「」
気付けば身体の感覚が一切なく、淡く白い光の満ちた場所に意識だけが浮かんでいた。
星脈。フェバルの還る場所。
そうか。俺は……死んでしまったのか。
冷たく恐ろしい、死の感覚――。
これまで、何度も味わったことがあった。
一度味わえば、二度と味わいたくはなかったものを。
思えば、俺の旅はいつも死と隣り合わせだった。
ただ……振り返れば。
ウィルと戦ったあのときも。
ヴィッターヴァイツと戦ったあのときも。あのときも。
リデルアースで、アイに殺されかけたときも。
俺はほとんど死にかけていたけれど、真に殺されたことだけは辛うじてなかった。
だから。俺が本当の意味で死ぬのは、これが初めてになるだろう。
俺はいつも、自ら死ぬことだけは避けていた。
ずっと、人でありたかったから。
人は一度死んだらおしまいだから。命を粗末に投げ捨てるのは違うと思っていた。
それは不死に近しいフェバルにすれば、むしろ『異常』な感覚だったのかもしれない。
今は大切なものを守れるならば。もう人であることにこだわりはしないけれど。
それでも命ある限り、懸命に生きようとしなければ。
――そうだ。それは確かに正しい感覚であり、予感だった。
死の傷は深く。淡く白い流れの奥底にまで、彼はどっぷり浸かろうとしていた。
そこに――向こう側に。
何かが、ある。
――そうか。お前が。
『光』か。
あまねくすべてを照らし、どこまでも広がる『光』。
【運命】の『光』が、視える。
――とうとう出会ったな。
『光』は俺を温かく照らし、すべてを包み込もうとする。
『おかえりなさい』
『彼女』の、ひどく懐かしい声がして。
けれど――。
『まだだ。まだ終わってねえ!』
誰かの。レンクスの熱く呼びかける声が聞こえた。
『『負けるな! 帰ってこい! ユウ!』』
「繋がった」みんなの心の叫びが、温かく彼を呼び覚ます。
――そうだ。何も終わっていない。
レンクスは自分の想いも託して。大切な力をくれた。
あいつだけじゃない。みんなの想いの分も背負って。
俺はここまで来たんだ!
運命への【反逆】
ただ一度だけ『終わり』の淵から呼び覚まし、『光』の追跡からも退ける。
口惜しそうに、寂しそうに虚空を撫でる『彼女』の『光』を。
次第に遠ざかる中、ユウは真摯に心へ刻み込んだ。
いつか遠い未来、直接向き合うときが来る。でも「まだ」そこへは行かない。
今俺の戦うべき場所は、ここにある。
ユウは失われかけた存在を取り戻し、現実の地球へと回帰する。
『白の波動』は地表に近付くにつれて、許容性の影響を受けてようやく減衰を見せ始めた。
――負けられない。まだ終われない!
ユウは再び心を振り絞り、想いの剣の限りを尽くして『白』を受け止めようとする。
今度こそ呑み込まれてしまえば一巻の終わり。
せっかくもらった命だ。そんな悲しい結末にだけはしないように、懸命に堪える。
滾る執念とみんなの想いが、彼を死の際で辛うじて留めていた。
次第に弱まる『白の波動』に押し出され、叩き落とされて。
彼は青い海へと、深く深く沈んでいく。




