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新姫  作者: 下松 紅子
3/8

第二章 姫、出会う。

優夜が目を覚ますと見慣れた自分のベットではなく、白い純白なベットだった。

壁にあるハンガーにはブレザーとリボン、そしてーーー。




スカートが掛かっていた。




「いやぁぁぁぁぁ!!!」


室内に優夜の悲鳴が響き渡る。

現に今の優夜はワイシャツ一枚だけなのだ。


「なんで私、ワイシャツだけなの?! ていうか、ここどこ?!」

「お目覚めになりましたか」

「いやぁぁぁぁぁ!!!」


また室内に優夜の悲鳴が響き渡る。


「かか風間君!? まさか風間君が私の服を?!」

「ご安心してください。服を脱がせたのは私ではありませんから。ともかく今はお着替えになっては?」

「あ、う、うん…」


珠鬼のペースに呑まれ、のそのそとベットから出る。

が、珠鬼は外に出ようとしない。

むしろ、手伝おうとしているようにも見える。


「…」

「…」

「あの…」

「なんでしょうか?」

「部屋の外に出てくれないかな…?」

「何故?」

「いや、何故ってその着替えるから…」


きょとんとした顔で珠鬼は首を傾げた。


「はて、何をおっしゃるのですか? 姫様のお召し物を手伝うのは当然のこと」

「姫様? 姫様なんていないよ?」

「あぁ、まだ言ってませんでしたね。着替えが終わりましたら説明させていただきます」

「よくわからないけど、まずは出てってくれないかな?」

「何故ーー」

「出てって!」



頬を赤く染めた優夜は珠鬼の背中を押して部屋から追い出す。



「パンツ、見られたかな…?」



そう小さく呟いた。




@




着替えが終わった優夜はゆっくりドアを開けた。

やはりドアの向こうにはたまに鬼がいた。


「風間君、いつからそこにいたの?」

「姫様に押し出されてからずっとです」

「ずっと!? 待つ必要なんてないよ!」

「大いにあります。姫様の(しもべ)である私は姫様に忠順に従うという使命がありますから」

「だからって…」


淡々と珠鬼は無表情で言った。


「あの、風間君…」

「なんでしょうか?」

「そのあの……パンツ見た?」

「純白の白いパンツなど見ておりません」

「嘘はよくないと思うよ…」


はっ、とした顔になる珠鬼。


「それではラウンジへ参りましょう。使いの者が胸を弾ませながらお待ちしております」

「は、はあ…」


優夜は言われるがままにエレベーターに乗る。

そして、


「さっきの怪物って夢なんですか?」


一番聞きたかったことを言った。

珠鬼は顔の表情を優夜に見せず、ただ


「現実です」


と言った。

こうして冷静に優夜はエレベーターに乗っているが頭の中では色んな思考がぐるぐると渦巻いていた。

するとエレベーターがガコンと音を鳴らし、止まる。

エレベーターの扉が開くと共に大きなものが優夜の覆いかぶさった。


「姫様ぁっ! 姫様ぁっ! 姫様ぁっ!」

「く、苦しい…っ!!」


苦悶を上げて優夜はバシバシと床を叩く。

そんな様子を見た珠鬼が溜息を吐く。


「コユキ、やめなさい。姫様が喜んでいるでしょう?」

「喜んでいるのね! もっとギューッ!」

「風間君、何言ってるの?! ウグッ!」

「ちょっとした冗談ですよ。コユキ、準備はできているのですか?」


コユキと呼ばれる女性は優夜を渋々、解放する。

するとニコリと笑い、


「はい、準備は整っています。では姫様、お待ちしておりましたグヘヘ。こちらへどうぞ」


一瞬、優夜は硬直するもなんとか笑い、エレベーターを降りた。

上にはシャンデリア、下には赤いフカフカの絨毯(じゅうたん)。見るからに高級ホテル仕様だ。


「す、すごい…」

「俺の優夜ぁぁっ!!」

「お、お兄ちゃん?!」


優夜が振り返ると同時に、優夜の兄、要が抱きつく。


「なんでお兄ちゃん…?」

「無事でよかった、お兄ちゃんは心配で心配で死ぬかと思ったぞ!」

「そんなことで死なれたら私が困るよ」


色んな意味で、と言葉を付け加えた。


「このシスコン、優夜から離れなさい」

「あ? 優夜は俺の大切な妹なんだぞ?」

「ふん、それで威張ることかしら? 笑えるわね」


抱きつく要を引き剥がすと優夜は目を見開いた。

そこには親友である那月がいたのだ。


「那月! え、あ、う」

「言いたいことは分かるわ。黙っててごめんなさい。でも無事でよかったわ」


いつも氷のように無表情で誰にも笑顔を見せない那月が微笑む。


「那月が笑った…」

「あら? 氷人間でも思ったかしら?」

「思ってたーーーあいっ」

「失礼な子に育てた覚えはないわよ」


いてて、と呟きながら優夜は那月にチョップされた所を(さす)る。


「仲睦まじいところ申し訳ありませんが、よろしいですか?」

「ご、ごめんなさい」

「むっ」


水を差されたのが嫌だったのか、那月は眉間にしわを寄せた。


「なっちゃんだけズルい! アタシも姫様とあんなことやこんなことしたいのにっ!!」


うっ、と声を漏らし優夜は苦い顔を浮かべる。

バインと揺れる大きな胸。雪のように白い肌とウルフカットの髪。

そしてその白さを引き立たせる黒いメイド服。

ここのメイドなのだろう。


「そういえば、自己紹介がまだでしたね! アタシは土御門(つちみかど) コユキです。何か困ったことがあればアタシに言ってくださいな!」

「私は楠村優夜です」

「はぅ〜…いつ見てもめんこい! パッツン前髪! 大和撫子を連想させる艶やかな黒髪! そして絶対領域ニーソックス! これはこれでグッジョブ!」

「あはは…そんな美しいなんて言われるなんてほど美人じゃありませんよ…」


褒められたのが久々で嬉しかったのか、優夜は悲観的に言うも照れ笑いをする。


「安心して優夜。コユキは女の子が大好きで女の子を見ると大抵の子は美化してしまうのよ」

「おのれぇ!! 俺の優夜をブスだと言いたいのか! この腐れ野郎が!!」

「あら、アラビアンジョークも通じないのかしら。お義兄(にい)さん?」

「死ねぇ!!」


那月と要の間に卑劣がはいり、火花が飛び散る。

あたふたする優夜を見た珠鬼はパンパンと手を叩いた。


「そこまで。勝敗をつけたいなら外でやってきなさい。それとも私の手によって抹殺しましょうか?」


きゅっと音を鳴らし、手袋を手にはめた。

その動作がまた恐ろしい。

恐ろしいさが周りにいた皆に伝わったのか、しんと静まり返る。


「わ、悪い…」

「このシスコンとの勝敗はまた後日にするわ」

「よろしい。コユキ、姫様を奥にお連れしなさい」

「わかりました。姫様、参りましょう」


さすが風間君。

優夜はそう思えざるおえなかった。


「あの、姫様…」

「あ、はい、何かな?」


優夜は慌てて反応する。

私が姫様だったんだった。


「アタシ、単に女の子が好きで…その美化とかはしてませんので!」


頬を赤く染め、目線を逸らしながらコユキは言った。

そんな純粋なコユキを見た優夜は思わず、はにかんだ笑顔で


「大丈夫だよ、コユキさん」


と言った。

名前を呼ばれたことに嬉しさを感じたコユキは「はい!」と力強く、言った。



@



「…っ」

「………」

「あの…私に何かついているのかな?」

「何もついてない。姫様、美味しそう…」

「はぃぃっ?!」


見つめられた上に美味しそうなんて言われ、優夜のリアクションがオーバーになる。

無理もないだろう。

それに隣からパシャパシャと音も鳴っている。


「姫様も食べる? チョーーーわーっ」


男の子は襟首を掴まれ、宙に浮く。


「こらこら、姫様が戸惑ってるだろうが。それにコユキちゃん、写真を撮るならメイドとしての仕事しろよー」

「うっさいわね! するわよ! ゆうたんチャージしてからね!」

「まずは鼻息を整えるところからしようか」


そう男の人は言った。

見た目は要と同じ大学生ぐらいだろう。

赤錆色の髪はボサボサに後ろにまとめて結い上げられている。いかにも全てがめんどくさい感を(かも)し出している。

小麦色の肌がまた妙な魅力を引き立てている。

パーカーにジーンズと、やはり全てがめんどくさい感を(かも)し出している。


「いやー、悪いねえ。うちの連中は変わり者ぞろいでね。俺は久慈(くじ) 麻琴(まこと)だ。適当に麻琴兄さんとでも呼んでくれ」

「はい!」

「マコちゃん、姫様食べちゃダメなの?」

「んー、まあ、いいんじゃねーか?」


よくないぞ、麻琴兄さん。

そう、優夜は思った。

すると、男の子が優夜のほうを見た。

優夜は驚く。男の子はなかなかの美形だったのだ。

山吹色の髪。綺麗な深緑の目。見惚れてしまわないほうがおかしいと言えるだろう。


「ところで君の名前は?」

「僕? 僕は雨介(うかい) 凛々都(りりと)だよ。僕、姫様と仲良くなりたいんだ。だからこのお菓子、食べよ?」

「あ! 凛々都! またお小遣い無駄にしたのね! 明日のお昼代どうするのよ?」


コユキは呆れ気味に言った。


「考えてなかった…。姫様、僕にお金頂戴?ーーーわーっ」


また凛々都が宙に浮く。


「何言ってんだ、お前は。珠鬼が怒るぞ。すっごく。うん、すっごく」

「それもそうだよね。じゃあ、楓から貰う」

「いや、そういうことじゃないだろ」


的確に麻琴がツッコミをした。


「待たぬか!! 楓ーっ!!」


小柄の幼女が走る。走るごとにフサフサとツインテールの髪が揺れる。

優夜が通っている桜海(おうかい)学園の制服の上に白衣、なぜか手にはクナイ。


「ヤダよ!! 待ったらボクを殺すに決まってるじゃないかっ!」


金色の髪が走るたびに(みだ)らに崩れていく。緑色の目に涙を浮かべ、必死に幼女から逃げる。


「分かっているなら(いさぎよ)くその首を差し出さぬか!!」

「分かっているから出さないんだよー!」


刹那、室内に銃声が響き渡った。


「…」


無論、銃を発砲したのは珠鬼だ。

ただ珠鬼は無言でニコリと笑う。


「あ、あ、あ…マキ君」

「貴方、よくもやってくれましたね」

「ご、ごめんなさぁぁぁい!!」

「待てやゴラ」


優夜は驚愕する。見てしまったのだ、あの完全無欠の眼帯優等生風間珠鬼の裏を。


「ぬ、主が姫様か?」


突如と幼女がおずおずと優夜に聞く。


「そう呼ばれているみたいだけどね」

「そう、か! 主が姫様であったか! じゃが姫様。姫様の下着は中々の魅力がなかったぞ!」

「君か! 私から服を脱がせたのは!」


幼女はニヤリと優夜をからかうように言った。


「おっと、自己紹介がまだだったじゃな! 我は床代氣(とこよぎ) 柚小菜(ゆこな)じゃ。あ、主の名前は知っている。自己紹介はよいぞ」

「よ、よろしくです」


柚小菜のペースに流されるまま、顔を引き()らせつつも優夜は柚小菜と握手をする。


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