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4.愛の獲得

僕らは相変わらず撮影をしている。

いやらしかったり健全だったり、種類は様々。

それで、撮影の合間にセックスをして、もしくは並行で行って、写真集を作る。

仕事も普通にやって、正直凄く忙しい。

だからって休みの日に寝たきり、と言う事もなく。

僕は自分でも驚くほど日々を精力的に過ごしていた。


週末。

僕らは次の撮影の打ち合わせのためにいつもの店に来ていた。

落ち着いた雰囲気のイングリッシュティールームはいつも客が少ない。

今日は大学生と思わしきカップルが一組いるだけだった。

でも会話がおかしい、二人とも敬語なのだ。

纏う空気は恋人同士の甘いそれなのに、どうも他人行儀だ。

しかも話すのは彼女の方で、男は相槌を打ってばかりだ。

彼女(もしかしたら高校生かも知れない、ワンピースにカーディガンの優等生風)は笑顔でスコーンの味を述べている。

「此処のスコーンは絶品ですね、クリームも沢山来るから贅沢に使えて、まさに幸せって感じの味がします。それにジャムも季節ごとに変えているし、ママレードは絶品ですね。私、クリームが少し溶けて生地に染み込んでるけど、上のほうはまだ冷たくってあっさりとしているのに濃厚な味を楽しめるのが好きなんです。総一さんはどうですか?」

そういちさん、と呼ばれた男(ヴィジュアル系バンドのギターみたいな見た目をしている)はうんうんと頷き、その通りだと言った。

「俺もクリームの染みたスコーンは好きですよ、スコーンにくるみが入っていれば尚更」

そういちさんはそう言って、こんもりとクリームをスコーンに乗せて食べていた。

身体を悪くする食べ方だなぁ、と思いながら眺めていると僕の目の前に彼が座った。

おまたせ、というとまるで恋人にするみたいに僕の手を握る。

いや、することしてるし恋人なんだろうけれど、僕はこういうのはとても苦手だ。

甘ったるい空気は二人きりの時に限って欲しい。

「また照れてるの?耳が赤いよ」

そうにやつかれたからテーブルの下ですねを蹴った。

ヒールで足を踏まなかっただけ褒めてほしい。

痛そうに彼は顔を歪め、僕はざまみろと笑った。


事の最中、僕は理性があるうちはやだやだと拒否を示す。

それが彼には心楽しいらしくカメラを時たま向けてくる。

そのうちまだ健全そうなものは写真集に入れこまれる。

でも最近では、入れられる写真が減ってきたと彼は嘆いていた。

「僕がいやらしすぎて使えない?」

そう聞くと真面目くさった顔で頷くのだ。

僕の理性は、ふとした瞬間に崩壊する。

例えば彼が僕を見て自分の唇を舐めた時だとか、彼の視線が僕の目を捕えて数秒の間離してくれなかったときとか。

もう我慢できない、と、僕は降参する。

あとはもうくんずほぐれつ、という奴だ。

全部が終わって、撮影をしたりしなかったりして僕らは過ごす。

撮影をすると二度目の行為をしたくなったりするので、実行に移すこともある。

たまに僕が不安になって

「女の方が良いんじゃないの?」

と聞くと、彼は不安そうに

「女役をやらせてごめんね」

と返してくる。

そうじゃなくて、と僕がもう一度丁寧に尋ねると、彼も丁寧に

「男とか女とかそう言う概念を超越して、君にしか興奮しない。それより俺の欲求に合わせてしまって申し訳ないと思ってるんだ」

そう、返してきた。

一方的な欲と愛を押し付けている、という負い目が彼にあるのだ。

しかし僕は気にしない。

というか、僕は彼の言葉にすっかりのぼせ上ってしまった。

男とか女とかそう言う概念を超越して!それは僕が求めていたモノだ。


僕の中の性別の垣根は、彼の手によって壊された。

僕は僕のなりたいモノになれたのだ。

そのお礼に身体を提供することに何の抵抗があるだろう。

そのうえ、彼は僕を愛してくれている。

なんという事だろう、彼は僕のメシアなのではないだろうか。

僕の人生は変わった、というか、変わりつつあった。

仕事が変わったり習慣が変わったりという変化はないが、心は変わる。

それだけでも大革命だった。

会社の女の子たちは僕の変化に気付いたらしく、恋人が出来たんだろうという噂を立てたりしていた。

恋人が出来た事は間違いないが、僕の恋人はメシアなのだ。

彼は僕に愛情を惜しみなく注いでくれ、僕はその愛情を受け、そしてそれを返す。

愛というものは、人生を華やかに穏やかにするものなのだと知った。


週末の夕方。花の金曜日。アフターファイブ。

今の時代だとアフターセブンかも知れない。

僕はヒールを履いて街を歩く。

僕の写真家に撮られるために。


次の写真集は、僕らの愛の結晶になるはずだ。

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