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希望の鍛冶師【男3女3~男2女4~男5女1】

作者: 七菜 かずは

タイトル■希望の鍛冶師【男3女3】


■役表


鍛冶師 (青年) :

ティアー (女性) :

カシス (少女) :

キティ (オッサン) :

スクリュー (オカマ):

ジン (女性) :






■CAST


鍛冶師

(自分の名を名乗らない、王宮専属の優秀な鍛冶師。20~29歳。男。かなり無口で大人しい。声も小さく、感情がわかりにくい。女性に免疫が無く、すぐ緊張してしまうが、元々無口で無表情を崩しにくい為、わかりにくい。)


ティアー

(お忍びで城下街や城の周りをうろついている、お姫様。じゃじゃ馬。17~25歳。女。明るくて、真面目。可愛らしく、花のよう。何にでも興味がある。世間知らず。)


カシス

(小さな空飛ぶ妖精。可愛い。鍛冶師のことをカジと呼ぶ。カジのことが大好き。鍛冶師の助手。年齢不詳。鍛冶師に物凄く懐いている。少女。お金が好きだが、故郷の妖精国を再興させる為に、お金を貯めている。)


キティ

(ガタイのいい、巨大な魚人の戦士。いつも鍛冶師のところに通っている。鍛冶師のことをゼロと呼ぶ。25~45歳。男。悪人面。)


スクリュー

(有名な魔法使い。鍛冶師のことを気に入っており、ついつい通っている。鍛冶師のことをナガナと呼ぶ。22~30歳。オカマ。世界で自分が一番美しいと思っている。)


ジン

(小柄な盗賊。鍛冶師の武器が好き。鍛冶師のことをムクと呼ぶ。18~35歳。女。テンションめっちゃ高い。)






■開幕


 とある国。王宮の側にある、鍛冶屋の前。


カシス:ふふふ? 二人で出かけるの、久々だねっ!


鍛冶師:っ。カシス、前っ。


カシス:へっ!? ふぁぁっ!?


ティアー:っきゃっ!!


鍛冶師:っ!!


 道の真ん中でぶつかり、倒れるカシスとティアー。鍛冶師は咄嗟にカシスを受け止め。手に持っていた、布に巻かれていた剣が三本、地面に落ちる。


カシス:カジっ……!


ティアー:いたた……。


カシス:ごめんね、大丈夫!? カジッ!


鍛冶師:……っうん(カシスに向かって頷く)


カシス:ちょおっとお! あんった! どこ見て歩いてんのよ! 武器が欠けたらどうしてくれるの!?


ティアー:武器?


鍛冶師:カシス。いい。行こう。


 剣を拾い。王宮のほうへ歩いて行ってしまう、鍛冶師。


カシス:ちょっと待ってよ! カジー!


ティアー:……あの人は……。


 雨が降ってくる。






 次の日。鍛冶屋。


カシス:おはよーっ! さっ。今日も頑張ろうっ! ねーっ!


鍛冶師:……うん。


ティアー:ごめんください。


カシス:っ!? 何あんた。依頼!?


ティアー:えっと……。


鍛冶師:っ?


ティアー:あっ。昨日はぶつかってごめんなさい。落とした武器、大丈夫でしたか?


鍛冶師:……っ。


カシス:あっ! あんた、良く見れば昨日の女じゃないのよ! 何しに来やがったぁ!?


鍛冶師:カシス。やめろ。


カシス:ふえええん! だってえ!


ティアー:私、武器を作る所って見たことがなくて。良ければ見学させて貰えない?


鍛冶師:……っ。


 鍛冶師、奥にある鍛冶場へ行き、剣を打ち始める。


カシス:ちょっと。あんた何言ってんの? 客じゃないんなら帰って! カジは忙しいんだからっ!


ティアー:あなたはあの人の弟子?


カシス:助手よっ! 武器の依頼やカジの身の回りの管理をしているのっ! べーっ!


ティアー:あの人、カジ、っていうの?


カシス:違うわよ。


ティアー:え? じゃあ、カジって? あだ名?


カシス:ふん。カジはカジよ。その綺麗な服を汚したくなかったら、さっさと帰ることね。いい? あたしは今からちょっと出かけるけど! カジに近寄らないでよね! じゃあねっ!


 カシスを見送り。

 ティアー、鍛冶師の所へ歩いて行って。


ティアー:あの。私は、ティルルス……あっ。ティアーよ。あなたの名前は?


鍛冶師:……っ。


ティアー:言いたくないの?


鍛冶師:良く知らない奴に名乗る名はない。


ティアー:そう……。


 鍛冶屋に、キティとスクリューとジンが慌ただしく入ってくる。


キティ:ゼーロー!!!!

スクリュー:ナガナー!!!!

ジン:ムクー!!!!


ティアー:っ!?


鍛冶師:……っ。


キティ:俺の刀ぁ、出来たかぁ!? 寄越せえっ!

スクリュー:あっちの杖に仕込み吹き矢の装着、出来たかしらあ!?

ジン:ムク! おいムクっ! あたいの斧、また折れちったよおーっ!


ティアー:っ!?


キティ&スクリュー&ジン:おや??


キティ:こんな場所になんで女の子が。

スクリュー:お嬢ちゃん。あんたもナガナに暗殺武器の依頼かい? ひひひっ!

ジン:遂にカシスをクビにしてまともな助手を雇ったのっ?


鍛冶師:……武器は出来ている。持っていけ。


キティ:おうっ! さんきゅー! 流石ゼロ! 一流の鍛冶師だぜ!

スクリュー:ああんっ! あっちの杖っ! おかえりいいっ!


ジン:ムクぅ! あたいの斧もぉ!


鍛冶師:預かる。


ジン:ありがとっ! お願いねっ!


ティアー:……カジに、ゼロに、ナガナに、……ムク?


キティ&スクリュー&ジン:んー??


ティアー:一体どれが本当の名前なの?


鍛冶師:……っ。


キティ&スクリュー&ジン:あははははははははははっ!


キティ:ククッ。そいつに名前はねえのさ。


ティアー:えっ?


スクリュー:可愛らしい名前だから名を隠しているのよお!


ティアー:可愛らしい名前?


ジン:キュート! チョコレートローズ!

キティ:フランボワーズ!

スクリュー:メルヘンステッキ!


キティ&スクリュー&ジン:ぎあははははははははははっ!


 目をぱちくりさせる、ティアー。


ティアー:?


キティ:じゃあな、ゼロ! また来る!


スクリュー:もしもっと強い武器が用意出来るんなら。あっちに取っておいてねん?


ジン:斧、一日で直るよねえっ? また明日くるねーっ!


 出て行く三人。


ティアー:な、なんなの。


鍛冶師:……っ。


ティアー:ふっ。名前が無い、なんて。どこかのお姫様みたいね。


鍛冶師:名はある。


ティアー:なんていうの?


鍛冶師:……っ。


ティアー:言いたくないの?


鍛冶師:不便には……。

ティアー:私はとても不便よ。


鍛冶師:……っ。


ティアー:教えて。私、あなたが剣を打つ姿、とてもかっこいいと思うわ。またここに来たいの。


鍛冶師:……どうして。


ティアー:凄いわ……。鉄って、焼いて打つと、光るのね。どんな石も、あなたが叩けば輝くのねきっと。それを見たいの。


 ティアー、火傷でただれている鍛冶師の手に、そっと触れる。


鍛冶師:っ!


 自分の手を引っ込め。また別の武器をつくりはじめる。


ティアー:酷い手ね……。熱い鋼を握ってしまったの?


鍛冶師:……うん。


ティアー:気をつけてね。……今日はありがとう。また明日、来てもいい?


鍛冶師:……うん。






 次の日。鍛冶場。


カシス:だからあ! 教えないったら教えないー!


ティアー:どうして?


キティ:カカカッ。そんなに知りたきゃゼロ本人に聞きゃあいいじゃねえか。


ティアー:教えてくれないからみんなに聞いてるんじゃない。


スクリュー:そう言ゃ。知らないわねぇ。


ジン:ずっと無口だからさあっ。ムクって呼んでんのよっ。アハハッ!


ティアー:……ふぅ。


カシス:そんなに知りたい?


ティアー:うん。でも、無理には……。


カシス:苗字は、ゼロラムだよっ。


ティアー:ゼロラム。


キティ:そ。だから一応、俺はゼロって呼んでんだ! あんたもそうすりゃいい!


ティアー:そうね……。


カシス:でも、隣の家も、そのまた隣の家も、ゼロラムって苗字の奴が住んでいるのよ。カジの遠い親戚らしいけど!


ティアー:えっ。


カシス:だから。ゼロラムさんってのがこの辺は多いのっ!


ティアー:……確かに、向こうの川沿いに住んでいる農場一家も、ゼロラムさん。


カシス:でしょお?


ティアー:……とりあえずはゼロさん、で、いいや。


キティ:くははっ! そうそう。諦めも肝心だぜえ。


ティアー:下の名前、そんなに変な名前なのかな。


カシス:ま。知らないほうがいいかもね。さっ。仕事仕事! あんたたち、用がないのに来ないでよねっ!


スクリュー:まあまあ。ええじゃないのよーう。こうして差し入れ持ってきてあげたんだしい!


ジン:あたいの斧、前より良くなって帰ってくるんだろうなぁー?


キティ:地下で一杯どうだ? スクリュー、ジン。


スクリュー&ジン:さんせーいっ!


 地下のバーへと行ってしまう、キティ、スクリュー、ジン。


ティアー:……カシスさん、私何か手伝えることがあれば……。


カシス:んん? 何あんた、暇なの? 働きたいの? 悪いけど給料は王宮に認められた奴にしか払えないわよっ。


ティアー:や。いらないいらないっ。


カシス:じゃああたしはお昼ご飯の買い出しに行ってくるから。カジの周り、掃き掃除しといてっ! じゃあねっ!


ティアー:うんっ。


 箒を持ち、鍛冶師が居る鍛冶場へ行くティアー。掃き掃除をする。


鍛冶師:……。


 真剣に、剣の細かい装飾をしている鍛冶師。


ティアー:へぇ。そんなに細かい装飾までするのね。


鍛冶師:っ!!?


ティアー:えっ。ごめんなさい。驚かすつもりは。


鍛冶師:……っ。


ティアー:大変ね。いつも一人で。城内の鍛冶場は使わないの? あっちなら、ドワーフやエルフが居るから手伝って貰え……。

鍛冶師:管轄が違う。


ティアー:そうなんだ。


鍛冶師:……。


ティアー:お掃除、すぐに済ませるね。


鍛冶師:どうしてそんなこと。


ティアー:んー。鍛冶師のお仕事に、興味があるから。かな。


鍛冶師:……。


ティアー:今日は、少し遅くまで、見学していってもいい?


鍛冶師:……うん。


ティアー:よかった。ありがとう。






カシス:お休みぃ。カジー……。


鍛冶師:ああ。


ティアー:……すぅ、すぅ……。


 椅子の背にもたれて、眠ってしまっているティアー。


鍛冶師:……ティア。


ティアー:すぅ、すぅ……。


鍛冶師:……。っ。


 彼女を抱き上げ。カシスの部屋に連れて行く。


 ノックして。


カシス:ふぁい? なにぃ? カジー。眠いぃ。


鍛冶師:ティアと一緒に寝て欲しい。


カシス:はぁ~? 何そいつ、寝ちゃったの? ……まったくもお~。どこの家に住んでるのかしら? まあいいけど。どうぞ~?


鍛冶師:……っ。


 クイーンサイズの巨大なベッドに、ティアーを寝かせ。その横にカシスは横たわる。


カシス:こいつさあ。クロア様に似てない? ふぁぁ。


鍛冶師:……似てる。


カシス:だよねぇ。王族だったりして……。ふは。そんなわけないっかー。ははっ。


ティアー:すぅ、すぅ……。


鍛冶師:おやすみ。


カシス:うんー……。






 数日後。


キティ:おはよーっと。


スクリュー:あら。キティ。おはよ。


キティ:んん? 変な臭いがすんなあ?


ジン:最近の。い、つ、も、の!


キティ:ああ……。フッ。こりねえなあ。


ティアー:きゃーっ!?!?!?!?


カシス:ああ、もうっ! ちょっとティアー!? 火力強すぎー!


 ティアーとカシスが、仲良く二人で朝ごはんを作っている。


キティ:ははははっ! ティアー。また炭喰わす気かぁ?


スクリュー:やあねえ。この国の鍛冶師は国宝なのよお? 死なす気ぃ?


ジン:タダ飯なんだから文句言うなってえ! 意外といけるよっ!? ティアーのごはん! からいしにがいけどねっ!


ティアー:トホホ。


キティ:んー? 今日はなんだ? チキンライスか?


ティアー:チョコレートケーキを作ろうとして……。


スクリュー&キティ&ジン:赤いっ!!!!


カシス:なんでチョコレートケーキなのにタバスコ入れようとしたのかなコイツ。


スクリュー&キティ&ジン:からいっ!!


ティアー:誤魔化そうとしたのよっ!


スクリュー:この子やっばーいんっ!


ジン:失敗する前提じゃないよぉーっ!


キティ:こんなんじゃ、ゼロにはいつまでたっても食って貰えねーなっ! がははははははっ!


ティアー:えっ。さっき渡しちゃいましたけど。


スクリュー&キティ&ジン&カシス:えええええーっ!?


鍛冶師:……ん。


 もぐもぐしている。


キティ:吐けーっ!


鍛冶師:うまい。

ティアー:よかったーっ。


スクリュー&キティ&ジン&カシス:いやおかしいでしょ!!!!


ティアー:また作るねっ。


鍛冶師:うん。


スクリュー:な、なんだかあの二人、相性よっくなーい?


カシス:カジ、味覚そんなに悪くないはずなんだけど。


キティ:愛だよ。愛。


ジン:愛とか何。ゲロ?


 鍛冶師、すぐに仕事を再開する。

 カーン、カーンと、鉄を叩く音が響き渡る。


鍛冶師:っ。っ。っ。


ティアー:ゼロ。今日は、午後に槍十本と、刀二本の納品があって。夜にドワーフさんたちが、港から鉄鉱石を持ってきてくれます。


鍛冶師:検品はティアがやってほしい。


ティアー:わかりました。約束の二十時には、鍛冶場に居るようにしますね。


鍛冶師:うん。


 ティアーと鍛冶師、仕事の話を続ける。


キティ:カシス。居場所取られちまったんじゃあねえかあ?


カシス:残念でした。まあたしかに最初はうざったかったけど。ティアー、結構使えるし。悪い奴じゃないし。あの子がああやってあたしの仕事取ってくれてるおかげで。ようやく、カジの仕事の幅を増やせるようになったわ。


スクリュー:仕事の幅?


カシス:オークションよ!!!! ずっとやりたかったの!


スクリュー&キティ&ジン:なるほど~。


カシス:絶対にカジの武器は高く売れる!! もう王宮絡みの固定給賃金じゃダメ! もっともっと、他人に評価されるべき武器なのよ!!


スクリュー&キティ&ジン:お~。


カシス:あたしが目指すのは、美術品よっ!!


キティ:美術品?


カシス:そうっ! カジが作る武器は、どれもこれも美しいでしょっ!? 見なさいっ! このっ! エレメンタルカガヤキ!!


スクリュー&キティ&ジン:お~。


カシス:……人を殺すための武器を、もう作らせたくないのよ。あたし。


スクリュー:カシス?


カシス:っ! な、なんでもないっ! あたし、王宮に呼ばれてるんだった! じゃあねっ! お茶とか酒とか、適当にやってっ!


スクリュー&キティ&ジン:う、うん。


スクリュー:下行きましょ~。


キティ:んだな。


ジン:カシスも色々と考えてるのねえ。






 次の日。


キティ:ティーア。おはよ。ゼロ、風邪だってぇ?


ティアー:あっ。おはようっ! うん、そうみたいなの。


スクリュー:これ、お見舞いの甘酒よん!


ティアー:ありがとう。


ジン:ちゃんと部屋で寝てるんでしょーね?


ティアー:うん。


キティ:じゃあまぁ、数日は何も仕上がってこねえだろうな。


スクリュー:お大事にぃ。


ジン:ティアー、風邪移されないようにねっ!


ティアー:うん。


 三人、帰っていく。


キティ:じゃーな。


ティアー:っ。地下で何か飲んでいかないの?


スクリュー:んー。今日は遠慮しておくのよーう。


ジン:流石にね。


キティ:カシスは?


ティアー:万病に効くっていう特効薬を、妖精の国に取りに帰ってるの。


キティ:んだよ。薬が切れてたのか。


スクリュー:言ってくれればあっちたちが医者を連れてきたのにい。


ティアー:医者の薬は信用ならないから、って。


キティ:過保護じゃねえか。


スクリュー:熱はあるのお?


ティアー:うん、少し。


ジン:帰ろっ!


スクリュー:はいはい。じゃーねん。ティアちゃん。


ティアー:うんっ。……ふぅ。


 三人を見送るティアー。


 鍛冶師の部屋へ。

 ノックして。


ティアー:ゼロ?


鍛冶師:……っ。


 中に入る。


ティアー:ゼロ、何か飲む?


鍛冶師:ティア……。


 ベッドから起き上がる鍛冶師。

 ティアーは隣に座り、鍛冶師の額に手を当てて。


ティアー:っ……まだ熱があるね。


鍛冶師:……ティア……。 


 ティアーにそっと抱きつく鍛冶師。


ティアー:ん?


鍛冶師:……っ。


ティアー:どうしたの?


鍛冶師:……一緒に居たい。


ティアー:ふふ。……そういうこと、言うんだね。


鍛冶師:……どうして?


ティアー:もっと冷たい人だと思ってたの。……ううん。


鍛冶師:っ……。


ティアー:何も感じない人なのかもって、思ってた。


鍛冶師:ごめん。


ティアー:謝らないで。勝手にそう思ってただけなの。……横になって。


鍛冶師:うん。


 横になる鍛冶師。と、その横に座るティアー、手を繋いで。


ティアー:ゼロ。いつも、微かに感じてたの。……私は満たされた生活をしてる。でも、どこか寂しくて、どこか悲しかった。


鍛冶師:……っ。


ティアー:同じなんだね。私たち。


鍛冶師:同じ……。


ティアー:うん。全然違うけど、ちょっとだけ。同じとこがあるんだ、きっと。


鍛冶師:……っ。


ティアー:ゼロ。今日はゆっくり寝て。元気じゃなきゃ、いいものなんて打てないんだから。


鍛冶師:……俺、


ティアー:うん?


鍛冶師:もう、打ちたくないんだ。


ティアー:……武器を?


鍛冶師:うん。


ティアー:そっか。私は、ゼロの好きにしたらいいと思う。


鍛冶師:……っ。


ティアー:国が必要なのは、本当に、武器なのかなって。私も考えていたの。


鍛冶師:……ティア……。


ティアー:王宮の中で武器を作っている鍛冶師も、なんだかいつも、迷いながら刀を打っているからね。


鍛冶師:あいつが?


ティアー:うん。


鍛冶師:……そっか。


ティアー:ゼロは、刀や剣を、作るのが嫌になったの?


鍛冶師:ううん。


ティアー:じゃあ、……人殺しの道具を作ることが、嫌になったの?


鍛冶師:……うん。


ティアー:そう。


鍛冶師:……っ。


ティアー:あのね、私ちょっと考えたんだけどっ。


鍛冶師:ん?


ティアー:全ての戦を終わらせることは、突然には無理かも知れない。でもね、いつかは変わるかも知れない。……戦って何? って思えるような時代が、来るかも、って。


鍛冶師:うん。


ティアー:……私は、城で毎日訓練をする兵士さんたちや、魔物討伐に行く騎士たちを見て、祈ることしか出来ないけど。


鍛冶師:……うん。


ティアー:う~ん。なんか、言葉がまとまらなくなっちゃった! ごめんっ。ふふ。


鍛冶師:……っ。


ティアー:人を殺すための武器を、ゼロみたいに優しい人がつくっているのは、なんだか変だわ。


鍛冶師:優しい?


ティアー:うん。


鍛冶師:優しいのかな。


ティアー:あら。あなたが優しくなかったら、鍛冶場の花壇でお昼寝しているカシスのむき出しのお腹に、小さなタオルをかけたりする?


鍛冶師:……っ。


ティアー:スクリューとジンとキティ、あんなにいつも騒がしくて。あなたの集中を妨げてるのに。ゼロは三人のこと、いつも無視しない。無茶苦茶な依頼だって、あの三人は特別なんでしょ? 優先してやろうとしてるもんね。


鍛冶師:そう見えてるだけだよ。


ティアー:そうかな?


鍛冶師:……うん。


ティアー:そうだとしても。間違いだとしても。私は、毎朝、花壇のチューリップに優しく水をあげているあなたの背を、いつも見てるし。


鍛冶師:っ。


ティアー:……人を傷付ける為の武器に、やるせない気持ちを持っているのも、感じるわ。たった数週間だけど。一緒に居て、わかるのよ。ゼロ。


鍛冶師:……。


ティアー:あなたは、あなたがつくりたいものをつくればいい。あなたが武器を作らなくなっても、あの四人はきっと、離れていかないわ。


鍛冶師:……本当に嫌なんだ。もう。戦うのも、失うのも、何よりも……。


ティアー:……。


鍛冶師:誰の血も、見たくなくて。


ティアー:……ねえ。ちょっと閃いたんだけど。


鍛冶師:?


ティアー:武器に傷薬を塗りこんでおくっていうのは、どう!?


鍛冶師:えっ?


ティアー:う~ん。それじゃあ意味ないかあ。


鍛冶師:ふっ。


ティアー:っ? ゼロ、今……。


鍛冶師:良くそんなこと思いつくな。


ティアー:えっ。変!? 変よね!? うん、まあわかるけどっ!


鍛冶師:……っ。


ティアー:じゃあ防具職人になるっていうのはどう!?


鍛冶師:防具?


ティアー:そう! 攻撃じゃなくって。守るのよ!


鍛冶師:……そんなこと考えもしなかった。


ティアー:どうして?


鍛冶師:だって。うちは元々、代々続く、刀鍛冶屋だったから……。


ティアー:ん? でもゼロ、ジンの短剣や斧、スクリューの杖に、キティの槍なんかもつくってるわよね?


鍛冶師:あの三人が、無理やり頼んでくるようになって。


ティアー:ああ。それで、王宮への依頼も、色んな武器開発になってったのね。


鍛冶師:っ……。っ……。


ティアー:大丈夫? 疲れた?


鍛冶師:こんなに話すことって、ないから。


ティアー:そうだよね! ふふっ。


鍛冶師:楽しいよ。


ティアー:本当!?


鍛冶師:うん。俺、ティアと一緒だと、すごく嬉しい。ほこほこする。


ティアー:私も!


鍛冶師:……っ。


ティアー:ふふっ。


鍛冶師:ティア。俺、


ティアー:うん?


鍛冶師:……っ。


ティアー:なぁに。


鍛冶師:俺、名前……言ってなかったよね。


ティアー:……言わなくてもいいんだよ。


鍛冶師:え?


ティアー:だって。言いたくなんでしょ?


鍛冶師:でも。


ティアー:私だって、言いたくないこと、あるもん。


鍛冶師:何?


ティアー:んん?


鍛冶師:言いたくないことって。


ティアー:ええっ? 言いたくないんだから言わないよっ。


鍛冶師:教えてよ。


ティアー:だめっ。


鍛冶師:少しだけ。


ティアー:だーめっ!


鍛冶師:名前言うから。


ティアー:ええーっ? もうっ! ゼロ、はやく寝なさいっ!






 次の日。鍛冶場。ゼロが鋼を叩く音が、響き渡っている。


キティ:ういーっす!


スクリュー:おはよん!


ジン:おっはよ~!


カシス:ちょっと待って本気なの!? あたしは賛成しないよっ! 無理に決まってるっ!


キティ&スクリュー&ジン:???


鍛冶師:……出来るところまでやる。


カシス:何言ってんの!? あの金持ち、カジを潰す気だよっ!?


鍛冶師:うん。


カシス:カジ、考え直して!!


鍛冶師:……っ。っ。っ。


 鍛冶師が剣を打つ手は、止まらない。


カシス:カジ!


ティアー:おはよう……。どうしたの、カシス。王宮まで怒鳴り声が聞こえたよ?


カシス:ティアー! ちょっともー聞いてよっ! カジったらね!


鍛冶師:カシス。


カシス:うっ……。


ティアー:?


 剣を打ち続ける。

 いつもより少し焦っている様子の鍛冶師。その雰囲気は、すぐにティアーに伝わった。


鍛冶師:っ。っ。っ。


カシス:カジ……。


ティアー:何があったの?


鍛冶師:……っ。


カシス:ごめんね、ティアー。ちょっと今日は忙しいからっ。


ティアー:あっ。カシス!? ちょっと待って!


 カシス、鍛冶屋から飛び出して行ってしまう。


ティアー:ゼロ? もう熱は引いたの?


鍛冶師:うん。


ティアー:もう一日くらい、安静にしていたら?


鍛冶師:……仕事、したいから。


ティアー:武器を、作り続けることにしたの?


鍛冶師:これで終わりにする。


ティアー:カシス、何だか凄い形相だったけど。今抱えてる仕事って……。


鍛冶師:三日後までに、剣を百本用意しなきゃならない。


ティアー:っ!? そ、そんなの無理よ! いつも、一日一本。多くて五本。丁寧に作ってるんじゃない!


鍛冶師:揃えてみせる。


ティアー:ゼロ……?


鍛冶師:ごめん、忙しいから。


ティアー:ゼロッ……!






 鍛冶場の地下のバー。


キティ:ティアー。おめえも締め出されたのかっ? ぜははははははははっ!


ティアー:キティ。


キティ:妙に真剣だったなあ。


ティアー:ゼロが受けた依頼って?


スクリュー:百本の剣を打つんでしょーん?


ティアー:スクリュー。


スクリュー:三日じゃ無理だと思う、っけどねえーん。


ティアー:何をあんなに急に焦っているのかしら。


ジン:打てたら、森の奥まで剣を届けに行くらしいよっ!


ティアー:また森の奥で戦が?


ジン:ムクの剣って、凄くよく切れるから。ほんっとにいい値がつくよねえっ。


ティアー:……ゼロ……。


キティ:ティアー。ゼロのこと頼むぜ。


ティアー:えっ?


キティ:あんたには、心を開いているんだろ?


ティアー:わからない。たまに抱きしめてくれるけど。でも。


スクリュー:二人、いい雰囲気だものねえ~。


ティアー:……ごめん。私、今日は帰るね。また。


 去っていくティアー。


スクリュー&キティ&ジン:ぁ……。っ……。






 三日後。

 王宮。


キティ:ふぁぁあ。今日は城で警備の仕事、入れてたっけなあ。


ジン:もうっ! キティ。城内であくび、やめてよねっ! あたいまで騎士たちに睨まれちまうよっ!


キティ:いやはや。あれからついに三日経っちまったじゃあねえか。


ジン:まあ、そう、だね。


キティ:ゼロは剣を仕上げられたのかねえ。


ジン:どうなんだろ。


キティ:ま、いいや。今日も仕事、仕事、っと。行こうぜ。


ジン:あ、うん! スクリュー、まだかな?


キティ:あいつ、朝弱ぇからな。ま、いつもの城壁辺りで待ってりゃ来んじゃねえか?


 城内を歩いていると、ジンとキティはティアーにばったり会う。


ティアー:あれっ。キティとジン!


ジン:ティアー!?

キティ:んあ? ティアー? おめえ、なんで城に?


ティアー:えっ? あ、ああっ! えーと、散歩?


ジン&キティ:散歩ぉ?


ティアー:ごめんねっ。じゃあねっ!


ジン:う、うん。


キティ:今の格好って。


ジン:……ん?


スクリュー:あっひゃ~! おっまたせ~んっ! 寝坊しちゃった~ん!


キティ:謁見の間に入ったぜ!


ジン:後を追うっ!?


キティ:おうっ!!


スクリュー:えっ? ちょっとちょっと! どっこいくのよ~う!






 王宮。謁見の間。


カシス:王様。頼まれていたつるぎ、百本の用意が出来ました。ご確認して頂き、すぐに森の奥まで運ばせて頂きます。


鍛冶師:……カシス、先に帰っていてくれ。


カシス:カジ?


鍛冶師:俺がやるから。


カシス:えっ。なんでよ。荷台は二つ使うんだよ? 二人で行ったほうが効率がいいじゃない!


鍛冶師:国王。俺はもう、剣を打たない。


カシス:っ!? カジ!?


鍛冶師:人の命を奪う為の武器を、もう作りたくないんだ。


カシス:カジ、王様の前でなんてこと!


鍛冶師:俺が打ったこの百本は、どんな武器よりも筆よりも軽い。


カシス:カジ……。


鍛冶師:そして、人を斬れないように。鍛えた。


カシス:……?


鍛冶師:戦をなくす為に。もう、武器なんて、必要なくなる為に。


カシス:……っ。


鍛冶師:俺はなまくらなつるぎを百本作った。……これは、相手を守る剣だ。誰かの希望を守る剣だ。……森の奥に、持っていく。


カシス:カジ!!


ティアー:そうですか。


鍛冶師:っ?


ティアー:わかりました。それがあなたの、新しい剣なんですね。


鍛冶師:ティア……?


ティアー:私も行きます。そして伝えます。和平国家を作る為に。


スクリュー:どういうことなの~!?


キティ:ティアーが、王様?


ジン:あらら。知らなかったーっ! いっつも顔隠してるものね! 王様っ!


ティアー:ふふ。


鍛冶師:……っ。


ティアー:……ゼロ。この剣を作るの、大変でしたよね。


鍛冶師:……ううん。


カシス:……もう、くったくたよ。はぁ。


ティアー:今夜はもう遅いですから。城内で休み、明日の朝、森へ行きましょう。


キティ:陛下。お供するぜ!


ティアー:えっ。本当ですか?


ジン:当然でしょ! 友達じゃないっ!


スクリュー:勿論、あっちも!


ティアー:嬉しい。助かります。ありがとう。じゃあ、部屋を用意させますね。


キティ:っしゃあ! 王宮料理が食えるぜっ!


ジン:まじ! やったあ!


カシス:あーもう無理。眠い。寝る。


スクリュー:ウフフ。お疲れ様。カシス。






 梟の鳴き声。

 夜中。カシス、ゼロ、キティ、スクリュー、ジンが休んでいる部屋。

 そのエントランス。


カシス:すぅ、すぅ、すぅ……。


スクリュー&ジン&キティ:ずごごおおおお……。


鍛冶師:びっくりした。ティアが王様だったなんて。


ティアー:ふふ。ごめんね、黙ってて。


鍛冶師:ううん。


ティアー:でも、私もびっくりしたよ? ゼロがあんな武器を持ってくるなんて。


鍛冶師:幼稚かな。


ティアー:えっ? あっ。う~ん……? でも、考えなしに、あんなもの百本も打たないでしょ。


鍛冶師:……っ。


ティアー:ね?


鍛冶師:正しいかどうかは、わからない。


ティアー:そんなの、誰もわからないわ。


鍛冶師:ティア……。


ティアー:うん?


鍛冶師:ありがとう。


ティアー:ふふ。どうして?


鍛冶師:……っ。


ティアー:ゼロ、あの剣を持っていったらきっと大変なことになるわ。


鍛冶師:うん。


ティアー:それでも、やるのね?


鍛冶師:ただのなまくらを打ったんじゃない。全く斬れない、という訳でも無いんだ。


ティアー:報酬、貰えないかも知れないよ。


鍛冶師:金の為にやってる訳じゃ……。


ティアー:わかってる。


鍛冶師:ティア……。


 二人、寄り添う。


ティアー:ん……。ふふ。ねえ、ゼロ。その右耳の黒いピアス、シンプルでかっこいい。


鍛冶師:?


ティアー:ずっと付けてるの?


鍛冶師:子供の頃。師匠に貰ったんだ。


ティアー:へえ。刀鍜冶の? じゃあ大切なものなのね。


鍛冶師:……っ。


ティアー:眠い? そろそろ寝ましょうか。


鍛冶師:ティアー


ティアー:うん?


鍛冶師:俺の名前……。


ティアー:……っ! 言いたくなったの?


鍛冶師:うん。明日……。


ティアー:?


鍛冶師:明日の帰りに、言うよ。


ティアー:ん。わかった。


キティ&ジン&スクリュー:ずごおおおおおお……。


ティアー:おやすみ。


鍛冶師:うん。……おやすみ。






END







2014、7月24日。19持28分から



すぺしゃるさんくす! まろさん





2014年8月1。16:34まで。




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