25「『星級生命体』アイ」
なに。何が起きているの……?
メリッサは地に落ちてゆく間も、ずっと私を懸命に回復させ続けてくれた。
その尊い心が絶望に覆われて、アイに呑まれるそのときまで……。
「君の想い。無駄にはしないよ。しないから」
熱い涙とともに、固く拳を握り締め。
君がどんなに変わってしまっても。もう心惑わされることないようにと。
君の言葉はもう、ちゃんと受け取ったから。
あまりにも。あまりにも遅く。
私はようやく立ち上がり、『心の世界』から服を着替えて、人の尊厳と装いを取り戻す。
激しい地鳴りが、いつまでも続いている。
大気が、星全体が震えている。
地の底から。星の中心から。
アルシアの――アイの舞い歌うような声が聴こえてくる。
今や誰もが、その大いなる存在をはっきりと心で感じ取ることができた。
『わたしはアイ』
『この星に生きとし生けるすべてのものたちよ』
『刻は来た さあ 歓びなさい 震えなさい 讃えなさい』
魔性の声で、女神教の第一聖典――その冒頭を諳んじていく。
迷える人の子よ わたしを求めなさい
わたしの声に耳を傾けなさい
足によりて栄え 手をもって万事をなす
胸の鼓動 天に至る
その器満ちるとき
人は歓びを得て わたしに還る
『今――天に至る』
な、なに……今度は何なの!?
地鳴りはどんどん強まり、ついに激しい地震となって。
どこもかしこも揺れている。無事な場所など何一つない。
そして――私は見た。見てしまった。
空高く、天にまで届く――無数の巨大な触手を。
ああ。なんて、こと――。
これまでとはまるで、まったくスケールが違う。
街が――世界が、蹂躙されている。
みんな、喰われて。アイの力に変えられていく。
――そうか。そうだったの。
これこそが違和感の正体だったのだと、私はようやく悟る。
ずっといたんだ。アイはずっとそこにいた。
いつでも私たちを、遥か地の底から見上げていた。
羨ましく。妬ましく。そして、獲物を見るように。
本体なんて。最初から地上のどこにもいなかった。
だから始めから。どうあっても。
私にアイを倒すなんてことは、不可能だったのだ。
お前、そうか。ちくしょう。
だから、お前にわたしは倒せないなんて。ずっと嘲笑って。馬鹿にして。
轟音とともに、地を引き裂いて。
メリッサのバリアに大切に包まれて。
アイの本体が、ゆっくりと舞い上がっていく。
その姿、未だ空の彼方にあれど。
やはり心で。この世界の誰もがその姿を視ることができた。
まったくヒトの形をしていながら、ヒトではない何か。
しかしこれまでのような禍々しさとは、一線を画す。
莫大なオーラは白き衣となって、全身に纏われて。
まるで女神そのもの――圧倒的な神々しさすら放っていた。
私は……知っている。
だからか。だからだったの……。
星のあまねくすべてを支配し、そこに生きとし生けるすべてのものを卓越し。
許容性の水準にまで支配的な影響を与える。
私たちは、このような凄まじき超越的存在に対する適切な呼称を……もう知っている。
『星級生命体』アイ。
その本体は、ついに天へと至り。白日の下に真実の姿を晒した。
アルシア。アマンダ。イプリール。そして……メリッサ。
私以外のすべての女神の五体を、その内に喰らい宿して。




