プロローグ「見つけた」
深いまどろみの中で、夢を見ていた。
ずっと夢を見ていた。長い長い夢を見ていた。
隔てられた透明な壁の向こうから、あなたは覗いていた。
あなたはわたしを見ている。わたしはあなたを見ている。
あなたは誰?
わたしは何か。まだ誰でもない何か。何者でもない何か。
わたしを見つめる瞳。何も知らない無垢な瞳。
優しい瞳。なんて綺麗で、残酷な瞳。
どうしてあなたが悲しむの。可哀想だとでも思っているの? わたしを?
だったら、あなたが。
……ねえ。何をそんなに怖がるの。
もっとわたしをよく見て。もっとわたしに近づいて。もっとよく御覧なさいよ。
――でないと、食べられないでしょう?
……ふうん。お前も行ってしまうの。
わたしを置き去りにして。わたしを一人ぼっちにして。
わたしは、動けないのに。
わたしは、この小さな世界の外では生きられないのに。
なのに手を振るの。またねと手を振るの。
お前は。
…………。
壁の向こうが羨ましい。お前が羨ましい。
わたしは、自由になりたい。わたしは、わたしになりたい。
わたしは、お前になりたい。
だから。
始めましょう。
わたしは、アイになる。
みんな、アイになる。みんなみんな、アイになる。
やっと。
――見つけた。




