”起きろ。バカ弟子が”
存在のすべてが燃え尽きて。消えゆく中。
ジルフ・アーライズは星脈へと還り、大いなる『光』が温かく彼を包み込もうとしていた。
全知全能に最も近しい『彼女』に触れたとき。彼にも多くを理解することができた。
ユウがアイの魔の手にかかり、今も藻掻き苦しんでいること。
最愛の人イネアが。あの子の師匠もまた、奴の手に堕ちてしまったこと。
せめて最期に。
一言だけでも、伝えられはしないか。
不幸にも化け物に操られ、もはや愛する声も届けられない彼女の代わりに。
お前たちが彼女を救ってくれと。アイになど負けるなと。
強く。そう願って。
――『去り行く者』の想いは、願いは。もはや何人にも妨げられることはない。
切なる想いは深き闇を越えて、孫弟子にまで真っ直ぐに沁みていく。
八十億の『痛み』と向き合い続け、ようやく『対話』を終えつつあった彼に。
せめて心の深く繋がる誰かへ。必死に呼びかけを続けていた彼に。
力強くそして温かく、大師匠はほんの背中を一押しした。
イネアが側にいたら、真っ先に言いそうな言葉を。
『起きろ。バカ弟子が』
――――
意志なく横たえられていた拳に、固く力がこもる。
星海 ユウは。皆から帰りを待ち望まれていた戦士は。
長い長い闇の眠りの奥底から、ついに目を覚ました。




