12.As a fencer
矢が溶けるように空気に消え、奏笑の身体が吹っ飛び、地面に着くと2.3回勢いが消えるまで跳ねた。
「やった…のか…」
奏笑の身体から剣士の服装や髪型が光となって消えて行き、徐々に奏笑の身体へとその姿を戻していくところをみると倒したのだろう。
『く…そ…』
右目のみ剣士と同じ赤色に染まる奏笑が口を開く。声と口がずれているため奏笑ではなく剣士だろう。
『よくやった、来人。後は封印するだけだ。』
「封印?」
俺がマリカにそう言うと指輪をはめた右手が白く光だした。今まで感じたことのない魔力だ。
『このまま放っておくと完全にリンクしてしまった剣士と共に奏笑も命を失ってしまう。』
「分かった。どうすればいい?」
俺の魔装も綻び始めているため力が足りないのを感じる。恐らくこの右手の魔力は力を失っているマリカが振り絞ったものだろう。そう考えて奏笑へと歩み寄りマリカの指示を聞く。
『胸元には触れなくていい。飾していつも通り剣士を封印するイメージをするんだ。』
指示の通りイメージすると奏笑を中心に5mほどの白い魔法陣が広がる。腕に熱を感じ、いつものように、いや、いつもより脳に負荷を感じた。そして剣士が呻き声と共にその幽体が吸い込まれていく。
『最後に…お前…ほどの強者と…闘えて良かった…。』
「……お前こそ強かったよ…」
『いつか…また私と戦ってくれ…。そのときは魔獣として、幽霊としてではなく……』
そこで再び苦しみ言葉が途切れる。俺も魔法の持続は辛いが、強者の、剣士の最期を見届けようと全力を尽くす。
『一人の剣士として……』
最期の言葉を聞き、俺は魔法に本腰を入れる。魔法陣の中心へと吸い込む力が強くなり剣士が完全に吸い込まれると魔法陣は回転しながら面積を狭めて直径3cmほどなり、奏笑の胸元へ、服を擦り抜け消えて行った。
『よくやったな。』
「今回はたまたまだよ。奏笑を助けたいって気持ちがなかったら負けてた…。」
奏笑の頭を撫でると彼女はゆっくりと瞼を開いた。身体は多少痛むようだが傷がないところをみると完全憑依も魔装と同じものなのだろう。
「ありがと…来人。ずっと見てたよ。助けてくれるところ…」
笑顔でそう言うと俺は助けることができて良かったと再び安堵し、一息着く。
そして、奏笑が胸元に違和感を感じたのか俺に背を向け、制服のワイシャツのボタンを開き出した。すると大声をあげ、驚き、俺…ではなくマリカに問い質した。
「ねえ!マリカ!これなに!?」
俺の視界がマリカの視界になるので俺は奏笑が見せてきたものをみる。奏笑のそこそこ大きい胸に目が行ってしまうのは男の性だから仕方ないだろう。見せてきたのはその左の方。胸元の上部に3cmほどの小さな魔法陣が刻まれておりその魔法陣の中心部には一本の刀が印されているのだ。
その問いに対してマリカが俺の口を使い答えた。
「それはさっきの剣士…雨宮我真を封印している魔法陣だ。雨宮が完全に消えるまでそれが消えることはないだろう。」
「だって…」
先ほどの剣士は雨宮我真っていうのか…。有名だったんだろうな。じゃなきゃこいつも知らなかっただろうし…。
なんて思いながら俺の口から出た女声に続き俺が言って違和感を感じた。対し、奏笑は話には納得したものの俺がはだけた胸元を凝視してしまったことに顔を赤らめている。
が、話がわかるやつなので後ろを向いてぷいっとする。
「あの剣士…さ。私の中にいるってことは。見守ってくれてるんだよね…。」
「……ああ。」
何処と無く嬉しそうだったので俺も同意した。ふりではなく本当に。
「そういえば来人。その左手大丈夫なの?」
奏笑が急に尋ねてきた。左…手?
「あっ…」
刹那俺の脳裏にマリカの言葉がフラッシュバックした。
ーー戦闘時の身体は私の魔力で作り出したものだからだ。だから傷はできないし、戦闘時に痛みも軽減させている。かわりにそうやってお前の身体にダメージが残ることになる。
お前の身体にダメージが残ることになる。つまり、今俺が魔装を解いたら左腕が斬り落とされるのと同じ痛みを…
そこまで考えた瞬間、魔装が完全に消え去った。
そして存在する左腕の上部に言葉には言い表せない程の痛みが襲い掛かり、俺の悲鳴は町に響き渡ったのだった。




