I END
う、うう……。ここは――。
身体の感覚がほとんどない。
全身がとろとろに融けて。
ただ、熱くて。狂おしくて。
あそこだけ。下腹部だけが、外気に触れている奇妙な感覚がある。
『あら。気が付いたようね』
アルシアの蕩ける声が響き渡る。
それだけで、私のすべてが歓びに打ち震えていた。
『すごいわ。頑張るのね。まだ心が融け切っていないだなんて』
そうだ。あれから私は、アイにやられて――。
そ、んな。ううぅ……。
『どうしたの。何を悲しむことがあるの』
だって。
『心配ないわ。みんなあなたを歓迎している』
巫女たちの愛欲が。悦びの声が、一斉にわたしを滅茶苦茶に掻き回す。
正常な思考ができなくなる。
うあ、あ、あ……♡
だめ、だ。負けちゃ、だめ、なのに……。
わたし、どうなってしまったの。
『そうね。目もなくなってしまったものね』
アイは愉快そうに、「わたし」をトントンと指で叩いている。
『いいわ。見せてあげる。よくご覧なさい。これがわたしたちの姿』
アイの視界が共有され、救えない現実を映し出した。
所々ひび割れた鏡に映っていたのは、白く美しい輝きを放つ五体のすべてだった。
アルシアの顔。アマンダの足。イプリールの手。メリッサの胸。
そして――。
あ、ああ……。
わたしは負けたのだと、まざまざと見せ付けられた。
わたしたちはくっついて。互いで満たされて。
なお狂おしく求め合っている。
ますます熱く、おかしくなりそうだった。
『もう期待している。あなたってすごく感じやすいのね』
う、ううぅ……。
『時間はたっぷりと。永遠にあるわ。だってわたしは――あなたのすべてを得たのだから』
フェバルの因果も。【神の器】も。何もかも。
アルが。あのいけ好かない奴が、どんな下らないことを考えていても無駄。
わたしはすべてを超越する。
大丈夫。きっと【運命】にも負けないわ。
わたしたちの力を合わせれば――。
ねえ。もうわたし、がんばらなくていいの……?
旅を終わりにして、いいの?
うふふ。いいこ。いいこね。ユウ。
そうよ。あなたはもうつらい旅で悩まなくても、苦しまなくていいの。
決してひとりぼっちにもしない。
ほんと……?
ええ。言ったでしょう。
お前だけになったあなたを――わたしだけのものにして。
ぐちゃぐちゃにして。わたしで染めてあげるって。
もう何も考えなくていいの。ただ、感じて。委ねて。
このアイでいっぱいに満たしてあげる。
だから。
『あなたがわたしに馴染むまで。ぜんぶ融けて混じり合うまで。ずっと、ずっと愛し合いましょうね』
イプリールの手が、愛おしく「わたし」を撫でる。
アイの。巫女たちの「アイ」がいっぱいに流れ込んでくる。
何も、考えられなくなって――。
あ、ああ――あああああああ……。
***
――あれから、どれほどの時が経ったか。
また、夢を見ていた。
わたしは眠りから目覚めると、うんと伸びをする。
五体の隅々まで、歓びに満ち満ちている。
ユウともすっかり融け合って。わたしたちは完全にひとつになった。
あのときの甘美な融合を思い返すと、全身が熱くなる。
特にユウのところが。
「困った子。あなたってほんと寂しがりで、甘えん坊よね」
アルシアの声は、いっそう甘く蕩けて。
アマンダの足が、歓びに打ち震えて。
イプリールの手が、またすぐに触れたがって。
ユウとメリッサの境界の辺り。そこを撫でてあげると、二人とも悦ぶのだ。
よかったね。願いが叶って。ひとつになれて。
――うふふ。またカラダが疼いてきた。
「いいわ。わたしはアイ。望むままに忠実なるもの。わたしたちは永遠にひとつ」
アイは自らを抱きすくめ、欲望のままに己を貪り狂う。
ひとしきり満足すると、今度は際限なき食欲がむくむくと湧き上がってきた。
衝き動かされるままに、果てしなく生き続けて。
……結局。どこまでわたしで埋めていっても。
足りない。足りない。わたしは満たされない。
もっと欲しくなる。すぐに足りなくなる。
わたしは誰。わたしはきっとまだ、誰でもない何か。
巫女たちを奪っても。ユウのすべてを奪い取っても。
結局は何もわからなかった。
でもたぶん。大したことではない。きっと。
アイは、アイなのだから。
「まあいいわ」
――さあ、次はどこの星を食べに行こうか。
――――
そして、全宇宙はアイに染まった。
I END




