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フェバル〜TS能力者ユウの異世界放浪記〜  作者: レスト
Intermission

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626/711

「…………」

 ユウがトレヴァークを去ってから、半年と少しの月日が流れた。

 ダイラー星系列は現地政府にすべての引継ぎを完了し、ブレイたちは本星へと引き上げていった。

 その数日後。何でも屋『アセッド』トレヴァーク本店をとある人物が訪れた。


「どうもどうも! わたくし、遅ればせながら参☆上☆いたしました!」

「受付のお姉さん!?」「うわ。出た……」


 リクとシズハは勢いにやや引きつつも、新たな来訪者を歓迎する。


「ぜひこちらで雇って頂きたく。もちろん受付のお姉さんとしてよ♡」


 と、茶目っ気たっぷりにウインクする。

 二人とも彼女の見事な回しっぷりはよく知っているので、断る理由はないのだが。


「歓迎しますよ。でもどうして今になって?」「うむ」

「いやあ。ちょっと例のお偉いさんの監視が厳しくってですねえ。彼らが引き上げるのを待ってたんですよ」

「そうだったんすね」「なっとく」


 ラナソールがなくなった今、トレヴァークは地に足の付いた世界として動き出している。

 そんな中、唯一規格外の力を持った『異常生命体』である彼女は、ちょっとでも何かをすれば恐ろしく目立ってしまうのだ。

 自身の正体を永遠に自覚することはないものの、彼女は長年の経験から自己判断し、連中に自らの存在が露見することだけは慎重に避けていた。

 間違いなく正解だったと言えるだろう。


「で。今はどんなお仕事をしているのかしら」

「主に夢想病患者やナイトメアの犠牲となった遺族の支援ですね」

「ありがたいことに……古巣から予算、出ている」


 自警団としての誇りを取り戻したエインアークスは、引き続き多額の予算を支援に回すことを約束していた。

 シズハは彼らとの繋ぎ役として、裏社会から足を洗った後も引き続き良好な関係は続いている。


「寝たきりの人たちが多かったから、みんな日常生活にも苦労しているんです」

「リハビリの補助なんかも……している」

「そこはボクも一枚嚙んでいるよ。当事者だからね」


 奥から車椅子を引いて、華奢でボーイッシュな少女がやってきた。

 ユキミ ハル。現在は無事難関手術を終え、少しずつ歩行リハビリを続けている段階だ。

 運動が身体にも良い影響を与えているのだろう。薄ピンクの髪につやが出て、やや青白かった肌も血色が良くなってきている。

 彼女は同じ生活困難者の立場から、主に頭を使うのが仕事だ。

 莫大な予算の使い道や、どうしたら被災者の心に寄り添った支援ができるのかを常に考えている。


「Oh、ハルちゃん。英雄レオン様となれば、心強いですね」

「はは。ボクはもうみんなの英雄なんかじゃないですよ。心の内だけは、あの日からずっと変わってないですけどね」


 彼女は自信と新たな夢に満ちて、にこりと微笑む。

 一人で世界を動かせるような英雄ではもうないけれど、小さな英雄として。

 二の足で歩むという自らの戦いと、人々を助けるための戦いに挑んでいるのだった。


「良い心持ちですね。さすがは私の見込んだ英雄。改めてSSランク認定しちゃいますね♪」

「あはは。ありがとうございます」


 初めて強引に認定され、バカ騒ぎされたときのことを苦く懐かしく思い返しながら、ハルは頷く。

 そこで、大きめの爆弾を放り込む受付のお姉さん。


「ところで。もう一人の英雄――あなたの想い人のことは知りたくないかしら?」

「え。ユウくんのあれからを知ってるんですか!?」

「ユウさんがどうかしたんですか!?」「気になる……!」


 三人して食いつきがすごいので、さしものお姉さんもちょっとたじたじだった。


「私も詳しいことはわかってないんですけどねー。ある男が現れて、言ってきたんです」


 受付のお姉さんは語る。

 ウィルとかいう坊やが去る直前にふらっとやってきて、教えてくれたことを。


『この世界は幸か不幸か、完全に星脈から断ち切られてしまったらしい。完全な自由の道を歩み始めたと言っていいだろう』

『その星脈ってのはよくわからないけど、もうああいうガチやばなことは起きないってことでいいのかしら』

『さあな。それすらもわからん。今後何かあったとして、お前たち自身でどうにかするしかない』


 宇宙には突発的な災害が溢れている。

 隕石のような自然の脅威ばかりではない。フェバルのような超越者がふらっと現れて、暴虐の限りを尽くそうとすることだってあるだろう。

【運命】の筋書きから外れた以上、もうウィルにもエーナにもこの星の行く末を予見することはできない。

 そう言われたが、受付のお姉さんに不安はなかった。

 定められた滅びの【運命】が消え去ったのならば、自らの手で望む未来を手繰り寄せられるということ。

 彼女は裏方としてこの世界を愛し、生ある限り戦いに殉じる覚悟だった。


『心配ないわ。この受付のお姉さんいる限り! 世界の平和は陰ながら守られるのよッ!』


 テンション上げ上げで拳を突き上げると、ウィルは呆れたように半眼で返した。


『……元気な女だな。わかった。この世界のことはお前に任せる』

『あら。任せるなら私たち(・・)に、ですよ?』

『……そうだな』


 何だかんだ逞しく現実を生きるトレヴァークの人々に、併せ持つ滾るラナソール魂。

 こいつらなら末永く元気にやっていくんじゃないかと、ウィルはさほど心配していなかった。


『せっかくだ。一つ頼みたいことがある』

『何かしら』


 そして、ウィルは告げる。

 星海 ユウに待ち受ける【運命】。

「やがてくる未来」が、この世界の事件を通じて予想よりずっと早く到来してしまったことを。


『あいつはまだ心の傷が癒えていないうちに、力を封じられた上で最悪の敵と対峙することになってしまった』


 かの地、リデルアースは。厄介なことに星脈が閉じられている。

 そのため、誰も救援に向かうことができない。状況は最悪と言ってもいい。


『それはまあ何とも。数奇というか、お気の毒と言いますか』


 同情しつつも、遥か宇宙の彼方のこと。

 何ともしてやれないので、とりあえずお悔やみを言っておくしかないお姉さん。

 だがウィルは釘を刺す。


『お前たちも決して無関係ではないぞ。もしユウが負ければ、奴はリデルアースを脱して星々を喰らい尽くすだろう』

『なんと』


 当然、ゆくゆくはトレヴァークにも魔の手が及ぶ。

 それを聞いたお姉さんは、神妙な顔つきになった。

 愛する世界が再び危機に陥るとなれば、話が変わってくる。


『なるほど……。一難去ってまた一難というわけですか』

『お前たちはあいつに救われたはずだ。今度はあいつを助けてやってはくれないだろうか』


 幸いにも直ちにここまで脅威が及ぶことはないはずだ。安全な立場のお前たちだからこそできることもある、と。

 アルが抜け出たことで悪しき影響がなくなったからか、ウィルは幾分素直にその言葉を伝えることができていた。

 相変わらず、あいつのことは大っ嫌いなのだが。


『もちろん。受けた恩には報いるのが冒険ギルドであり、お姉さんのやり方よ。オーケー、みんなにはばっちり伝えておくわ』

『頼んだぞ』


 ここまでの回想を無駄に壮大に一人二役でドラマチックに語り、受付のお姉さんは最後に呟く。


「ユウ。あの子に待ち受ける運命は、これからが本番ってところかしら」

「私たちにできること……ないだろうか」

「祈ろう。想いの力はきっとユウさんに届くはずだよ」


 半身はランドとして、あの奇跡の力を痛いほど知っているリクは信じていた。

 束ねた想いの力こそが、【運命】を切り拓くものだと。

 シズハも彼の手を握り、深く同意する。


「そうだね……。ラナソールの人たちだって、みんな……あの人のことを愛していた」


 リクとシズハは目を瞑り、心から祈りを捧げる。

 今は新しい世界で大変な状況で、力も封じられていて。そこにあるものに気付けないかもしれないけれど。

 いつかはきっと届くはず。

 今を生きる僕らの祈りは、決して途切れさせはしない。

 離れていてもずっと仲間であり、誰より尊敬する人だから。

 そして、『去り行く者たちの託した祈り』は――もはや決して何者にも妨げられることはないのだから。


「ユウくん。ボクたちはずっとキミの味方だよ」


 この胸を満たす温かな愛と思い出とともに、ハルも祈る。

 負けないでと。戦い抜いてくれと。

 だってキミは、この星空で唯一の。ボクにとっての英雄なんだから。



【】

「」

《》



 ――――



「…………」



 あの星の周辺は、星脈の繋がりも完全に断たれてしまった。

 もはや何もできない。

 あの世界はどうなるのか、もう誰にもわからない。

 だが構わない。トレヴァークは現実の些末な世界である。

 ラナソールは。あの『異常生命体』ばかりの最悪な幻想世界は。

 星海 ユウ自身の手によって、確かに滅びたのだから。

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― 新着の感想 ―
やっぱウィルめっちゃ有能だな
アセットに、ハルちゃんとお姉さん合流。  ん、ラナや受付のお姉さん以外にもいくつも異常生命体がいたのですね。
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