回す捜査員とかち合うのはかなり嫌な出来事の一つだった。


「木の柵に穴でも空けて逃げましょうか」

「電気ビリビリしないですかね……」

「魔術師を倒したし、大丈夫なんじゃないの」


 レイスは引きずって来た剣の一本を咲月に渡した。同時に突き刺すと剣は木杭を抉って途中でぴたりと止まる。力を加えると耳障りな音と同時に剣が僅かに曲がった。


「うぇー思ったより硬いですねぇ。魔法頼りってわけじゃなかったんですね。何ですかこの木材は」咲月が文句を垂らしながら剣を引き抜く。もう一度突き刺すとまた少し沈んで止まった。唐突に剣の先から青白い顔が現れた。


「うわっ! って、あなた達何してるのよ」


 咲月が笑顔でショットアウトを迎える。


「あ、おかえりなさい。あまりに遅いので脱出しようかと。お友達は見つかりました?」


 ショットアウトは、二本のロングソードが通過している頬を膨らませた。


「まったく、あの子ったらこんな大事な時に、カワウソの巣穴探しに行っていたのよ! 信じられる?」


 咲月は呆れるを通り越したらしく、乾いた笑い声を上げている。


「ははは、で、そのお友達はどこですか。やっぱり幽霊?」

「いいえ、もうすぐ飛んでくるわ。丘の向こうだから、少し遠いけど」


 レイスはロングソードを柵から引き抜いた。


「あなたはその子より、だいぶと速いのね」

「いいえ、丘の中を通ってきただけよ。デミの方が速いわ。ほら、もう来たわよ」


 ショットアウトが言い終わると羽ばたくような音が遠くから聞こえて来た。


「大きな鳥? デミさんは鳥のお化けなんですかね」

「幽霊が羽ばたいたら音が鳴るのかしら」


 レイスは半透明のハゲワシを想像した。だが、羽ばたく間隔は、レイスが今までに知っているものより、だいぶとゆっくりだ。

 その音はどんどんと大きくなる。レイスの想像のハゲワシもどんどん大きくなっていった。


 レイスは、真上かと思ってずっと空を見ているが、星空に騒音が響いているだけだ。

 羽ばたく音はもはや、叩きつける音と言うべき轟音に変わっている。

 ようやくレイスの頭の中で、ハゲワシはやめた方がいいんじゃないかと考え始めた時、真上を赤い物体が通過した。レイスがあっと声を上げる前に、凄まじい風が小屋の間を吹き荒れた。巻きあがった砂はレイスと咲月に狙いを定めて一斉に飛び掛かって来た。

 ショットアウトの叫び声が聞こえた。


「デミー! やっちゃいなさい!」


 答えるように、太鼓に激しい憎悪を抱く人たちが数万人集まって、それぞれ好き勝手太鼓を叩きのめしているような咆哮が、街中とレイスの耳をつんざいた。


「GRAAAAAAAAAA!!!」


 砂を払い、大変なことだと思って顔を上げると頭上は星空に戻っていた。


「今のは?」

「街の中央に飛んでったわよ」


 ショットアウトは楽しげに言った。

 咲月とレイスが通りに身を出すと、全貌が目に飛び込んできた。

 火災から立ち上がる煙は、強風に吹き飛ばされ続けている。

 その続いている強風の中心、空中に、燃えるような赤い色をした、5メートルほどの物体が浮かんでいた。

 蝙蝠の様なと言うには、余りにも大きすぎる翼、ぎらぎらと火明かりを反射する体、かぎ爪のついた足。

 レイスは心臓がひきつりそうになりながら空を見つめた。喫茶店の会計中に戦車が突っ込んできた時以来の感覚だ。咲月が口をぱくぱくと動かす。


「……。 ドラゴン?」

「違うわ、ワイバーンよ。あれが私達の部隊の主力攻撃員、デミ・ファルクラム」


 後ろからショットアウトの声が聞こえる。咲月が感情の抜けた声で呟いた。


「はあ、あれが、デミさん」


 可愛らしい名前の付いた怪物の顔が、逃げ出す煙の間に見えた。

 長い首の先にある禍々しく巨大な顎には、簡単には折れそうにない牙が付いている。まるで身体の隅から隅まで極悪非道とか残虐無慈悲とか書いてそうな姿だった。

 その顎がゆっくりと開くと、中から煌々とした光が漏れだした。

 デミの頭が星空の中で大きく振れた。口の中から光が勢いよく飛び出し、街の中央へ墜ちていった。


 レイスは一瞬だけ熱爆風爆弾のような火炎雲を見た。


 静寂の後、透明な衝撃波にレイス達は押し倒された。巻き上げられた砂が、遠慮もせずまた頭に襲い掛かった。耳を軋ませるほどの大地の断末魔が聞こえる。ついでに身悶えも伝わって来た。


「ぎゃー爆撃です! 腐ったラジコンめ! 母国に墜落しろ!」


 咲月が地面に伏せながら喚き散らすのが聞こえた。

 レイスは砂をふり落として立ち上がった。

 街の中央からは煙が上がっている。


「ショットアウト、あれは味方よね!」

「もちろんよ!」能天気な声が聞こえた。

「嘘だったら許さない!」


 回復した咲月が起きあがった。レイスは頭の砂をぽんぽんと払ってやった。


「はあ、確かにあれなら、一人でも街を燃やし尽くせそうですね」咲月は感心したようにうめいた。


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