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Time Wizard  作者: 野上 隣
Episode 1 Wizard
2/40

2.First encount

居眠りによるお説教を宣言された放課後、俺は渋々と職員室へと足を運ぶ。結局は自分が悪いのだからと言い聞かせるがそれでも気が乗らないものは気が乗らない。


「職員室ってどこだっけ?」


季節はまだ新緑の芽吹く5月。入学から一ヶ月しか経ってないとなるとまだ校内について詳しくないのも仕方ない。…が職員室を知らないのはどうなのか。まぁ日本には職員室が存在しない高校もあるわけだから…。

と無駄な事を考えていると職員室と記されたプレートが目に入った。俺はノックをしてからドアを開き、進まない気分の中、独特の珈琲の匂いが蔓延る職員室へと足を踏み入れた。






職員室に入ってから小一時間。やっと説教が終わり、俺は解放される。内容は同じ注意をループさせたようなもので途中からは聞き流していた。ごめんなさい小内先生。

いつも一緒に帰っている友人らには先に帰るように伝えたため、今日は一人での下校だ。流石に自分の説教で待たせるわけにはいかないであろう。それに一人だからといってなにがあるわけでもない。

俺が住んでいるのは学校から徒歩10分の小さなアパート。一人暮らしだ。家族がいないわけじゃなく、学校から遠いこと、妹が寮生活であること、両親の出張が多いこと、そしてアパートの大家さんが母親の姉、つまり俺の叔母さんであることから俺は近場で便利なアパートを無償で借りている。一人暮らしとはいえ、その叔母さんには世話になっているからいつかは恩を返さなきゃと思っていたりもするのだがそれができるのかはわからない。

と、そんな考えを浮かべながら俺はたどり着いた自宅の鍵を開く。

ガチャリとした手応えを感じた後に自宅へと入る。


「あああーっ!」


といいながら小さなベッドへ制服のままフライアウェイ!部屋は1kと広くはないがテレビ、洗濯機、エアコンなど生活に必要なものは全て揃っている。そこまで思考を張り巡らせたところでとあることに気づく。洗濯機が絶賛故障中なのだ。ワイシャツの洗濯だけでも済まさないと明日学校へ着ていくものがないので、今日と昨日着た二日分のワイシャツを片手に部屋をでる。なぜか好きな五月の風を身体に受けながら俺は自転車のペダルを漕いだ。





「よし!」


500円入れてからポチッとコインランドリーのスイッチを押す。後は明日の朝、登校中に回収すればいいだろう。

さて、次は夕飯の準備か。叔母さんに頼めればいいのだけれども仕事の邪魔にもなり得るゆえ、それもしたくはない。


と思っていたときだった。

ドゴォン!という大きな音に続いて焦げ臭い匂いが鼻につく。もしかして、と思い外に出て音の方角に視線をやる。するとなんと爆発が起きていた。

何があったのかと思いながら、更に状況を把握しようとするとメラメラと熱い炎が燃え上がり人がどんどん此方へ押し寄せてくる。本来なら俺も逃げるべきなのだろうけど、何故か俺は爆発の元へと行かなければならない気がした。


「……っ!」


竦んだ足に力を込め、根拠もないまま俺は走り始めた。





……!

そこでみたものを俺は一生忘れないだろう。

綺麗な白銀の長い髪を持つ20代から30代と思われる女性が空中に浮いて、炎や水、風、土木の一般的に言う四元素を操り、禍々しい雰囲気の狼と戦っている姿を……。

その姿は本やゲームでみた魔法使いと言っても遜色なく、とても勇敢で美しいのだが一つ、気になることがあった。彼女はかなり疲弊している。証拠に息も荒い。その隙をついて狼が素早く動き背後から不意打ちを仕掛けた。


「危ない!」


無意識のうちに俺は咄嗟に声をあげた。間に合ったようで女性は手に持った杖で魔法陣を作り出しそれを盾とし、防御した。がそれで万策尽きたのかふわふわと地面に降り立つ。


「大丈夫…ですか!」


女性に近づき声をかけると女性は俺の方を向いた。さっきまでは遠くてよく見えなかったけどすごく美人だ。眼は澄んだスカイブルー。そして彼女の綺麗な唇が微かに動き俺に一言…。


「少年…、すまないが力を貸してくれ…」

「え…?」


急に右手が彼女の左手に握られた。暖かさの中に冷たさがあり不思議な感触がする。刹那、彼女の身体が目を眩ませるほどに輝く。目を瞑った瞬間に自分の中に何かが入り込んだ。何かとは何なのか、全く分からないがこれだけは言い切れる。すごく優しくて暖かい…。


「すまないが、借り物だからすぐに終える…!」


直後…勝手に身体が動き、立ち上がり言葉を発した。しかし、俺の声…というより俺と女性の声が混ざったものだ。無論、俺の意志じゃない。被害があった民家のガラスの破片に俺の姿が反射し、視界に入った。

まず右手には女性の杖、そして瞳は女性と同じスカイブルーだ。

まさか…と思いながら俺は身体(おれ)が魔法を使う姿を感じていた。


右手に持った杖を勢いよくかざすと魔法陣と思われる紋章が地面に垂直に浮かび上がる。その魔法陣の中心から電撃が走り、狼に直撃。呻き声をあげた狼はぷすぷすとグレーの毛から煙を立ち上げる。刹那、反撃として鋭い前脚の爪を向けて飛び掛ってくる。

うわ!と怯えるも身体は正直に彼女の意志で動く。杖の宝玉の装飾が施された部分で爪攻撃を弾く。だがそのまま連続で爪や噛み付きをしてこようとするものの紙一重で回避や防御する。七度目の攻撃を回避するとこちらも覚悟を決めたのか、再び魔法陣を作り出す。今度は左足の前に。勢いよくその魔法陣を左足で踏みつけ、右足で踏み込み身体の重心を整えてから左足で蹴りを繰り出すと威力が格段に上がっていたのを感じた。狼は3m程先まで吹き飛ぶ。


「ガァッ!」

「終わりだ…!」


その隙に三つ目の魔法陣を自分を中心に囲むように足元に作り出す。その中心に杖を突き刺すと、俺の身体は不思議な構えを見せた。

指を綺麗に揃え左手を開き掌を狼に向ける。そして右手は掌で左手の甲を抑えるように支えた。


「…神楽!」


更に左手の前に魔法陣が現れ、その中心からエネルギー弾のようなものが放たれる。真っ直ぐ飛ばされたそれは狼が立ち上がる寸前に直撃。余程威力があったのか狼はたちまち消滅した。

直後、身体から"意志"が抜けていった。一応自分が戦ったことになるのか、と思いながら荒れる息を大人しくさせる。

そうしていると目の前に先ほどの女性が現れた。


「勝手に身体を借りてすまなかったね。まぁ理解し難いとは思うけど、私は魔法使いのマリカ。」

「やっぱり…」


口に出して呟くが問題はその後だった。魔法使いの存在もこの目で見たとは言え、信じ難いのに…


「それだけじゃなくて…

私は…魔法使いの幽霊なんだ。」


魔法使いと、幽霊…。

そんな現実離れした存在を目の当たりにした俺は…。


「えぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


驚きの声を町に木霊させていった。

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