3.転機はあっさりと。
「ありがとうございます」
にこやかに笑ってお客に商品を渡す。
長テーブルに並べられた僕が写る写真集。
やってくるのは殆どが女の子、たまに男。
表紙は拘束された僕。
『ヒールのおと』と題されたその本の表紙には、拘束された僕が写っていた。
あのホテルで、僕らは撮影だけを行った。
拘束されたりベッドで横たわったり、最終的に風呂に入った所まで写真を撮った。
これってポルノじゃないの、と尋ねるとポルノよりもヤバいって言われた。
「僕の写真で抜かないでよ?」
と冗談めかして言ったら、まさか、と返ってきたが僕は見逃さなかった。
その耳が、真っ赤だったことを。
濡れた髪を軽く拭いて、僕は服を着直そうとした。
けれど彼はそれを止めると、全裸のままブーツだけ履く様に言ってきた。
全裸にブーツってどんな変態だよ、と思ったけど、その姿のまま背中から写真を撮られた。
「背中、綺麗だね」
と言われたけど正直わからなかった。僕の背中には目がないから。
そのまま壁に手を突いて、軽くカメラの方を振り返ったり、身体ごと斜めに振り返ったりもした。
撮れた写真は本当にポルノの様で、コレ写真集にしていいの?って出来。
それでも写ってはいけないものは写っていないと言う事で良しとなった。
そして、彼はにこやかに言ってのけた。
「今日の写真は全部本にしたいくらいだよ」
そしてそれは有言実行されたのである。
全部とまではいかないが、そのほとんどはこの写真集に収められている。
写真集が出来上がった時、僕はそれを一冊渡された。
他にも、スタジオで撮った健全な写真も別の本にまとめられていたので、それも貰った。
大判の、本という形になったものを見るのは初めてだったので、僕はそれをまじまじと見た。
余計な文章とか全くなく、写真ばかりが並んでいたり、かと思えば右に写真、左にキャッチコピーというページがあったり。
僕はそれを興味深く眺めるとふとある疑問がわいた。
「これ、どんな人が買うの?」
そう聞くと、彼はりんごジュースを飲みながら首をひねった。
いつもの店で、恥じらいもなく自分のポルノのようなものを見ながら、僕はもう一度同じ問いを投げかける。
彼はああ、と頷くと一枚のチラシを渡してきた。
「此処で売るんだ。このイベントに来る人が買っていくよ」
それは、創作系の即売会、と書かれたチラシだった。
チラシによるとアクセサリーとか服とか小物とか、ともかく誰かが作った何かが売り出されるらしい。
でも僕が聞きたいのはそうじゃない。
どこに来る人、ではなくどういう人、と聞いたのだ。
それをもう一度、伝わらない苛立ちを抑えながら尋ねると彼はまた首をひねった。
「うーん、説明しがたいんだよ。ふりふりの女の子とか、OL風のお姉さんとか、ぼんやりした感じの男とか、いろいろ」
彼はそう言うと表情を曇らせ、そうかと思えばパッと輝かせた。
何か思いついたらしく、子供っぽく笑ってくる。
「じゃあさ、この日、君もきなよ!買う人を見てみればいいじゃないか!」
はぁ、と素っ頓狂な声で叫んだのは、言うまでもない。
そう言うわけで、僕はここに居て、写真集を買う人を眺めている。
女の子の中には、モデルさんですか、と聞いてくる人もいたからそうですよ、と返したりもした。
これからもがんばってください、と言って去っていく彼女たちは素直に可愛らしいと思った。
「こんなに写真が売れるなんて珍しいんだよ」
と彼は若干興奮しながら言った。というか、興奮していた。
モデルが良いからね、と返すとごもっとも、と言われた。
「売上で焼肉行こうよ」
そう言うとえーと返してきた。良いじゃん、肉。
ひとしきり笑って、また本を売る。
イベントが終わる前に、僕の本は売り切れた。
祝杯だ、肉だ、とはしゃぐと彼は苦笑してきた。
その前にもう一度ホテルで撮影、と言われた。
僕は自分の写真集が売れてとても嬉しかったから、撮影くらいなんともなかった。
撮影なら、何ともなかった。
結果から言うと、僕は彼に犯された。
同意のもとではなかったから、そういう事になる。
女の様に扱われてとても屈辱だった。
それなのに、だ。
僕はなんでだか分からないが、酷く興奮した。
だから、同意はしていないのに和姦の様になってしまい、最後には僕の方から上に乗った。
今撮影したい、と彼に言われたので、僕は酷く、そう、ありえないくらいに興奮してしまって。
次の撮影は、動画になりそうです。




