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フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
I 後編

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0-85"見つけたよ"

「ここは……」


 一見何の変哲もない路地に現れたユウは、そこがあの日地球を去った場所と同じだと悟った。

 いきなり見つからないよう、気を消して慎重に行動しようとしていたが。

 あのときエーナが寄りかかっていた電柱と同じ場所に、誰かが立っている。


「ここにいたらお前が来るって、ミズハさんから聞いてな」


 ウィルに付与された強力な隠蔽と、セカンドラプターからダメ押しで撃ち抜かれた「いっときの存在感」(永遠だと不便だからって器用なことをした)が、彼をどうにか無事にアイや操られた人々から覆い隠していた。

 それに三十路のおっさんにもなって、すっかり貫禄が付いてしまったが。

 それでも、心の眼を持つユウにはわかった。


「ケン兄……ケン兄なのか?」

「はは。マジであのときと変わらねえでいやがる。俺だけ、すっかり歳食っちまって」


 ケンは懐かしいいとこの姿に胸いっぱいになり、目尻にはもう涙が浮かんでいた。


「おかえり。ユウ」

「ただいま。ケン兄」


 顔をしわくちゃにして、ケンはユウを目一杯抱き締める。


「お前さあ。おまえっ……ほんっとに、いい顔になったなあ……! 俺、全然詳しいことはわかんねえけど……!」


 あのときのお前、とても見てられなかったから。

 けど俺じゃどうしようもなくて、ずっとずっと心に引っ掛かってたんだと。

 ケンは溜め込んだものをすべて懺悔するように、ほとんど泣きじゃくっていた。

 抱き締められたユウも、つられて目に熱いものが滲む。


「心配かけたよな。ごめんね。あのときはちっとも余裕がなかったから」

「よせよ。何を謝ることがある。一番つらかったのは、大変だったのはお前じゃないか!」


 ユイだけじゃない。

 ここにもちゃんと身を案じてくれた『家族』がいたのだと、ユウは心から嬉しくなった。


「そうだね……。本当に、大変なことがいっぱいあってさ」

「色々と世界が大変だったんだろう? そりゃ並大抵の苦労じゃなかっただろうなあ」


 わからないなりに思いを馳せ、ケンは目の前の可愛い『弟』が愛おしくて仕方なかった。


「とにかくユウ。お前とまたこうして会えた。こんなに嬉しいことはないさ……!」

「俺も嬉しいよ。ケン兄」


 もうしばらく、別離の期間を惜しむように抱擁を続けて。

 ようやく一安心したケンは、ユウの肩を叩いてひひっと笑った。


「そうだ。Switcherとか知らないよな。お前、ゲーム好きだったろ? あれからすっげえ色々進化してんだぜ。2とかすごくてな」

「ケン兄。相変わらずだね……」

「俺さ、あれから一応そこそこ有名なプロゲーマーになってよ。と、すまん。こんなこと呑気に話してる場合じゃないんだよな」

「また今度ゆっくり聞かせてよ」

「おう」


 袖で涙を拭ったケンは、手短に現在の状況をユウに説明する。


「セカンドラプターさんがアイを引き付けて、命懸けの『おにごっこ』をしてくれてる。でももう見つかるのも時間の問題だ」


 彼女自身は上手く隠れているが、人海戦術で『神の穴』が見つかる方が早そうなのだと言う。


「そうなったらもう、おしまいさ。あの人が出て戦うしかねえんだよ」

「なるほど。状況はよくわかった」

「早速行くのか」

「いや。一つだけ、寄りたいところがあるんだ」

「構わねえけどよ。それって間に合うのか?」

「たぶん大丈夫。そんなに時間はかけないから」


 ユウはここまで、たくさんの想いを束ねて戦ってきた。

 たった一人、大切な『家族』を仲間外れにするわけにはいかないから。


 ユウは一つも迷うことなく歩みを進め、人気のない裏通りへと入り込んでいく。

 そこは一見何もない場所であったが。

 青剣に想いを込めて斬ると、「ずれた」世界から何かが――誰かが現れた。


 苦しげな表情で、永遠に眠り続ける青髪の少女。


 ユウの見つめる眼差しが、切なく細められる。


 あのときはあんなに頼もしくて、ずっと大きく見えたのに。

 今見れば。こんなにも小さくて、儚い。

 いつも一生懸命背伸びして、俺を守ろうとしてくれていたんだね……。


 自縄自縛の呪いによって、死後も魂はそこに留まり続け。救われることがなかった。

 細菌や微生物すら一切寄り付かず。変わらずそこにあり続けた亡骸に寄り添って。

 とても言い尽くせない感謝とともに呟く。


「やっと見つけたよ。クリアお姉ちゃん」


 今、解放する。

 ユウが祈りとともに斬ると。彼女は綺麗な海色の光となって、ゆっくりと空へ溶けて消えた。

 そうしてまた一欠片、『去りゆく者』の願いを受け取って。


 クリアお姉ちゃん。ありがとう。

 みんなと一緒に、どうか向こうで見守っていて下さい。


 トレイターが――「おじさん」が始めたあの日から。ずっと戦いは続いている。

 みんなのやり残したことを、今こそ果たすときが来た。


 すっきりした顔で戻ってきたユウを、ケンは温かく迎える。


「もういいのか」

「うん。行ってくるよ」

「しっかりやれよ。ユウ」


 ケン兄に送り出され、ユウは因縁の宿敵アイの元へ向かう。

 決戦のときは近付いていた。



 ***



[神の穴 前]


「やっと見つけた」


 アイは人海戦術を駆使して、とうとう見つけ出した『神の穴』を前にほくそ笑む。


 どうやら封印を施されているようだけど。こんなもの、わたしの前には無力。

 すぐにでも解いて、みんなアイにしてあげる。


 期待とともに、彼女が一歩踏み出そうとしたとき。


「待てよ」


 振り返ったときには、何かが――彼女の中心を貫いていた。


 銃弾。一発。


 ――開いた傷穴が、すぐには塞がらない。


「そこ通すわけにはいかねーんだよな」


 一人無謀にも立ち向かい、銃を構える。

 オッドアイが特徴的な金髪の女。お姉様が無様に敗走した相手。


 そう言えばいたわね。そんな奴も。

 こんなかすり傷。何だと言うの。


「あなただったの。薄々予想はしていたけれど」

「『女神様』がオレなんかをご存じとは。光栄じゃないの」


 皮肉たっぷりに言うと、アイはくすくすと嘲るように嗤う。


「ネズミが一匹。無駄な抵抗だとわからないの」

「それでも女には、やらなきゃならねえときがあるのさ」


 この託された戦いを――受け継ぐ者として。


"I'm 'the' Second Raptor. "


 どんなクソみたいな強敵が相手だろうと。

 彼女の名乗り口上は堂々として、一つもぶれることはない。


"I'll make lots of holes in you like your sister."(テメエの姉のように風穴たくさん開けてやる)


 アイが思わず不機嫌に顔をしかめるほどの、キレッキレの煽りをかまして。

 地球最後の戦士は、猛き吼える。


"Bite you!"

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