間話9「サークリス殲滅準備」
再び、エデル王宮殿。
首都ダンダーマを跡形もなく消し飛ばしたトールは、実に愉快な気分で、狂ったように高笑いを続けていた。
誰もいない王の間に、彼の笑い声だけが幾度もこだまする。
目の上のたんこぶだった首都をついに亡きものにできたことは、彼にとってそれほど至上の喜びだったのだ。
その余韻をひとしきり味わった彼は、ぼちぼち次の作業に取り掛かることにした。
彼はゆっくりと玉座から立ち上がると、ある場所へと向かう。
王の間を出て、横にあるエレベーターで地下一階へ。グランセルナウン乗り場に入る。
グランセルナウンとは、反重力魔法で浮かぶ四人乗りスカイリフトのことを言う。
白を基調としたボディに、赤いラインの入った車体は王宮仕様となっている。
そいつに乗って、透明なチューブの中を移動する。
移動時には音など一切せず、すーっと滑らかに前へ進んでいく。
誰一人いなくとも、夜間は自動でライトアップされる美しい町並み。
かつてここに暮らしていたこともあったトールは、その光景を懐かしさをもって眺めた。
やがて彼が辿り着いた場所は、エデルが誇る兵器収容所であった。
いかにも工場といったメカメカしい外観をしており、この町の多くの建物と違って、通常の箱型をしていた。
中へ入り奥へ進むと、じきお目当ての場所に辿り着く。
魔導機械兵と呼ばれる兵器が、一直線にずらりと並んでいた。
既に自動メンテナンスが完了し、起動可能な状態になっている。
その数、実に三千体。
これらがすべて自分に忠実な僕だというのだから、彼は内心笑いが止まらなかった。
彼は楽しそうに視線を左右に走らせて、まだ動き出す前であるそれらの整然とした並び具合を堪能する。
その後、やや勿体ぶったようにスイッチを押して、それらを起動させた。
それらは死体を利用した魔導兵と違って、柔軟な行動はできない。
だが何より単純な命令には忠実であるし、総魔法金属製のため、魔法耐性が高い。
トールは、うち三百体ほどを町の警備に当たらせる。
残りの二千七百体は、サークリスを蹂躙するために投入するつもりだった。
三百体には都市中に散らばって警備に当たるように、そして二千七百体にはまとまって外のとある場所へ向かうように彼は命じた。
彼も機械兵たちと一緒に兵器収容所を出ると、すぐその隣にある魔法生物収容所へと向かう。
中にいたのは、猪型の巨大草食獣ライノス、虎型の大型肉食獣リケルガー。
各五百頭ずつであった。
それらは既に、エデル本場の洗脳魔法によって強力にコントロールしてある。トールの言うことのみを従順に聞く僕と化していた。
彼は千頭に命じて、やはり外のとある場所へ向かうよう指示した。
彼自身もまた、そこへ向かう。
二千七百体の機械兵と千頭の獣は、既にその場所――屋外の巨大転移装置の上に待機していた。
あとは装置を遠隔で起動すればよい。エデル直下付近の適当な位置へと勝手に送り込まれるようになっている。
彼とクラム以外の人間はすべて殺すように命じてあるので、地上に降りた途端に大暴れしてくれるだろう。
とりあえずこれで準備は完了だな、とトールは邪悪な笑みを浮かべる。
他にもさらにすごい兵器や魔法生物はいくつもあるが、それらは様子を見て投入することにしようと彼は考えていた。
後々生産可能になるとはいえ、復活したばかりの今は、まだ現存のものしか兵器がない。
わざわざ町一つ潰すのに使うのは、少々もったいない。
『ファルモを割るのに剣は要らない』とことわざでも言うではないか、と彼は顎をさすりながら頷いた。
一仕事を終え、王の間に戻った彼は、少しばかり睡眠を取ることにした。
彼もこのところ、ずっと寝ていなかったのだった。
次に起きたときには。
圧倒的兵力がサークリスを蹂躙する様を想像して、彼はほくそ笑んだ。
そうだ。せっかくだから寝る前に、美しい夜景を眺めることにしよう。
別にこの場所から動く必要はない。
水晶モニターのスイッチを再び入れると、そこには綺麗な星空と青い月が映し出された。
うむ。実に美しい月だ。明日は満月だな。
サークリスを潰したら、夜景を背に祝杯でも挙げるか。
そんなことを暢気に考えていた彼は、気付かない。
自らが支配せんとする世界が、今まさにその月によって滅びようとしていることに。
なぜならモニターには――普段と寸分違わぬ大きさの月が映っていたのだから。




