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フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
I 前編

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23「ユウアイなるは至上の交わり」

「あ、あ……う、う、う……」


 わずかに残った理性で、私は呻くように泣いた。

 惨めに地に這いつくばって。そうすることしかできなかった。


「ああ。あああ、うあああ……!」


 何もできなかった。身動き一つだって取れない。

 せっかく自然回復しようとしても、触手が次から次へと力を奪っていく。

 まったく逃がすつもりなんてないんだ……。

 心底怯えていた。どうしようもなく怖かった。


 そして。ただ、見殺しにしてしまった……。


 なのに。その見殺しにしたはずの彼女が。


 そこにいる。そこにいるの……。


 アイが。イプリールの顔を貼り付けて。爛々と瞳を輝かせて。

 私へ馬乗りになって、楽しげに話しかけてくる。


「ねえ。わたくし、ずっとあなたをお慕いしておりましたのよ」


 知ってる……。

 そんなこと。もう、聞きたく、ない……。


「ですのに。あなたって、本当につれないものですから」


 ただ私の顔を見つめるだけで。

 アイはうっとりして、もうとにかくたまらない様子で。

 奪い取った彼女の手で、自らを抱きすくめていた。


「ああ、ああ。わたくし、こんなにも。こんなにもこんなにもこんなにも! あなたのことを愛していますのに!」


 激情に任せたまま、真紅の瞳がぐいっと覗き込む。

 全身を溶かして。アイ自身で私に絡み付いて。顔だけは目の前にあって。

 まだ食べられてくれないのと。何が足りないのと。

 アイは獲物を品定めするように、溶けたカラダでじっとりと這い回る。

 震えが止まらない。


「ユウ。昔ね。小さいときのあなたを見てからね。ずっと思っていたの。あなたはきっと、とても美味しいだろうなって。ゆっくりと、融かして……あなたは泣き喚くけど、痛くないよ、怖くないよって。こうやって、包み込めるから。ぜんぶ」


 アルシアとイプリールの顔が、半々に混ざり合って。


「わた(く)しは誰よりも、あなたを深く愛しているわ。そう――たぶんね。たぶん」


 人の心が理解できず、感情と欲望のままにしか動けないアイは。

 最後どこか、突き放したようにそう言って。

 私のそこを丁寧になぞりつけ、絡め取ってから、ねっとりと味わう。


「かわいそうに。こんなに薄汚れてしまって。って、わたくしがそうしたのでしたわね」


 いやに優しく、頬にキスをして。

 アイは、イプリールの声で。甘く甘く囁いてくる。


「ねえ、ユウ。こんな汚らしいもの、綺麗さっぱり洗い流してしまいましょう?」


 悪魔の笑みを浮かべて。

 液状化した触手の先端が、触れる。


「ひっ……」

「今度はわたくしで、いっぱいに埋めて差し上げますわ。大丈夫。痛くない、痛くないから」

「や……」

「たまらない。あなたって、とっても良い声で啼くものね。わたしと一緒にいっぱい気持ち良くなりましょうね。うふふふふふふふふふふふふふ」


 や、やめ。やめて――。



 ***



 ■■■、■■■■■■。


 ■■■■■■、■■■■■■――。


 ■■■■■■。■■■。


 ――――



 ***



 ほとんど薄れゆく意識の中。


 最後の気力を振り絞って、頭の片隅で必死に思考を続けていた。

 それももう、限界に近付いていた。


 だめ、もうだめ。耐えられない。


 これ以上は、本当に壊れてしまう。


 終わった。完全に詰んでしまった。

 逃げられない。アイに喰われて、やられる。


 ――そうだ。


 悪魔の発想が、不意に脳裏を過ぎる。


 ――今ここで、死ねば。


 私が死ねば。


 そうすれば、フェバルの自動修復機能が発動する。

 肉体は復活し、精神もある程度回復することができる。


 メリッサを見捨ててしまうことには、なってしまうけれど……。

 すぐに戻ってくれば。いや、本当に間に合うの?


 アイは夢中になり過ぎて、気付いていない。

 もう何時間も経っていることに。


 今、ほんの一欠片の魔力が戻ってきていることに。


 皮肉にもその原因となったものは、アイ自身が注ぎ込む歪んだ愛情だった。

 それは彼女自身の誇る豊かな生命力から注がれるもの。

 わずかながら、微量な魔力要素をも含んでいた。

 だけどかき集めても、ほんのちょっと。


 身も心も弱り切った今の状態では。

 このアイには勝てない。絶対に敵わない。


 けど、いいの……?

 ほんとにそれで、いいの……?


 どうする。どうしたらいい。


 いま、わたしは――。

A.自ら死を選ぶ → 次の話へ

B.ひたすら耐え続ける → 2話先の話へ

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