表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
I 後編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

696/711

1-76"運命への反逆"

 惑星エラネルには三つの大陸がある。

 サークリス、ナボックを擁するセントリア共和国を含む先進国の多いメソラ大陸、未発達で後進国の多いゾル大陸。

 そして人類未到達の暗黒大陸――ウェーザ大陸である。

 レンクスと戦えば世界に与えるダメージが小さくないと判断したユウは、《気断掌》やその他誘導によって、彼をウェーザ大陸へと押し込んだ。

 ここなら全力を出せる、とユウが内心意気込んでいると。


『何かちょろちょろ狙ってやがると思えば。そんなことか』


 レンクスは嗤う。


『アイ様はすべてを求めておられる。この星の一切を得るまでは無駄な破壊などしないさ』

『なるほど。納得』


 随分素直に誘導に従ったものだとユウは感じていた。

 トレヴァークとエルンティアはそもそも『異常生命体』だらけの星だから、最悪星自体を吹っ飛ばす択もある。だから星の破壊もケアする必要があった。

 エラネルは本来であれば、すべて最初から奴のものになるはずだった。俺さえいなければそうなる。

 だから星を破壊するつもりまではないということか。

 それでも、戦いの余波で誰かが巻き添えにならないのは大事な前提だ。


 レンクスが手をかざすと、それだけで【反逆】の力が発動する。


《反存在事由》

《意味断絶》


 生命を含めたあらゆる事物の「存在性消失」「意味消失」を引き起こし、これを星自体にかければ星そのものが消えてなくなる。

 レンクスが星消滅級であるとされる直接的理由であり、ユウにも見せたことがない【反逆】の奥義の一つである。

 しかし――ユウが青剣を軽く振り払えば、フェバルの能力は完全に無効化される。

【運命】の下に定められたものに対しては、殊に無類の強さを発揮していた。


『無駄だよ。そんなもの(・・・・・)はもう効かない』

『らしいな。まったく厄介な育ち方をしてくれたもんだぜ』


 最低限の足切りラインを超え、戦闘と呼べるものが成立するに至って。

 ユウは改めて思う。

 思えば、この人にはずっと世話になりっぱなしで。一度も彼の抱えているものを引き出したことはなかった。

 こんな形は望みではなかったけれど。今こそ、この男の真の実力と事情に向き合うときなのだろう。

 本気の彼に打ち勝つことができなければ、当然アイには届かない。

 いざ、全身全霊を賭けて。


『持てるもの全部使って、全力でかかって来い。お前のすべてを受け切って――俺が勝つ!』

『生意気言うようになったじゃないか。やれるものならやってみろ!』


 心の剣と魔気混合の強拳が、暗黒大陸上空で激突する。

 数え切れないほど繰り出される神速の応酬が大気を轟かせ、空と海までもが荒ぶり始める。

 大地は砕け、山は削られ。深き森は燃え盛る。

 ユウの動きはどこにも傷を与えずとも、片割れのレンクスが本気で動くだけで、世界へのダメージは決して小さくない。

 レンクスの拳がユウの心眼見切りを貫いて致命傷を与えるか、それとも青剣が彼の攻撃を搔い潜って決定打を与えるか。

 互いに一撃必殺。のっぴきならない死闘が幕を開けた。


 牽制の魔力波を片腕で弾き飛ばし、空高く打ち上げたユウは。返す刀で深青の剣閃をお見舞いする。

 リルナと合わせて、『討伐隊』をこの一撃のみで無力化したものであるが。


【反逆】《心象拒絶》


 並大抵のことでは防御不能なはずの存在斬撃を、レンクスは能力一つで打ち払ってしまった。

 ユウ(こちら)に用いる方面では無効化することができても、自身に付与することまではさすがに妨害できない。

 もう有効な対策を打ち始めているこの男の戦闘巧者ぶりに、ユウは改めて感心させられる。

 やはり直接攻撃による一撃でなければ、決着にはならない。


 再び、目にも留まらぬ速さで激しい衝突が繰り返され。


《気断掌》

【反逆】《亜空断手》


 掌と掌が触れ合うより早く、二人の中空で巨大な衝撃が膨れ上がり。どちらも遥か後方へ弾き出された。

 レンクスが通常技のごとく繰り出しているが、これも本来は星さえも異次元斬手で断つ恐ろしい技である。

 並大抵のフェバルや星級生命体であれば、一発でお陀仏になる代物だ。

 ユウの『想いの力』が技の性質を中和し、ただ互いを弾くだけの結果になった。


 すぐに体制を立て直す。

 ユウは《パストライヴ》を用いて、瞬時にレンクスの背後へ現れる。

 想いの力によって強化されたそれは、前隙も後隙もなくした完璧な瞬間移動にまで進化していた。

 それでも宇宙随一の戦士は、欠片も戸惑うことなく対応してくる。


《センクレイズ》

【反逆】《冥府の拳》


 魂を斬る剣と、命を削り取る拳が。

 互いに一歩も譲らず、正面でしのぎを削る。


『ユウ! 力を得て勢い付いたようだが! まだまだこの俺に敵うかよ!』

『それでも俺は! レンクス! もう君にだって、負けるわけにはいかないんだ!』


 いつしか洗脳されたかどうかなど、ほとんど忘れて。

 新旧時代の象徴が、想いの丈ぶつかり合い。


『『うおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーっ!』』


 絶望と、それに抗う者たちの心の叫びが。

 互いに傷付くことも厭わず、剣と拳の火花はますます加速していった。



 ***



 レンクスという男にとって、人生は本来とっくに乾いていた。


 いつも肝心なときに間に合わない。大事な人ほど必ずいなくなってしまう。

【反逆】なんて、見かけばかりの「ごっこ」にしかならない。

 これこそがきっと、彼に与えられた【運命】だった。

「本来」誰とも繋がることの許されなかったユウに対し、大切なものほど手からすり抜けていくのがレンクスという男の救えない始末だった。

 きっと深いところで、彼らは同じような『絶望』を共有していた。


 彼が最初に「失敗した」のは、生まれ故郷においてである。

 そこから始まる壮大な【運命】に比べれば、それは些細な失敗から始まった。

「仕事人」レンクスは、パートナーであるユエルと世界をまたにかけて活躍していた。


 レンクスは振り返る。


 何のことはない。

 ラナソールでユウとユイが始めたような、「何でも屋」みたいな些細な楽しいお仕事さ。


 ――フェバルが現れた。


 あのときの俺は、まだ完璧に能力を使いこなすことができなかった。


 良かれと思って使った【反逆】が、結果的にあっさりと彼女を死なせる羽目になってしまった。


 ……強過ぎたんだ。


 そして、すべての破滅的結果の責を負うことになり。大衆からも非難され。

 俺は大罪人となり、生まれた星から逃げるようにして脱出した。


 それからも俺は、とにかく「失敗」続きだった。

 ユエルを失ってから、愛だけは求めなかったが。

 これという人と深く友好を結べば、共に呪われたフェバル連中以外は、残酷なまでにひどい結末を迎えたもんさ。


 すべてに絶望しかけていたとき、出会ったのが星海 ユナという女だった。

 彼女は、俺にとっての太陽だった。

 いいってのに。うざいくらいに絡んできて、好き勝手な理由を並べてはあちこち連れ回し。

 フェバルは俗世に手を貸すもんじゃないといくら言っても、まったく聞く耳持たず。

 何かと手伝いさせては、人助けの冒険に連れ回した。故郷の下らない日々が帰ってきたみたいだった。

 何より嬉しかったことには。あいつはそう簡単には死ななかった。強い女だった。

 フェバルに星級生命体。普通ならいくら死んでも足りないほどの、どうしようもない戦いに赴いても。

 あいつは必ず生きて帰ってきた。

 いや、ただ生き延びるだけじゃねえ。絶対に何かを成し遂げてきた。

 奴らに打ち勝ったことだって、一度や二度じゃない。

 あいつの下で、運命と言うべき何かの絶望的脅威はまったく損なわれているように思えた。

 散々振り回されて。気付けば、どうしようもなく好きになっていた。

 だから、あの人と一緒なら。あの人が隣にいれば。

 俺はまたどこまでも旅を続けられるんじゃないかって。そう思ったんだ。


 ……そんなものは、幻想だった。


 今ならわかる。

 ユナは、ユウを生み育てる因果のために「生かされていた」に過ぎなかったのだと。

 やっぱり俺は、肝心なときに間に合わなかった。側にいてやることさえできなかった。


 そんな救えない俺にも、まだいみじくも糸はぶら下げられていた。


 ユウ。そしてユイ。あの人の遺した大事な「二人」だ。

 彼女の面影を色濃く残す子供を見つけたとき。


 ああ、これは贖罪なんだと思った。


 同じフェバルなら、永く時を共にいてやれる。

 友達になってくれと、彼女の残り火から託された。もちろん快諾したさ。


 だがユウとユイは……フェバルとしてはあまりにも特殊だった。

 凄まじく過酷で残酷な【運命】が、二人を散々に打ちのめした。

 フェバルの中じゃ強いと自負していた俺でさえ、あの子たちの抱える事情はあまりにも大き過ぎた。

 てんでダメさ。ウィルにも滅茶苦茶言われたしよ。

 いつも「失敗」続きの俺なんかが、どうにかできるはずがなかったんだ。

 いつも一生懸命に、時に変態と蔑まれても。せめて一途であり続けた。

 お前たちがどこにいたって、全力で駆けつけるヒーローになりたかった。

 そうしてポーズだけでもやって。自分に酔ってなけりゃあ、何一つだって進めやしない。

 お前たちの健やかでいることだけが、俺にとっての唯一の希望だった。

 お前たちが下らないことで笑ったり呆れたりしてくれる、そんなことが大好きだった。


 だってのに。「また」だ。

「また」間に合わなかった。


 ラナソールでは、みすみす目の前で死なせかけてよ。

 必死こいて追いかけたら……このざまだ。


 俺は――ダメだ。


 本当に救いようがねえ。マジで何にもならねえ。

 もう何もせず、いつか心が枯れて死んじまった方がよほどマシかもしれねえ。


 でもよ。こんなどうしようもない俺にも。

 何か一つくらい、まともにできることはないのかよ。


 なあ、本当にないのかよ……!


 このままじゃ、あんまりにも惨めだ。

 俺がしっかりしなきゃ、誰があの子たちを守ってやれるんだ。

 後生だ。せめて俺に戦わせてくれ。何か意味のあることをさせてくれ。


「ごっこ」なんかじゃねえ。本当の【反逆】をさせてくれよ……!


 ――なんだ。


 昏く打ち沈み、救いを求めていた彼の魂に。

 ふと、温かな海色の光が差して――。



 ***



「バカ野郎。なんでお前が一番泣いてんだよ……」

「だって……!」


 壮絶な戦いを通じて、彼の抱えた事情と深い哀しみをようやく理解したユウは。

 目からぽろぽろと涙が溢れて、止まらなくなっていた。

 しかし彼はもう立派な戦士である。必ずやるべきことだけはしかと果たしている。


 なりふり構わぬ男と男のぶつかり合い。数時間にも及ぶ死闘の果て。


 彼の青剣は――ついに深々とレンクスの芯を貫いていた。


「悪い。また遅れちまった」

「いいんだ。もう、いいんだ。全部一人で抱えて苦しまなくたって」


 君がずっと、俺たちを守り愛し続けてくれたように。

 レンクス。今度は俺たちが君を助ける番だ。

 今なら肩を並べられる。もう決してひとりぼっちの戦いにはしない。

 本当に守りたいものを守るために。まだすべてが手遅れになったわけじゃない。


 青剣をしまったユウは、大切な一言を告げる。


「ユイはまだ生きてる」

「そいつは、本当か!?」

「俺がまだ無事なのが証拠さ。あいつの奥底で、ずっと戦ってくれているんだ」


 俺たちがまだ間に合うように。それだけのために。

 そして、今も苦しんでる。絶対に助けを求めてる。だから。


「レンクス。力を貸してくれ。今度こそ、一緒に間に合わせようよ。もうこれ以上、誰も……っ!」


 俺たちはもう、十分過ぎるほど失った。これで終わりにしよう。

 あいつに誰かを。【運命】にも誰も奪わせるわけにはいかない。


 もうまともに言葉を続けられず、あの日の子供のように泣きじゃくるユウを。

 親代わりの彼の前でだけ、本当の子供のようになれるユウを。

 彼もまた男泣きに泣きながら、力強く抱き締めた。


「当たり前だろ。俺がいつ、お前たちの頼みを聞かなかったよ」


 あいつに頼まれたんだ。いや、そうじゃなくたって。

 お前たちのいつだって真っ直ぐで懸命な戦いに、どれほど心震わされてきたか。どれほど救われたのか。

 今も希望をくれるこの子たちのために、何を惜しむことがあろうか。

 でもよ。もう挫けねえ。やけっぱちにもならねえ。手前勝手な自己犠牲なんてクソくらえだ。

 お前もユイも。俺のいなくなることが、一番つらくて寂しいだろうからよ。


「やってやろうぜ。俺たち――戦友(友達)だからな」

「うん……!」


 長い長い絶望と苦しみの果てに、男はついに己の真実を取り戻した。


 運命への【反逆】


 彼にかけられた強力な呪いの裏返しは――かつて『彼女』が真に恐れた、数少ない奇跡の力である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
レンクスはフェバルの中で上位に入るくらい好き
レンクス、男の戦いで解除完了。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ