11.幽体と死体の定義的境界分析
「言ってしまえばそれほど複雑な話じゃない。要人をおびき寄せて暗殺するってだけよね」
「襲撃人質立てこもり! 出てきた間抜けをバンバンバン!」
レイスと咲月の明るい物言いにショットアウトはため息で答えた。
「そんな簡単じゃないのよ。相手は魔術師よ、魔術師」
咲月が首をちょこんと捻るとショットアウトは頷いて説明を始めた。
「魔術師ってのは……まあ今はいいや。魔法はわかるわよね?」
「外の柵にかかってるやつですよね?」
「ええそうよ。あれはショックバリケードとかなんとかいうやつ。で、問題は魔術師がほぼ全員防御魔法を常に展開してるってこと」
ショットアウトは演出を狙ってか声を潜める。
「レギュレーションスピード、これがその厄介な防御魔法の名前よ」
咲月はまた取り出した報告書に何か書き足した。レイスは特に何も考えずショットアウトを見つめた。
「もうレイス! 何もして無いなら反応ぐらいしなさいよ! とにかくこいつはヤバい魔法なのよ。青い防護膜を展開してそこに触れる一定速度以上の飛来物を全て弾き返すのよ。例えドラゴンの火炎弾でもキンキーン!ってね」
「うわお」レイスは適当に答えた。しかし考えてみるとそれはすごいことだ。お話に出て来る魔術に相応しい。夢を叶えている。
「紛争地帯を散歩できるわね」レイスは付け加えた。
ショットアウトはぱっと飛び上がってレイスの前までくる。
「そう、そうなのよ! そしてこいつのにっくきところはちょっとした魔術師でも簡単に使えちゃうことなのよ!」
「つまり」横の咲月がペンを置いて答える。「その魔法を突破しないと倒せないと」
ショットアウトは机に埋まりながらくるっと回った。
「まーそれが最大の難関ねー」ぴたりと止まって目を光らせる。「さあ、詰めていきましょう。時間も無い、明日殺すわよ」
三人で話し合ってしばらく、窓から薄い光が差し込んできた。もう明け方だ。
「きゃあ、もう朝が来たわ! うー……じゃあ計画の細かいとこは任せるわよ」ショットアウトは、窓から入って来た光線を大袈裟に避ける。
「ほんとに光がダメなんですね、日中どうしてるんですか?」
咲月の言う通り呆れるほどショットアウトはなんでも話した。自分の弱点も気軽な世間話のように。ショットアウトは薄暗いベッド台の奥に避難して、咲月に答えた。
「窓を塞いでるキャラバン小屋にいるわ、隙間もきっちり埋めてね。とにかくこの小屋は、あなたのせいで居心地最悪よ」
屋根に穴をあけた少女は苦笑する。
ショットアウトはレイスの方を向いた。
「ここをうまくやれば、あなたも咲月も喜んで迎えられるはずよ。がんばって、でも無理して死んじゃったりはしないでね」
「……やっぱり、あなたはいいこね」
「友達が少ないだけよ」
ショットアウトはそう言うと、軽く笑い暗がりの中へ消えていった。
咲月はその暗がりを見つめている。
「ふふふ、レイス様。腕が鳴りますか?」
レイスは立ち上がりながら答える。
「全然、最悪よ。一から全部はじめなきゃいけないなんて、途方も無さすぎて泣きたいわ」
返答が無いのでベッドの方を見ると、咲月が経験上、恐らくひどく動揺している時の顔をしていた。
「大丈夫よ、あなたが戦えっていうならまだ気分がいいし」
レイスは微笑んだ。
「今日は忙しくなるわよ。そして時間は忙しい者に対し、常に厳しい。早く始めましょう。計画と準備と素晴らしい闘争を」