5.Become a wizard
『いいか来人。魔法は自由の力だ。杖を掲げてから頭の中でイメージしろ。そうすれば私が魔力を使い、お前がそれを操ることができる!』
「分かった!」
言われた通りに頭の中でイメージを固めながら杖を前に突き出す。そうすると魔法陣がでてきて本当にイメージと同じピンポン球一つと大差ない大きさの火の玉が幾つも現れ、虎に飛んで行った。しかしそれらは全て爪の一振りでかき消されてしまう。
「もっと強いイメージを持たなきゃってことか…。」
そう呟いてから杖を握る手に力を込める。
「いっけぇぇぇ!」
魔法陣から出したのは先ほどよりも大きな一つの火の玉。今度は某RPGのメ○ゾーマほどの大きさのそれは虎に大きなダメージを与えた。体毛を黒く焦がしながらも、野生の本能で反撃をしてきた虎の攻撃を紙一重で背後に回避する。
「おわっと!」
自分の身体が思った以上に動き、大きな余裕を持って攻撃を避けた。どうやらマリカの力を借りると基本的な身体能力や思考能力も上がるようだ。今のなんていつもの俺じゃ到底考えることも実行することもできない。
連続して攻撃を仕掛けてきた虎と俺の間に氷の壁を作り出す。が、いとも簡単に破られた。また背後に跳び連続攻撃を壁で防ごうとするが次々と壊される。
『少しは考えろ!まだ魔法に不慣れなお前じゃ強固な壁は作れない!』
「壁は、ってことは…こうか!」
今度は壁を諦めて魔法陣を出したのは目の前…ではなく、地面。虎が通るであろう場所。そして通った瞬間に小さいが頂がすごく鋭利な氷山を作り下から攻撃をした。
そのときだった。不意に頭の奥にて貫くような痛みが俺を襲った。
「…⁉︎」
『魔法の乱発のせいだ!もっと回数も考えるといい。』
「マリカ…。何か魔法以外の攻撃はないのか?決定打が欲しい。」
ーー杖を魔法で別の武器に変えることならできる。その武器で魔力を扱うことも。それなら魔法ではないから身体への影響もない。
「それでいい。やり方はさっきと一緒だな?」
ーーあぁ。
早速、杖を別の武器に変換しようとしたところで動きを止めていた虎が再び襲いかかってきた。それを俺は右に踏み込み回避。
「これで決めてやる…!」
未だ杖の形態を保っている為に俺は一旦魔法を放つ。虎の足元に魔法陣を作り出す。そこから放たれたのは電撃だ。再び僅かに頭が痛む。が、そんなことを気にしている余裕はない。
続いて杖を先ほどまでの円状の魔法陣ではなく、棒状の魔法陣が2本、Xの字に交差して杖を覆った。そして杖は形を変えて俺の手に収まる。
その武器は俺があらゆるゲームで扱っているのと同じ…弓矢だ。
杖の長さは人の腕から腕までほどだったが、この弓は身長170cmほどある俺と同じくらいの長さをしている。
虎の痺れが解けたので、俺はトドメをさすため、弓を構える。矢はない。が弦を右手の人差し指、中指、親指の3本で握り引っ張った。すると俺の中に滞りなく流れる魔力が溢れ、見ることすらままならないほどに眩しい光の矢が現れる。
そうしているうちに虎は邪悪な雰囲気を纏って飛びかかってくる。
「終わりだぁぁぁぁ!!」
虎がこちらに触れる直前、三つの指を離し、一本の光矢を放った。
その矢は綺麗な直線を描きながら、虎の身体を深々と貫く。
「はぁ…はぁ…」
『…よくやった。』
薄れゆく意識の中、自分の身体を纏う白い装束が光として消えていく。俺は立つことも難しく、気を失った。




