30「リデルアース露と消ゆ」
数十億もの痛みと苦しみと、絶望とを一度に注ぎ込まれ。
ユウはほとんど壊れてしまった。
打ちひしがれ、身動き一つ取れず。涙を流すことすらもできず。
虚ろな瞳で、ただうわ言のように何かを繰り返すばかり。
一方のアイは。
『その器満ちるとき 人は歓びを得て わたしに還る』
我がものとした星の命、その力すべてを得て。
恍惚として、大いなる力に満ち溢れていた。
もはや凡百の『星級生命体』、フェバルに並ぶものなどない。
比類なき強力な肉体と、最強の能力を手中に収め。
遥か古の『女神』のように、輝かしく存在を放っていた。
アイはほくそ笑む。
あの偉そうなのの計画では、あくまでユウの肉体を喰らって閉じ込めるだけのつまらない話だった。
そんなもので『完全なる女神』などと。お笑いにしかならない。
だからあの男もきっと、内心は馬鹿にしていたのでしょう。
そんな程度で終わるものか。見るがいい。わたしは勝った。
わたしは違う。愚図なお姉様とも、あんな見込み違いのカスとも違う。
わたしはすべてを超越する。
わたしは【運命】すら超えて、至高の女神に成り代わる。
こんなちっぽけな星だけではない。あまねく宇宙のあらゆる星々を喰らい。
みんなアイになる。みんなみんなアイになる。
可愛い可愛い『弟』を、感慨いっぱいに見下して。
もはや喋ることもできない。何もできない。
だから言ったでしょう。おまえにわたしは倒せない。
そして【神の器】も奪い、最愛の姉とひとつとなった今には。
お前に何の能力もなければ。億に一つだって勝ち目などない。
無様で哀れで、かわいそうなかわいそうなユウ。
「さようなら」
この力。このカラダ。
これからはわたしが存分に使わせてもらう。
――ふふ。そうね。せっかくだから。
「わたし」を消し去ってくれたこの技で。トドメを刺してあげる。
お前もフェバルだから、また生き返るかもしれないけれど。
どんなに追いかけてこようとしたって、無駄だからね。
だって。これからわたしは、お前のすべてを奪うのだから。
あらゆる世界。あらゆる友たち。どんな些細な繋がりであろうとも。
お前たちの下らない旅路を、すべて否定しよう。
そうして。本当のひとりだけになったあなたを。誰もいなくなったあなたを。
今度こそぐちゃぐちゃにして。滅茶苦茶に可愛がって。
わたしだけでいっぱいに染めて。わたしだけのものにして。
ねえ。大好きなお姉ちゃんと、わたしとひとつになろうね。永遠に!
そして……さようなら。
忌々しき殻よ。もはや何の旨味もない、空っぽになった世界よ。
――星脈を開く。旅立ちのときだ。
アイの左手から、絶大なる白光が放たれる。
《セインブラスター》
『究極なる女神』アイから、憎しみを込めて全力で撃ち下されたそれは。
ただ一人のユウを討ち滅ぼすには、あまりにも過剰な威力で。
大地を砕き、地中を果てしなく貫き――星の核をも容易く撃ち抜いた。
閉じた星脈さえも強引にこじ開けて。外なる開かれた宇宙へと道標を作る。
そして、リデルアース――もう一つの地球は。
ついにこの宇宙から完全に姿を消した。




