第六章 姫、行く。
「…行かなくちゃ」
優夜の言葉に麻琴は顔をしかめた。
「風間くんは強いかもしれないけど、やっぱり気になるよ。お願い麻琴兄さん。風間くんの近くに行かせてください」
「話を聞いていたか!? 珠鬼はお前を守るために」
ガチャ
麻琴の言葉を遮るようにドアが開いた。
そこには楓がいた。
「僕が連れていくよ」
「楓…いくら楓でも殺すぞ」
「ぅぉっ……本気だよ」
ビビるも楓は反論した。
「そりゃあ、マキ君に怒られるのも承知のうえだし……姫様の気持ち分かるから。だってマキ君はなんでも一人で解決するっていうか突っ走るていうか…そんなところがあるんだよ!!」
「………条件を呑むなら行ってもいい」
@
「ここからなら見えるし、すぐに逃げれるね」
「うん」
楓、優夜は麻琴からの条件を呑み、珠鬼と日菜子が闘いが見えるビルの上に立っていた。
麻琴からの条件はただ一つ、『珠鬼、楓の身に何かあっても必ず逃げること。例え、珠鬼や楓が死んでも』
それが麻琴が出した条件だった。
「猪旗君、もう少しだけ近づけないかな? 私だって槍を召喚できるようになったんだし」
「…でも」
「お願い。少しでいいから」
「……わかった」
楓は顔をしかめながら頷く。
そして優夜は来た時同様、楓に抱きつき、お姫様抱っこの状態でビルを渡り飛ぶ。
「ここからは絶対に近づけないよ。ここから先は磯岸の感知能力範囲内に入っちゃうから」
「うん、わかった」
優夜は珠鬼と日菜子の戦闘に目を向けた。
@
「くっ…!」
「まだまだですよぉ」
薄気味悪い笑みを浮かべながら日菜子は大鎌を振り下ろす。
二人の戦闘が力を増してきた所為で、地面は抉れ、ビルは廃墟同然となっていた。
「貴方達の目的は何です? 姫様の暗殺ですか?」
「確かにそれもあるけどぉ。まだ本格的に動いていないんですよぉ」
「動いていない…? 姫様の暗殺が目的じゃないのですか!?」
「残念ねぇ、間違いよぉ。だって御影様はまだ、お目覚めになっていないものぉ。だからパズル同然、ピースを探しているのよぉ」
珠鬼は目を見張った。
なぜなら、珠鬼は最大の敵である御影は覚醒していると予測して敵の行動を考えていた。
だが、最大の敵である御影が覚醒していないとならば話は別だ。
珠鬼は薄く笑った。
そう、まだ勝算は残っていた。
「おやぁ、口が滑っちゃったっ♪」
「情報提供、感謝します。磯岸日菜子」
「感謝されても困るわぁ。しょうがないなぁ、もう少し遊びたかったけど終わりにしよっかぁ」
そう言った日菜子は横目でビルの屋上を見る。
珠鬼は日菜子の意図が分かったのか、銃を構えて打ち出す。
「間に合ってないよぉ、珠鬼君」
「マズイっ!」
日菜子はビルの頭上を舞い、そして大きく大鎌を振り落とした。
振り落とした先にはーーーー。
楓と優夜がいた。
「予定変更だけどぉ、ばいばぁい。姫様?」
そしてまた、日菜子はその薄気味悪い笑みを浮かべた。